娘の生きづらさを否定し続けた私
娘は、私の事を思い出せなくなった。
「お母さん、今日は何して遊ぶ?自分、お母さんの手作りのハンバーグが食べたいなー」
大きなくまのぬいぐるみに抱きつきながら、今まで私に見せたことのない、笑顔で甘えている。
娘には発達障害がある、社会人になってもまともに働けなかった。
私にも発達障害がある、私は、負けなかった。冷たい環境で頑張って生きてきた。
だから、娘にも、同じように。接してきた。
娘は、発達障害のせいだ。頭がオカシイから、上手くいかないんだ。ばかり言う。
私は言った。言い訳だと。発達障害のせいして甘えるな。発達障害で出来ないことがあるからこそ、逆に頑張ろうと思えるじゃない。
言い続けた。結果徐々に家族との溝も深まり、
とうとう娘が壊れてしまった。
「美香?お母さんは私、それは違うの」
「誰?他人の事が嫌いなんだ。話しかけないでよ。ねぇお母さん、あの人怖いよ。守ってよ!」
娘に私の声が聞こえない。
「お母さん、今日ね、絵を描いたんだ。お母さんを描いたんだ」
引き出しを開け、出したのは、私ではなく、くまのぬいぐるみだった。
「そんな褒めないでよ母さん、照れてしまうだろう(照)」
「美香!!!」
娘を勢いよく抱きしめる。
「ごめん、ごめん。ごめんねお母さんが悪かった」
娘が引きつった顔で、鳥肌が立っているのを嫌でも感じてしまった。
「やめて!本当にやめてよ!!気持ち悪い。あんた誰?この家にいるのは私とお母さんだけだよ!?分かったら出てけよ、ババア」
娘は私を突き放した。
「私人が嫌いなんだ。お母さん。あの人怖いからさ、もう此処から出ていこ?だってあの人、出ていくつもりなんてなさそうじゃん」
そう言って娘は、テキパキとリュックに荷物を詰めた。
大きなくまのぬいぐるみを抱きながら、無言で家を出ていった。
静寂の中で、扉の閉まる音が空しく、響き。
取り返しのつかない事を感じながら、涙を流す。
愛する娘を失った悲しみ。
「美香は帰ってくるよね・・・好きだった、ハンバーグを作って待っとくべきよね」
私はキッチンに行って、作った。愛情を込めて出来上がったハンバーグは、良いにおいがする。
私は待った。日付が変わっても。
でも娘は帰ってこなかった。
何日も一週間経っても帰ってこなかった。
警察に捜索依頼を出して一か月。でも見つからなかった。
「ごめんなさい、美香。もっと受け入れてあげればよかった」
後悔の念は日が経つにつれて、強くなる。
ポトポトと涙は終わりを知らずに落ちる。
『お母さん』
あの声は二度と
娘の口から聞けないのだろう。