二人きりの二日間 〈番外編〉
番外編です。
時系列としては、アイとレンがまだ一年生の頃で、「わだかまり」の後のお話になります!
文化祭が終わってから間もなく、二年であるカイトは修学旅行に行ってしまった。
そして、学校に残った俺とアイは、必然的に二人きりに……
(ど、どうしよう。これから三日間の部活、アイと二人きりとか…)
俺は心臓の高鳴りをおさえられるか心配だった。
修学旅行に行く前日、俺はカイトからあることを頼まれた。
それは、アイと登下校をともにして欲しいということ。
理由を聞いても、女の子だから心配でしょ? としか言ってくれなかった。
まあ、言いたいことは分かる。アイはちょっと抜けているところもあるし、心配する気持ちは俺も同じだった。
そのことも相まって、余計緊張してしまう。
とりあえず昨日の夜アイに連絡して、翌日の朝、彼女から送られてきた住所に向かった。
すると…
(こ、ここが…アイの、家!)
俺の目の前に、一軒家が建っていた。まあ、そりゃそうか。
初めて見るアイの家を前に、俺は、空気に自分の心臓の音を溶け込ませるので精いっぱいだった。ちなみに、自分でも今何を言っているのかよく分かっていない。
「いってきま~すっ! …………レン!」
家の中にいるであろう家族に向かって叫んだ後、こちらを向いて俺の名前を呼んだ彼女は言うまでもなく可愛い。最近朝は少し肌寒くなってきていたから、アイの口から白い息が漏れ出しているのが見えた。
それを見て、俺はアイと最初に出会った頃のことを思い出す。あの日も寒くて、アイの口から白い息が出ていた。
「レン?」
勝手に恥ずかしくなって目を逸らすと、アイが不思議そうに顔を覗き込んできた。
「……はよ」
そう言う自分の口からも、白い息が出ていた。
「おはよ! 行こっか!」
朝から元気なアイの声を聞いて、俺も目が覚めた。
アイの登校時間に合わせたから、いつもより時間は遅かったけれど、緊張のせいで上手く寝付けなかったのである。
一日目の朝から幸福度が高い。それもこれもアイと一緒に登校できたから。
これがあと二日も続くのか。そして下校も一緒なんて。
俺は自分の机に頬杖をつきながら、にやけそうな顔を必死に繕い、窓の景色を睨んだ。
あっという間に時間が過ぎ、気づけば三日目になっていた。
明日にはカイトも戻ってくる。
嬉しいけれど、この夢のような時間が終わることに寂しさも覚えた。
控えめに言って、この三日間は最高だった。朝から帰りまで、実質アイを独り占め状態だったからだ。
普段は俺とカイトを前に、交互に話をするアイの目線が、この三日間は俺だけに向いている。それが、こんなに嬉しいことなんだと思うと同時に、自分は結構独占欲が強いのかもしれないことに気づいた。
カイトを邪魔に思っているわけでは決してない。でも、これまでアイと二人きりになることがほとんどなかったから、新鮮だったのだ。
「明日だね~」
放課後の部室、アイが窓の外を眺めながら、感慨深そうに言った。
「そうだな…」
アイの声色が少し嬉しそうに聞こえてしまうのは、俺がネガティブだからなのか。
「お土産、何かな! 楽しみ!!」
アイが俺を見て、にっこりと笑う。可愛い。
「そうだな…」
「レン、ちゃんと聞いてる?(笑)」
「聞いてるよ」
俺が同じ相槌を打っていたら、アイにツッコまれた。
だって、何だか面白くない。
アイがカイトの帰りを待ちわびているみたいな…
カイトには失礼かもしれないけど、この状況を寂しいと思っているのは、俺だけなのだろうか。
「レンとの登下校も終わりだねぇ」
「…そう、だな」
「ちょっと、寂しいかも」
「!」
アイの言葉に驚き、顔を上げる。
少しだけ彼女の頬が赤く染まったように見えたが、それは夕日が差し込んできているからだろうか。アイは窓の外を見ているから、表情もよく見えない。
これは…期待してもいいのだろうか。
「アイ…俺、」
「たっだいま~!」
俺の言葉と被さって、部室の扉が勢いよく開かれた。
「カイくんっ!」
アイが窓際から離れ、扉の横に立っているカイトに近づいた。通り過ぎた時に見えた彼女の横顔は嬉しそうだった。
「おかえり~! どうしてここに? お土産は?」
二人が話しているのを横で聞きながら、俺はやるせない気持ちになった。
アイの言う寂しいと、俺の言う寂しいはちょっと違うんだろう。悲しいけれど、それが現実だ。
「はい、レンの分」
そう言ってカイトから差し出されたのは、名物のお菓子が一箱と、ピアノのキーホルダー。
「ありがと、おかえり」
「ん、ただいま」
「これ…何?」
俺はキーホルダーを持ち上げてカイトに聞いた。
「向こうの体験で作った。レンのためにね」
それを聞いて、俺は罪悪感でいっぱいになった。
醜く嫉妬して、カイトが帰ってくるのがもう少し後ならいいのになんて思ってしまった、自分の器の小ささを実感した。
「あ、りがと」
「カイくん、私のは?」
「アイのはないんだよねぇ」
「え~!」
アイが残念そうに声を上げる。彼女の手には、俺と同じお菓子の箱が抱えられていた。
「レン、邪魔してごめんね」
カイトが、アイに聞こえないように俺に耳打ちした。
(! わざとか…)
彼は、タイミングを見計らって部室に入ってきたのかもしれない。一体いつからいて、俺たちの話をきいていたのだろうか。
あまり悪いとは思っていなさそうな顔で微笑んでいる。
そうだ、カイトはこういうやつだった。
「さて、帰ろうか」
俺の反応を満足そうに眺め、カイトはアイに言った。
「うん! レンも、途中まで一緒に帰ろ!」
「………おう」
こうして夢のような時間は終わり、翌日からはいつも通りの日々へと戻っていった。
俺が気持ちを伝えるのは、もう少し後になりそうだ。




