チャンス
61
「…アイ?」
翌日の昼休み。部室でぼーっとしながらお弁当を食べていた私に、カイトが声をかけた。
「…ん? 何?」
気づけばレンのことを考えてしまう。それが嬉しいような、恥ずかしいような…。
「今日はすごい上の空だね」
困ったように微笑むカイトに、私もエヘヘと笑い返す。
「もしかして…レンが好きって、自覚したの?」
「………はぁ!?」
あまりにも真正面から、ドンピシャで当てられて、わなわなと唇を震わせる。顔も熱いから、真っ赤になっていると思う。リンとカノンも、目を見開いてカイトと私を交互に見ている。
「ふーん。図星か…」
カイトは面白そうにニヤニヤとしている。
「そ、そんなに…分かりやすいかなぁ……」
それとも、カイトが鋭すぎるだけ?
「まあ、それなりには? で、いつ告白するの?」
「へ!?」
(そっか、告白…)
素っ頓狂な声を上げてしまったが、よくよく考えてみればそうだ。私はレンに告白された状態で、今はその返事を保留にしている。彼のことを考えれば、すぐにでも返事をするべきだ。
でも、自覚したばかりで…そんなことできる? 今までまともに恋愛したこともないのに?
「アイの気持ち、どんな形でもレンにはちゃんと伝わるよ」
「カイくん…」
「アイ先輩、告白するなら早いほうがいいですよ!」
「リン…」
「アイ先輩、頑張ってください」
「カノン…」
それぞれから慰めと、背中を押す言葉を言われて、私は胸が熱くなる。こうやって、応援してくれる人がいるからこそ、勇気が湧いてくる。
「うん、私頑張る!」
「あ、あの時みたいに挙動不審になるのだけは勘弁してくださいね」
「! リン、いつも一言余計!!」
気持ちを自覚してから初めて会ったレンは、とても眩しかった。
(あれ、レンって…こんなにかっこよかったっけ)
そんなことを考えた自分に対して、すごく恥ずかしくなる。当たり前のようにレンはいつも通りで、でも私にとってはいつも通りじゃなくて、上手く会話をできているのかも分からない。レンと話すの、緊張する。でも、レンがこっちを見て笑ってくれるのが、嬉しい。
(なにこれ、私レンのこと…めっちゃ好きじゃん!)
好き———って言ったら、レンはどんな反応をするだろう。彼の顔を盗み見て、勝手に口角が上がる。
喜ぶかな。嬉しいって笑ってくれるかな。俺も好きだよ…なんて言ってくれたり…。
「…アイ?」
「へっ! はい、何でしょう!」
レンの話をちゃんと聞けていなかった。私は慌てて現実に戻り、元気よく返事をした。
「ああ、いや…別に大したことは話してないんだけど…」
告白するなら早い方がいい、というリンの言葉がちらついて、そのことばかり気になってしまう。早いってどれくらい? もう今日伝えたほうがいいのかな?
「あの…今日、俺たち先に帰りますね。後は、お二人でごゆっくり」
「え、リン…?」
リンを見ると、呆れたような表情に少しばかり応援の眼差しを含ませて、こちらに頷いてきた。これは…もしかしなくても、告白のチャンスを作ってくれているのでは?
「二人とも、もう帰るの?」
いきなり帰る宣言をした二人に、当然ながらレンは驚きの表情を見せる。
「はい、まあ。たまには…良いですよね?」
「それは…もちろん」
別に私たちの部活は厳しいわけじゃない。ただ自然とみんなが集まるだけだ。だから、たまにはこういう日があってもいいと、レンも納得したのだろう。
「じゃあ…また明日」
「お疲れ様です」
リンとカノンがペコリと頭を下げながら部室を後にするのを、二人で見送った。
その直後、部室の様子を見ていたかのようなタイミングで、カイトから連絡が来た。
『今日、僕は先に帰るから。アイも頑張って』
さあ、舞台は整った。整ってしまった…必然的に!
これを逃したら…次のチャンスがいつ来るか分からない。
気を利かせてくれたリンとカノンのためにも、背中を押してくれたカイトのためにも…私は、伝えなければ…。




