自覚
60
「——はぁ」
「どうしたの? ため息なんて、珍しい」
部活帰り、リビングの椅子に座ってため息をついた私に、キッチンで夜ご飯の準備をしていた母が問いかけてきた。
カイトに話を聞いてもらって、少しは気持ちが晴れたと思っていたけれど、やっぱり部室にレンの姿が見えないとモヤモヤしてしまう。
「…お母さんはさ、お父さんと一緒にバンドやってたでしょ?」
「うん、そうだね」
野菜を切る、心地いい音が部屋に響く。
「……もし、どっちかが別のバンドにいくことになったら…どうしてた?」
「ええ、何急に。引き抜きってこと?」
「たっ、例えばの話ねっ!」
母は結構勘が鋭いから、話す時は気を付けないといけない。
「うーん……お父さんが望んで決めたことなら、応援してたかもしれないけど…」
「………」
やっぱり、素直に応援できない私は、ダメダメなんだな…。
「まあ、でも嫌かな」
「……え?」
続いた言葉に、驚いて顔を上げる。母はおちゃめな顔をして、微笑んだ。
「だってぇ、お父さんってとっても素敵な人じゃない? 他のバンドの子と仲良くしてるのとか想像したら、嫉妬しちゃう」
片手で頬を覆って甘い声を出し、惚気はじめた。いつもはやれやれと思いながら聞くことでも、今日だけは違った。
(え……嫉妬…?)
「もちろん、それだけじゃないよ。お父さんと一緒にバンドやるのが、すごく楽しかったから、悔しいとか寂しいとかも思ってただろうねぇ…」
私の中で脳内パズルががっちりとハマったような感覚になった。
(え、嘘でしょ。私…そうなの?)
「ただいまぁ」
「あ、おかえり~」
頭の中がぐるぐるしている所に、父の声が遠くで聞こえた。母もバタバタと父の元へお迎えに行く。
「アイ、ただいま」
「おかえり…お父さん」
母との話はそこで終わり、帰宅した父と三人で夜ご飯を食べたあと、イチャイチャする二人を横目に私は自分の部屋へ戻った。
明かりもつけずにベッドの上に座る。
さすがにそこまで鈍い私じゃない。
ここまできて、自覚しないのはもう意図的だ。
これは……紛れもない事実、認めざるを得ないこと。
「……気づくの、遅すぎ」
ポツリと呟いて、乾いた笑い声を漏らした。
私は……——レンが、好きだ。




