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独占欲

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「アイ、おはよ」


「………あ、おはよう。カイくん」



 修学旅行明けの朝、アイの家に向かい、玄関の扉を開けて出てきた彼女に声をかけたが、いつもの元気がない。原因は、レンからきた内容だろうか。



「修学旅行、楽しくなかった?」



 からかいを込めてそう言うと、アイは目を見開いて首をぶんぶんと横に振った。



「えっ! ううん、楽しかったよ!」


「じゃあどうして、そんな顔してるの?」



 寂しそうな表情。

 図星をつかれたアイは、気まずそうに眼を逸らし、乾いた笑い声をこぼした。



「! ———やっぱりカイくんに隠し事はできないや」



 困ったように眉を下げたアイを見て、静かに続きを促す。


 あの時は考えを放棄したけれど、結局僕はアイがこんな風になっているのを放っておけないんだな。



「カイくんも聞いたでしょ、レンの話」


「一年生の子にピアノ指導するってやつでしょ?」



 レンはご丁寧に僕にも連絡をくれた。昼休みは僕も部室にいるからだろうが。



「それね、私のおかげなんだって」


「ああ…」



 レンはアイに感謝している。常日頃バンドの役に立ちたいと感じているのが、伝わってきている。アイのおかげで、指導を引き受ける決心がついたということだろう。



「嬉しい、ことのはずなのに———なんかモヤモヤするんだ」


「へえ……」


「ちょ、ちょっと…ちゃんと聞いてる?」



 僕が気の抜けた相槌しかしないから、アイは僕が話を聞いていないと思って、不安そうにそう問いかけてきた。はは、可愛い。



「聞いてるよ。それで、アイはそのモヤモヤをどうするの?」


「………分かんない。最初は、寂しいんだと思ってた。でも、それもなんか違う気がして。素直に喜んであげられない自分が嫌だ、レンがせっかく頑張ろうとしてるのに…」


「………」



 うーん、それは一般的に嫉妬と呼ぶんだろうけれど、アイに言っても伝わらないし納得しないだろう。ただ、彼女の心にも変化が起こっているのは確かだ。ここで余計なことを言って、拗らせるようなことも面白そうだけれど、さすがにレンが可哀そうだよね。



「……それはさ、独占欲じゃない?」


「え? 独占…?」


「うん。レンってさ、今まではほとんどずっと僕たちと一緒にいたわけじゃん?

 だから、突然その環境が変わって…やっぱり寂しいんだよ。

 レンの魅力を、誰かに知られるのが———ちょっとだけ嫌だと、思ってるんじゃない?」



 僕はまだ自覚していない彼女に対して、諭すように優しく言葉をかけた。


 いつも意地悪ばかり言ってごめんね、これは助け舟だと…思ってくれるよね?



「………そう、なのかな」


「ふふ、僕にはそう見えたよ」


「それって…私、性格悪くない?」



 アイが信じられないという表情で、僕を見る。この表情は、自分に対するものだろうなとすぐに分かった。


 この子は本当に——優しくて、正義感が強くて、レンもアイも眩しいなぁ。二人といると、自分の黒い部分も浄化されていくようで、でもそれはただの錯覚だと、一人になった時に思い知るんだ。



「大丈夫。だってもし、僕が他のバンドに行きます~ってなっても、アイはモヤモヤするでしょ?」


「それは当たり前でしょ!」


「ありがと。だから、レンに対しても当たり前のことだよ」


「——うん、ありがとう。カイくん…」


「どういたしまして」



 まあ、レンに対するものは、僕のとはちょっとだけ違うだろうけど。そこまでは教えてあげない。わずかでも変化しようとしている二人の関係、それはアイ自身が気づかなければ意味がない。



「頑張ってね、アイ」


「———カイくんって、たまによく分かんないこと言うよね」



 僕のエールに気づかない彼女。おどけたように笑った顔をしたので、僕も微笑み返した。

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