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思いがけない返事

56

 結局、昼休みは部室に行くことができずに、ミコトと別れてすぐに教室に戻り、急いでお弁当をかきこんだ。



 そして放課後、いつも通り部室へ向かおうと荷物をまとめていたら、教室の後ろのドアが勢いよく開かれた。

 びっくりして視線を向けると、そこには俺のよく知る彼女が立っていた。



「レン!」


「え、アイ…?」



 アイが肩で息をしながら、俺の名前を叫んでいた。何事かと驚いて、荷物を手に彼女の元へ近づく。



「どうした…?」


「どうしたも何も…!」



 そこまで言ってからようやくアイは、周りの視線を集めていることに気づき、静かになった。



「と、とりあえず部室! 行こ!」


「おう…」



 アイの意図は分からなかったが、二人で部室に行けるのは嬉しい。普段は特に待ち合わせもしないから、一人で部室に行くことがほとんどなのだ。部室への道のりが、すごく短く感じる。


 しかも、なぜかアイに手をがっちりと掴まれている。

 どういうつもりだろう…。

 でもまあこんな機会、二度と訪れないかもしれないから…しっかりと味わっておかないと。暖かくて俺よりも小さなアイの手の温もりを感じられて、自然と口角が上がっていた。


 部室まで着くと、アイは俺の手を離した。安心する気持ちと、残念な気持ちが入り混じる。繋いでいた方の手をぼんやりと眺めた。



「あのさ、レン…」


「ん?」


「昼…休み、どこにいた?」


「え、ああ……ごめん、連絡するの忘れてた」


「……」



 やけに静かになったアイの様子に、ちょっとだけ戸惑う。彼女が怒っている?のは、何の連絡もなしに昼休み部室に行かなかったことだろう。確かに、連絡しなかったのは申し訳ないが…そこまでのことだろうか?



「そう、俺…そのことで話したいことがあるんだ」



 何の気なしに言ったことだが、アイは急に顔を青くして慌てだした。



「ま、待って!」



 俺が続きを言う前に、彼女に遮られる。



「………?」


「あ、えっと…その……り、リン! リンたちが来てからにしよう!」



 まあ確かに、全員に言った方が早いな。今後の部活に関わることではあるし。



「分かった」



 俺の返事に、アイはとりあえず一安心みたいな表情をした。そして目を伏せ、再び静かになる。



「……レン、あのさ…」



 不安そうな瞳の色、何か俺に求めているような…でもそれが何か分からない。アイが何を望んでいるのか、俺は察することができなくて…もどかしい。


 二人の間に妙な沈黙が訪れる。何とも言えない空気感。



「あ、レン先輩!」


「こんにちは~」



 その空気を破ってくれたのは、可愛い後輩たちだった。扉の近くに視線を向けると、嬉しそうなリンと、カノンが立っていた。



「リン、カノン」


「レン先輩、昼休みどうしてたんですか?」



 リンが俺に近づいて、可愛らしい顔でそう聞いてきた。

 メンバーも揃ったし、話してもいいだろう。



「実は、一年生の子に呼び出されて…」


「え! じゃあやっぱり告白!?」



 俺が話し出すと、リンが驚いたように声を上げた。


 ん? 告白————?



「いや、違うよ! 告白じゃない!」



 俺も言葉の意味を理解して、驚いた。びっくりしすぎて、いつもよりも大きな声が出てしまう。

 まさか、告白だなんて…。予想もしていなかったことだ。それに実際告白なんてされていないし…。



「よかった…」


「? アイ、何か言った?」


「へ!? な、何でもないよ!」



 小さな声が聞こえてきた気がしたが、気のせいだったみたいだ。

 アイはぶんぶんと首を横に振っていた。



「じゃあ続けるね。その子に、ピアノを教えて欲しいって頼まれたんだ」


「ピアノ…」


「ミコトさん、っていう子なんだけど…知ってる?」


「あ、委員長」



 ミコト、という名前に、リンが反応した。カノンと顔を見合わせ、コクリと頷き合う。



「俺たちと同じクラスの子です。クラス委員をやっていて、真面目で堂々としている感じの…」



 どうやら、俺の印象通りの子のようだ。



「ミコトちゃん、ピアノやるんだ…」



 カノンが感心したように、ポツリと声を漏らした。



「……それで? 返事は…?」



 そこまで黙って聞いていたアイが、俺の続きを促す。さっきまでの不安な瞳は消えて、真っ直ぐに俺を見ていた。まるで、信じているとでも言いたげに。

 彼女の期待通りの答えかは分からないが、俺は自分が言った言葉を思い出して、三人を見た。



「うん。俺、引き受けてみようと思う」



「………え?」

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