思いがけない返事
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結局、昼休みは部室に行くことができずに、ミコトと別れてすぐに教室に戻り、急いでお弁当をかきこんだ。
そして放課後、いつも通り部室へ向かおうと荷物をまとめていたら、教室の後ろのドアが勢いよく開かれた。
びっくりして視線を向けると、そこには俺のよく知る彼女が立っていた。
「レン!」
「え、アイ…?」
アイが肩で息をしながら、俺の名前を叫んでいた。何事かと驚いて、荷物を手に彼女の元へ近づく。
「どうした…?」
「どうしたも何も…!」
そこまで言ってからようやくアイは、周りの視線を集めていることに気づき、静かになった。
「と、とりあえず部室! 行こ!」
「おう…」
アイの意図は分からなかったが、二人で部室に行けるのは嬉しい。普段は特に待ち合わせもしないから、一人で部室に行くことがほとんどなのだ。部室への道のりが、すごく短く感じる。
しかも、なぜかアイに手をがっちりと掴まれている。
どういうつもりだろう…。
でもまあこんな機会、二度と訪れないかもしれないから…しっかりと味わっておかないと。暖かくて俺よりも小さなアイの手の温もりを感じられて、自然と口角が上がっていた。
部室まで着くと、アイは俺の手を離した。安心する気持ちと、残念な気持ちが入り混じる。繋いでいた方の手をぼんやりと眺めた。
「あのさ、レン…」
「ん?」
「昼…休み、どこにいた?」
「え、ああ……ごめん、連絡するの忘れてた」
「……」
やけに静かになったアイの様子に、ちょっとだけ戸惑う。彼女が怒っている?のは、何の連絡もなしに昼休み部室に行かなかったことだろう。確かに、連絡しなかったのは申し訳ないが…そこまでのことだろうか?
「そう、俺…そのことで話したいことがあるんだ」
何の気なしに言ったことだが、アイは急に顔を青くして慌てだした。
「ま、待って!」
俺が続きを言う前に、彼女に遮られる。
「………?」
「あ、えっと…その……り、リン! リンたちが来てからにしよう!」
まあ確かに、全員に言った方が早いな。今後の部活に関わることではあるし。
「分かった」
俺の返事に、アイはとりあえず一安心みたいな表情をした。そして目を伏せ、再び静かになる。
「……レン、あのさ…」
不安そうな瞳の色、何か俺に求めているような…でもそれが何か分からない。アイが何を望んでいるのか、俺は察することができなくて…もどかしい。
二人の間に妙な沈黙が訪れる。何とも言えない空気感。
「あ、レン先輩!」
「こんにちは~」
その空気を破ってくれたのは、可愛い後輩たちだった。扉の近くに視線を向けると、嬉しそうなリンと、カノンが立っていた。
「リン、カノン」
「レン先輩、昼休みどうしてたんですか?」
リンが俺に近づいて、可愛らしい顔でそう聞いてきた。
メンバーも揃ったし、話してもいいだろう。
「実は、一年生の子に呼び出されて…」
「え! じゃあやっぱり告白!?」
俺が話し出すと、リンが驚いたように声を上げた。
ん? 告白————?
「いや、違うよ! 告白じゃない!」
俺も言葉の意味を理解して、驚いた。びっくりしすぎて、いつもよりも大きな声が出てしまう。
まさか、告白だなんて…。予想もしていなかったことだ。それに実際告白なんてされていないし…。
「よかった…」
「? アイ、何か言った?」
「へ!? な、何でもないよ!」
小さな声が聞こえてきた気がしたが、気のせいだったみたいだ。
アイはぶんぶんと首を横に振っていた。
「じゃあ続けるね。その子に、ピアノを教えて欲しいって頼まれたんだ」
「ピアノ…」
「ミコトさん、っていう子なんだけど…知ってる?」
「あ、委員長」
ミコト、という名前に、リンが反応した。カノンと顔を見合わせ、コクリと頷き合う。
「俺たちと同じクラスの子です。クラス委員をやっていて、真面目で堂々としている感じの…」
どうやら、俺の印象通りの子のようだ。
「ミコトちゃん、ピアノやるんだ…」
カノンが感心したように、ポツリと声を漏らした。
「……それで? 返事は…?」
そこまで黙って聞いていたアイが、俺の続きを促す。さっきまでの不安な瞳は消えて、真っ直ぐに俺を見ていた。まるで、信じているとでも言いたげに。
彼女の期待通りの答えかは分からないが、俺は自分が言った言葉を思い出して、三人を見た。
「うん。俺、引き受けてみようと思う」
「………え?」




