表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/51

呼び出し

55


 文化祭、そしてカイトが部活を引退して、早一週間。カイトのいない部活にはまだ慣れないけれど、時間は淡々と過ぎていった。


 昼休み、お弁当を手に部室へ向かおうと教室を出た俺は、一人の生徒に呼び止められた。



「あの、レン先輩…ですか?」


「…え、はい」



 まさか俺が話しかけられるとは思わず、驚きながらも返事をする。

 俺に話しかけてきた子を、まじまじと見つめてしまう。


 黒縁の眼鏡に、二つに下げた三つ編み、アイのように綺麗な黒髪だなぁと思った。そして、意志を持った瞳と、きりっとした眉、きゅっと結ばれた唇で、こちらを見つめている。



「少し、お時間よろしいでしょうか」


「…はい」



 ぐいっと一歩近づかれて、真っ直ぐ見つめられたので、思わず返事をしてしまった。俺、何かしたっけ…?


 先輩呼び、敬語から、彼女が一年生だろうということは分かる。でも話したことはおろか、顔を見たことすらない。全く予想できなくて焦る。


 とりあえず、ぐんぐんと進んでいく彼女の後ろ姿を追いかけた。









「ここ……」



 そこは、かつてアイと再会した場所だった。中には一台のピアノ。


 教室内へと入り、真ん中あたりで歩みを止めた彼女は、くるりと身体を回転させて俺を見た。

 変に緊張して身体が強張る。



「初めまして。私は一年のミコトと申します。先ほどは、強引に失礼しました」



 そう言うと、深々と頭を下げた。すごく丁寧な人だ。そして、やはり一年生。リンやカノンと同学年ということになる。



「あ、いや…大丈夫だよ」



 反対に、俺はたどたどしい返ししかできなくて、情けないったらない。初対面相手でも、堂々としているアイやカイトを見習いたい。二人といると、俺もコミュニケーション能力が上がったかのように錯覚するが、どうやらそれは勘違いだったようだ。



「——えっと、それで?」


「レン先輩に、お願いがあります。——————私に、どうかピアノを教えてください!」


「———へ?」









 **


「レン、来ないね…」



 さっきから数分おきに、アイが部室の扉に注目している。レンが来るのを待ちわびているように。



「先生からの呼び出しとかじゃない?」



 だから、僕はそう言ってアイを諭した。


 僕はお昼の時だけ、こうして部室でみんなと過ごすと決めた。息抜きの時間は大切だし、何よりずっと会えないのは、寂しいからね。

 四人ともすごく喜んでくれたから、提案してみて良かった。

 その喜んだ中の一人であるレンが、昼休みを大分過ぎても部室に来ないのである。特に連絡も来ていないし、何か急用でもあったのだろうか。



「でもさぁ、連絡もないんだよ?」



 アイが不満そうに声を漏らす。



「告白…とか?」



 パンを片手に、リンが何気なく零した言葉に、アイの頬がピクリと引きつった…ように、僕には見えた。


 リン、それはあんまり言わない方が良かったかも。



「はっ……………いや、まさかレン先輩に限ってそんなことはないですよねぇ」



 僕の生暖かい視線に気づいたリンが、慌ててフォローしようとするが、それはかえってレンを傷つける刃に変わってしまった。無意識に言ったことだから、むしろ質が悪い。それがリンの本音だと言うことになってしまうからだ。



「こくはく……」



 アイがぶつぶつと言いながら、再びお弁当を食べ始めた。すっかり静かになってしまい、もくもくとご飯を食べ進めている。



 ま、いっか! 僕が知ったことじゃないし!



 気まずそうにするリンとカノン、考え込むアイを横目に、僕は考えるのを放棄した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ