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少しの期待

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 アイを目の前にして、ごくりと息を飲む。

 緊張しすぎて全身が震えている感覚に陥る。ずっと心臓がバクバクしていて、呼吸も荒い。


 アイは目を泳がせながら、話の切り出し方を探っているみたいだった。




「———あのね、」


 覚悟を決めたかのように、彼女が俺を真っ直ぐに捉えた。ビクンと身体が跳ねた…気がした。

 無言で、続きを促す。



「…ごめん。レンの気持ちに、今は答えることができない」



 ふっと全身の力が抜けたような感じがした。絶望とか、悲しさよりも…なんていうかすっきりした、みたいな。


「———ん? 今はって?」


 緊張が抜けた俺は、ふと疑問に思ったことを聞いた。


「その——私、レンのこと…今まで意識したことなくて、向き合いたいとは思ってるけど…現状でのことはちゃんと伝えておかないとって…」


「……その言い方だと、期待していい………ってこと?」


 アイは俺の気持ちと向き合おうとしてくれているということだ。ゼロがイチになったような、ようやくスタートラインに立てたような……


「……でも、向き合ってみて、レンの気持ちとは違うってなる可能性もあって——だから、期待させるようなことは、言いたくない」


 アイの瞳がゆらゆらと揺れていて、彼女の不安とか罪悪感とか、そういう負の感情がこちらにも伝わってきた。


 でも俺は…




「な………え、どうして…笑ってるの?」


 アイが驚いたように目を見開かせた。それに合わせて、口もぽかんと開いている。


「…だって、嬉しいから」


「え、え………どうして嬉しいの?」


 アイは意味不明といった様子で、俺を見ている。それがおかしくて、自然と口角が上がった。


「……少しでも可能性があるなら…俺は頑張る」


「!」


「プレッシャーになってたらごめんだけど…」


「ちが……………でも、レンの時間を無駄にするかも」


 アイは目を伏せて、苦しそうな表情をした。


 もし、アイが俺と同じ気持ちになれなかったとき、その時間で俺が他の人と恋愛できたかもしれないのに……みたいにアイは思っているのだろう。



「ない」


「………」


「俺はアイを好きになって後悔してないし、もしアイが俺の気持ちに応えられなくても、その時間が無駄だったなんて思わない。思いたくもない」


「レン……」


「だから、アイも正面から俺にぶつかってきてよ」


「………………うん、分かった! ど、ドンとこい!」



 アイは言葉通りに受け取ったらしい。顔を赤くしながらも意志の強い表情で、自分の胸をドンと叩いた。


「かわいい」


「っ! はぇ?」


「アイ、可愛い。……………俺、アイ以外を好きになるとか…考えられない」


 胸にためていた気持ちを言うのに、不思議と恥ずかしさは湧いてこなかった。正直に伝えられることが、嬉しくてたまらない。

 でも逆に、アイはすごい目を見開いて、耳まで真っ赤にして…困ったように瞳をうるませた。


 出会ってから今日まで、ずっとアイに見惚れている。


 一方的なこの気持ちが、もしかしたら変わるかもしれない未来に、俺は少しだけ期待を抱いた。

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