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おかえり

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「お騒がせしました、ごめんね」


 文化祭、休み明けの放課後。部室でカイトが頭を下げた。対面には、俺・アイ・リン・カノンが並んで立っている。


「うう、俺はカイト先輩が続けてくれるって決めたなら全然大丈夫です~」


 リンは、いつぞやのように涙を流しながら、そう言った。カノンも隣で頷いている。彼女の瞳にも涙が浮かんでいるように見えた。


「………カイト」


 文化祭以来、初めての対面。カイトに言いたいことは山ほどあった。アイから結果を聞いていたとはいえ、別に全部がすっきりしたわけじゃないし。


 俺が名前を呼ぶと、カイトはそろそろと頭を上げた。申し訳なさそうな表情で下手に出ているカイトは、正直調子が狂う。


 でも、一番に言うことは決まっていた。



「——おかえり」



「っ! ……ははっ、レンはバカだなぁ」


 カイトは再び俯くと、声を震わせてそう言った。



「おかえり、カイくん!」



 俺の隣で立っていたアイも一歩前に出て、カイトにそう声をかけた。


「———うん。……ただいま」


 眉を下げて微笑んだカイトは、今まで見たどんな表情よりも大人びて見えた。









「ということで、僕は部活に顔を出せなくなるけど…みんな頑張ってね」


 今日はひたすらに雑談をした。他愛もない話を続けて、多分この場にいる全員が、この時間が終わるのを嫌だと思っていた。


 でも、カイトの発した言葉に、今度こそ現実味を帯びていく。ただ、今回はしばしのお別れというだけ。寂しくない、大丈夫。そう自分に言い聞かせる。


 リンとカノンが、カイトに向けて応援の言葉を言っているのを、傍からぼーっと見つめる。


 すると、肩をトントンと叩かれた。

 隣を見ると、アイが俺を見上げている。


「…? どうした?」


 静かに肩を叩いてくるなんて、珍しいからびっくりする。


「あのさ、この後…ちょっと話したい」


 神妙そうな面持ちで、そんなことを言うから、俺の心臓がびくっと跳ねた。

 俺の脳内で、様々なパターンの話の内容が駆け巡る。

 良いことなのか、悪いことなのか。アイの表情は強張っている感じだから、良いことではないのかもしれない。


「アイ、レン、またね」


 脳をフル回転していた俺に、カイトの声が届いた。ぱっと顔を上げると、こちらを向いて微笑むカイトが、部室のドアの前にいた。


「おう、またな」


「カイくん、またね!」


 俺もアイも、カイトに笑顔を向けた。多分、カイトには悟られているんだろうが…


「あ、レン。登下校のことだけど、やっぱりいいよね?」


 それは、登下校は僕がアイと一緒にいてもいいよね?ということだろうか。別に俺はアイと付き合っているわけでもないし、二人の仲を引き裂きたいわけでもない。そもそも、登下校の話をしてきたのはカイトだし。


「どうぞ、ご勝手に」


 ちょっとだけむかついて、冷たい言い方をしてしまった。

 でもカイトはそんな俺の心情も察したようで、特に嫌な顔をすることもなく、笑顔で手を振り、部室を出て行った。


「——カイト先輩が安心して帰ってこれるように、頑張りましょうね!」


 リンが気合たっぷりの顔で、俺とアイに向かって言う。ただ、グーにした手が微かに震えているのに、俺は気づいた。

 だから俺は彼に近づいて、ゆっくりと抱きしめた。リンの不安とか、寂しさを包み込むように。アイもカノンに同じようなことをしていた。


 先輩のくせに、できることはこれくらいしか思いつかないけれど。リンにはいつも救われている。

 彼は俺の腕の中で静かに鼻をすすり、弱弱しい力で抱きしめ返してくれた。弟がいたら、こんな感じなのかなと思う。


「よし! 明日からまた頑張ろう!」


 アイが明るく言ったことによって、リンもカノンも気合を入れ直し、力強く頷いた。


「ってことで、私とレンはちょっとやること残ってるから、二人は先に帰っていいよ~」


「……あ、はい。お疲れ様です」


「お疲れ様、です」


「お疲れ~!」


「お疲れさま」


 リンとカノンが部室から出て行くのを見送り、二人の足音が遠ざかっていく音を静かに聞いていた。静かになる部室とは対照的に、俺の心臓の鼓動はどんどんうるさくなっていく。



 正直、怖い。アイがどんな話をするのか。


 アイが俺に身体を向ける。呼吸の音も伝わってしまいそうで、思わず息を止めそうになった。

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