協力者
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そこにたどり着くと、ドアは開いたままだった。中には一人の女の子の後ろ姿。長い黒髪が揺れている。
荒くなった呼吸を整えながら、ゆっくりと歩みを進める。
どうやら、俺が来たことにまだ気づいていないようだ。
俺が彼女の隣に並ぶと、ようやく顔をこちらに向けた。
「レン……」
今はもう涙は乾いていたけれど、さっきまで泣いていたのが分かるくらいには、アイの目の周りは赤く腫れていた。
「アイ…」
「ごめん、うまく…いかなかった」
彼女の震える声が鼓膜をくすぐる。
「…うん」
「か、カイくん…私、カイくんに、甘えてたって」
「…うん」
「…迷惑、かけてたって」
「…うん」
「……ずっと、ずっと悩ませてた」
「…うん」
「私、自分のことばっかりで」
「…うん」
「カイくんが悩んでること…気づけなくて」
「……うん」
「…いや、違う。………気づこうと、しなかっただけだ」
「………」
「カイくん、いつも笑顔で。私の我がまま、笑って聞いてくれて。……私、カイくんのこと…信頼してた、頼ってた。…だけど、本当は……ずっと、ずっと甘えてたんだ」
「……うん」
「カイくんの優しさに甘えてた。カイくんなら、大丈夫だって。悩みなんてないって、どこかで決めつけて…考えてこなかった。カイくんはずっと、私のために動いてくれてたのに……」
「………うん」
今、俺がアイにかけられる言葉って、あるだろうか。
彼女が口にしている懺悔の言葉を、遮るのは違う気がした。ただ頷くことしかできない。
「……私のは、感情論だって。………ねえレン、私…どうすればいい、のかな」
ここでようやく、アイは俺に問いかけた。
見上げた彼女の瞳からは、再び涙が流れていて、俺はそれが綺麗だと思った。
「…カイトの言ってることは、間違ってはない…と思う」
正直にそう伝えると、アイは目を見開いたあと、俯いた。多分、傷つけた。
でもここで、「そんなことない」とか、「アイは全く悪くない」とか言っても、何も成長できない。
それに、この言葉には続きがある。今の俺ができる精一杯。
「……でも、俺はカイトがむかつく」
「…えっ……?」
思った通り、俺の言葉に反応してアイが顔をこちらに向けた。驚いた顔をしているのが、見てとれる。
「いつも大人ぶって、余裕な感じ出してさ。んで、いきなりバンドやめるってか。…ふざけんな!って思うね」
カイトへの怒りをこめて、少しだけ声を荒げた。
「……ふっ……あはは」
(よかった)
ようやく、アイの笑う顔が見れた。
カイトは、アイが傷つくことを分かってて、話をした。覚悟をしていたのか、はたまた別の理由があるのか…分からない。
「俺のこれも感情論だけどさ、とにかく…カイトに勝ち逃げみたいにされるのは嫌なわけ」
「………」
「だから、ここは協力者を呼ぶことにする」
「…へ? 協力者…?」
アイが素っ頓狂な声をあげる。大分気持ちが落ち着いたように感じて、ほっとした。
俺はポケットにいれておいたスマホを取り出すと、すぐに電話をかけた。
「……あ、もしもし? あのさ、今から部室に来れる? ……うん、うん。人数は多いほうが嬉しい。うん、ありがとう。じゃあ、待ってる」
手短に用件を伝え、電話を切る。
隣でアイは、静かに俺を見つめていた。
それから一分後。
静かな部室で、廊下をバタバタと走る音がだんだんと近づいてくるのが聞こえてきた。
「お、お待たせしました!」
開いたドアに手をかけ、はあはあと肩で息をしながら、彼はそう言った。
後ろにはもう一人、人影が見えた。
「早かったね。リン、カノン」
「だって! レン先輩が呼び出すことってないから…」
リンは少し興奮気味に、話し出した。迷惑かとも思っていたが、彼はどことなく嬉しそうだ。
「リン、カノン……」
アイは説明を求めて、俺を見た。
役者はそろった。
「さあ、作戦会議を始めよう」




