泣き出した彼女
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そう、確かあれは…アイと出会って間もない頃、彼女の家の部屋で遊んでいた時のこと。
その時二人でおままごとをしていて、アイの旦那さん役をしていた僕。アイは母が用意していた飲み物を旦那さんである僕に渡そうとして、歩いていた途中に躓いて転んでしまったのだ。
飲み物とはオレンジジュースのことで、見事に僕の洋服に全部かかった。
アイが躓いてコップを手から離し、その中身が僕に被さるところが、まるでスローモーションのように見えたのを覚えている。
僕は驚いて目を見開き、ゆっくりと自分の服を見た。白いトレーナーを着ていたから、綺麗に一面オレンジ色に染まっていた。服からはオレンジの匂いが漂ってきていた。
「あ、あ……」
転んでひざをついていたアイが顔を上げ、僕の服を見る。
彼女が出した掠れた声に僕はハッとなり、急いでアイの元へ駆けよった。
「アイ、大丈夫? ケガしてない?」
かなり大胆にこけたから、膝を打っていたし、痛い所があるだろうと思い、背中を優しくさすった。
すると…
「ごめんなさい、ごめんね、カイくん……」
アイは眼からポロポロと涙をこぼし、僕の服をきゅっと掴んだ。
こんな状況でも、彼女が泣く姿は天使みたいで可愛いと思ってしまった。
「アイ、どこか痛い所ない?」
僕がそう聞くと、アイは涙を流しながら、ふるふると首を横に振った。
「なら良かったよ。僕のことなら大丈夫。オレンジのいい匂いするし、これはこれでいい感じでしょ?」
アイに罪悪感を持たせないようにと、一生懸命フォローしたつもりだったが、逆効果だったようだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「!」
アイは大きく口を開き、大声で泣き叫び始めてしまった。
「なになに? どうしたの!」
彼女の泣き声を聞きつけ、アイの母が大急ぎで部屋に入ってきた。
アイは母に抱き寄せられながら、それでも泣き止まなかった。
いつも笑顔で明るいアイが、こんな風に泣くんだと、僕は少し胸が痛くなった。アイのことを大人びていると思っていたけれど、今の彼女は年相応に見えた。
「はいはい、よしよし」
アイの母は、優しくアイの頭を撫でながら、ゆっくりと僕に視線を移した。
そして僕の服を見て、とても驚いた顔をした。
「あーなるほどね。カイくん、その服すぐに脱いで」
状況を察したアイの母は、僕に向かってそう言った。僕は戸惑いながらも、彼女の言った通りに着ていたトレーナーを脱いだ。
それを受け取ると、
「じゃあ、アイのフォローよろしく!」
と言って、そそくさと部屋から出て行った。




