馬鹿野郎?
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「アイ……」
声の方に視線を向け、その姿を捉える。
肩で息をした彼女が、そこにいた。少し怒っているような表情だ。
「……ごめん、カイくんと話してもいいかな?」
アイは、メイコの方に目線をずらし、真っ直ぐにそう言った。
メイコは一瞬戸惑いを見せたけれど、アイの言葉に大人しく立ち上がった。
そして僕を見て、
「先輩、私…頑張ります」
と宣言して、その場を立ち去った。
僕は何も声をかけることができず、ただその背中を見つめていた。
「隣、いい?」
「うん…」
僕の答えとほぼ同時に、アイは隣に腰を下ろした。
今、アイの顔を真っ直ぐに見れない。それは、どこか後ろめたい気持ちがあるからだ。
ここにアイが来た時、彼女が話す内容を察した。レンの差し金だろう。本当に、意地悪で優しいんだから。
「カイくん、バンド…続けないって、ほんと?」
「うん」
アイの問いに、僕は頷く。いずれはバレることだ。
「っ! ど、どうして…? 部活引退するのは分かるけど、どうしてバンド続けないことになるの?」
彼女は柄にもなく苦しそうな表情で僕を見つめた。どんな状況でも、しっかりと目を合わせてくるアイは、やっぱりすごいなと思った。
でも、その言葉や行動に期待してしまうからやめてほしいとも思う。僕が、アイの特別な存在みたいに思わせないでくれ。
内心そんなことを考えつつ、表情には出さなかった。アイの疑問に、僕はレンに聞かれたときと同じことを言った。
「……だから、僕はバンド続けないつもり」
「そんな…」
「それに…」
「?」
「アイのこと、僕の代わりに守ってくれる誰かが現れたからね」
(なんて…言ってみたり)
僕が結構勇気を出して言った言葉に、アイは黙って俯いてしまった。
やばい、さすがに気持ち悪かっただろうか。自分がアイを守ってきたみたいな言い方は、偉そうだっただろうか。
ここからどうフォローするか、必死に頭を回転させて考えていたが、アイのとった行動によって、僕の思考は停止した。
彼女は無言のまま、勢いよく立ち上がったのだ。
勢いがよすぎて風が巻き上がっていたし、僕の見上げた視界からはアイのスカートの中が見えてしまいそうだった。
思わず顔を逸らしていた。僕にそれは刺激が強すぎた。
すると、アイは僕の隣から、目の前まで移動してきた。
僕がもう一度彼女を見上げると、今度は仁王立ちで僕を見下ろすアイがいた。
彼女の表情がどこか怒っているように見える。やっぱり、言い方が良くなかったな。
「カイくんのっ…馬鹿やろぉぉぉぉ!」
怒りを含んだ泣きそうな声、この声を幼い頃にも聞いたことがある気がする。




