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意地悪

42

 観客の盛大な拍手と歓声に包まれて、俺は夢見心地だった。


 ステージが暗くなり、幕が下がると、アナウンスが耳に入ってくる。


 でも、俺は興奮でそれどころじゃなかった。

 去年も楽しかったのに、今年はそれ以上に楽しかった。目を閉じると、今もステージの上で見た景色が、鮮明に流れてくる。


 俺が感傷に浸っていると、カイトに肩を叩かれた。撤退しろ、ということだろう。

 一瞬で現実に引き戻された感じがした。俺の目の前では、一生懸命楽器を運んでいる、実行委員の人たちの姿が映る。


(やば…)


 俺はそそくさと、ステージから立ち去った。

 まだ興奮は収まっていないけれど、どこか冷静になった俺は、ステージ袖でアイたちを探した。


 アイとリンが話しているのを見つけ、近寄っていく。俺と同じくらいのタイミングで、カノンもやってきた。ステージを見終わって、すぐにこちらに向かったのだろう。


「あ、レン!」


 アイが近づく俺に気づいて、手を上げる。

 やり切ったという笑顔で、俺を見ていた。多分、俺も同じような顔をしているだろう。


「レン先輩…」


 リンは、無事にステージが終わって安心したのか、すでに涙目になっていた。そんな彼の背中を、カノンが優しくさすった。


「最高だったね!」


 一応声のトーンを落として、アイが言った。その言葉に、俺もリンも、カノンも頷く。カノンに関しては、首がもげる勢いで頷いていた。彼女の目からも、興奮具合が感じ取れる。


 俺は三人を微笑ましく見つめながら、もう一人の人物を探して、キョロキョロ視線をさまよわせた。だが見つからない。


「レン…?」


 俺の様子に、アイが首を傾げた。


「あ、カイト……知らない?」


 そう問うと、


「それが…私がステージ袖に来た時には、すでにいなかったんだよね…」


 と答えた。


 俺は文化祭前に聞いていた、カイトの悩みのことを思い出した。そういえば、文化祭が終わったら考える…とか言ってたっけ。


 そうやって、俺には相談しないつもりなのか? 


 カイトは人には気を遣うくせに、自分のことはあまり大切にしていない気がする。俺が言うのもあれだけど…

 もしかして、今もどこかで一人、考え込んでいるのではないか。そう思うと、俺はどうしようもない気持ちになった。


 今さっきステージが終わったばかりで、現実に戻すようだが、それでも俺はこうする以外思いつかなかった。


「アイ」


 俺は彼女の名を呼び、耳元でこう言った。


「!」


 俺の話を聞いたアイが顔を青ざめさせ、唇をわなわな震わせた。


「だからさ…ちょっと、行ってきて」


 最後にそう言うと、


「ごめん、ありがと! レン!」


 すでに走り出していたアイは、俺を振り返ってそう叫んだ。


 長い黒髪が走ることによって風にさらわれて、無造作に揺れる。その後ろ姿を、目に焼き付けていた。


 カイトには、少しは悪いと思っている。でも、後悔はない。いつもいじられているんだから、これくらいの意地悪は許してもらわないとな。

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