君の歌声
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ステージの上に立つと、観客席がとても遠く感じる。
でも観客のざわざわとした雰囲気はこちらまで伝わってきて、俺は緊張しそうになった。だから、すぐにアイへと視線を向ける。
後ろ姿で、今は照明もついていないからぼんやりとしか見えないが、確かにそこには黒髪の女の子が立っている。
(うん、大丈夫)
胸に手を当てて、そう言い聞かせる。これももう定番になったな。
準備ができてアナウンスが鳴り響く。
照明がつく寸前、アイがこちらを見た…気がした。一瞬でよく見えなかったし、すぐにまばゆい光によって俺は目をつむってしまったから真相は分からない。
でも、不思議と気持ちが落ち着いていた。
俺たちにスポットライトが当てられると同時に、カイトがスティックを鳴らした。
一曲目は、最近流行っているアニメの主題歌だ。
自分たちの弾きたい曲を弾くのもいいけれど、色々なジャンルに触れるのもいいんじゃないかというカイトの提案により、この選曲となった。
これをきっかけにアニメを見てみたが、見事にハマってしまった。
よくある恋愛ものかと思いきや、登場人物たちの感情が結構リアルに表現されていて共感できるのと、恋愛だけにとどまらず、友情や家族の絆もテーマとなっている。
俺は、このアニメの恋愛の部分を自分と重ね合わせて、感情移入しながら見ていた。
主題歌は作品の青春を詰め込んだような曲で、流れるようなメロディーと爽やかでありながら力強い歌声が特徴だ。
今まさに、アイが歌っているような感じ。
もちろん、本家の歌声とは違うけれど、アイの歌声は透明さや切なさもプラスされているような気がして、俺的には結構解釈一致だった。
観客席の方を見ても、ほとんどがアイに目を奪われているのが分かる。
俺はひたすらに指を動かしながら、その歌声に耳を傾け、ただただその空間に染まっていた。
ステージで演奏できるのは二曲で、練習ではそれだけを集中的にやっていたから、正直飽きてしまうこともあった。
でもやっぱり本番となると全然違う。とにかく楽しくて仕方ないんだ。
この状況を作ってくれたアイに、改めて感謝してしまうくらいに。
今は全てを忘れて、この感覚に浸っていよう。
「初めまして~Imperfectです!」
片手をあげ、観客に手を振りながら話始めるアイ。今年も去年同様、MCは彼女に任せている。一応リンに聞いてみたが、絶対にやりたくない! と言っていた。
アイの声に、「知ってるよ~」「初めましてじゃないよ~」と叫ぶ声が聞こえた。
多分、俺とアイの同級生のノリのいい男子だと思う。
「あ、そうか! じゃあ初めましての人は初めまして。そうじゃない人は、また聴きに来てくれてありがとうございます! これからどんどん有名になるので、今のうちにファンになっておくといいですよ~! というようなことを去年も話したと思います!」
観客席から笑い声が聞こえる。会場が一気に楽しそうな雰囲気になり、まるでアイは観客一人一人に話しかけているような感じだ。
「まずはメンバー紹介から! ドラム三年のカイト、キーボード二年のレン、私ボーカル二年のアイ。そして、私たちのバンドに新たなメンバーが加わりました! ベース一年のリンです!」
アイがカイトと俺を順に指していき、最後リンに向かって手をキラキラとさせる。俺とカイトは軽く頭を下げ、リンも慌ててペコリと頭を下げ、会場は暖かな拍手に包まれた。
「あんまり時間もないので、次の曲紹介に移ります! 次の曲は、去年も新入生歓迎会の時も演奏した、私たちのバンドが大好きなアーティストのうちの一曲です! なんと、私ボーカルだけじゃなく、ギターも弾かせていただきます! これからも未完成な私たちが完成に向かって演奏する姿を、見守っていてくれると嬉しいです! 私たち、まだまだ成長し続けます! 最後になりますが、今日聴きに来てくださったかた、本当にありがとうございます! 次の曲も楽しんでいってください~!!」
そう言って締めくくり、マイクを持っている手を下げた。会場は大きな歓声に包まれる。
アイは元々話すのが上手だったけれど、去年に比べてMCが上達しているように感じた。どんどん成長する。俺も、アイも、みんなも。
アイがギターのストラップを肩にかけ、セットをする。少しだけ音を出して、確認すると、後ろを見て頷いた。
次の曲を始める合図だ。
俺たちが大好きなアーティスト。大好きな曲。
軽快な前奏から始まるこの曲。季節で言えば、夏だ。ただどの季節に聞いても良いのは変わりないけれど。
歌声までの期待を高めるような前奏。
曲の爽やかさとは反対に、少し暗めの内容の歌詞。それでも前向きさを捨てていない、上を見上げていけるような、そんな曲だ。
アイは本当にこの人の曲に合う歌声を持っている。いつも俺の想像をはるかに上回ってくるから目が離せない。
ずっと、ずっとアイの歌声を聞いていたい。




