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緊張

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 何度舞台に立っても緊張する。それはずっと変わらないのだと思う。


 去年の文化祭、今年の新入生歓迎会、どれもその時できる最高の演奏をしてきた。


 そして今年の文化祭、新たにリンが加わった。

 新体制での俺たちの演奏を届けるのは、これが初めてだ。


 緊張の中に、期待とワクワクが入り混じる。

 父と母も、ステージを見に来ると言ってくれた。頑張らなくては。


 舞台袖、前の人はダンスを発表している。今流行りの曲に合わせて、激しいダンスを踊っていて、会場はとても盛り上がっている。


「リン…?」


 俺がふと周りを見回すと、一人ガチガチに身体を固まらせ、顔を青ざめさせた男子がいた。リンだ。


 カノンは客席で演奏を見たいと言って、舞台袖には来ていなかった。


 俺の声に、リンが反応してこちらを向くが、顔が死んでいる。死んでいるというか、泣きそうと言った方が正しい。


 あーこれ、何だろう。俺よりも緊張している人を見ると、逆に冷静になれるというか。

 すっかり俺の緊張は収まっていた。


 アイとカイトは、実行委員と何やら話をしているし、この場でリンを励ませるのは俺しかいない。

 俺はリンに近づいて、彼の手を自分の手で包み込んだ。


「大丈夫」


 小さな声でそう呟き、手に力を込める。

 わずかに手が震えているのが伝わってくる。

 リンが目を潤ませて俺を見る。

 これ以上、かける言葉が見つからない。


 彼は入部してから今まで、本当に努力していた。これでもかというほど練習に熱心に取り組んでいたし、演奏も完璧だ。

 それでも不安になる気持ちは分かる。俺は目線を俺とリンの手元へと移して、考え込んだ。


「大丈夫、俺たちもいるから」


 そう言って、もう一度リンをしっかりと見つめた。


 俺の手に、暖かい手が重なる。

 いつの間にか来ていたカイト、アイがそれぞれ手を重ねていた。


「大丈夫、私たちは最強だから!」


「うん、いつも通り演奏しようね」


 アイとカイトも、リンに声をかける。

 リンはようやく少しだけ落ち着いたみたいで、大きく深呼吸をした。


「リン。緊張したら、私のことだけ見ていて」


 リンの頬を包み込み、至近距離でアイがそう言った。

 リンにはカノンがいるから良かったけど、他の人にそんなことやってたら大変なことになっていただろうなと思う。ていうか、リン相手でも嫉妬するんだが。


 そんなことを思っていると、ステージは拍手と歓声に包まれていた。

 どうやら前の発表が終わったようだ。


 発表を終えた人たちが、高揚感に包まれた様子で舞台袖にはけてくる。

 その様子に、冷静になっていたはずの心臓が再び高鳴り始める。


(やばい…)


 俺は気を紛らわせるために遠くを見ていると、肩を優しくたたかれた。


 ゆっくりと後ろを振り向くと、アイが笑顔で立っていた。


「今日も、最高の演奏届けようね!」


 俺たちを紹介するアナウンスが流れながら、それでもアイの声はしっかりと俺の耳に届いた。透き通った綺麗な声。


 これからステージで客席を魅了するであろうその声。今だけは俺のものだ。


「おう」


 俺はアイを見て微笑むと、ステージに向かって一歩足を踏み出した。

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