和解
38
その日の部活が終わり、リンとカノンを帰すと、部室には俺とアイ、カイトが残った。
「アイ」
俺が彼女に話しかけると、背中を見せたままの彼女がこちらを見ずに、
「ん~?」
と明るい声を出した。
「二人で話したいんだけど…」
「!」
アイの肩が一瞬上がる。だが、こちらを見るわけじゃない。
「じゃあ、僕は下で待ってるね」
カイトは俺が何をするのか察して、荷物を持ち上げるとそう言った。
「っ!カイくん……」
彼女の視線がカイトに向く。助けを求めるような目をしているのだろうと、声色で分かった。
「ま、頑張って」
そんなアイにカイトは少しだけ微笑んだ後、俺の肩を叩いて耳元でそう囁いた。そうして、カイトは部室から出て行った。
「………」
「………」
アイと一緒にいるとき、こんなに沈黙が続いたことがあっただろうか。彼女と目が合わないことが不安で、悲しくて、寂しい。
「アイ、こっち…見て」
俺はアイの背中にそう声をかけるも、彼女は振り向いてくれない。まあ、顔が見えない方が話しやすいか。
「じゃあ、そのままでいいから聞いて」
「………」
彼女の無言を肯定と捉え、俺は話を続ける。
「俺がアイに言ったこと、忘れて欲しいんだ」
「!」
俺がそう言うと、彼女はすぐにこちらを向いた。その顔は驚きと少しの戸惑いを入り混ぜたようなものだった。
言葉が足りなかったと焦った俺は、すぐにこう付け足した。
「ごめん、告白したことを忘れて欲しいわけじゃなくて…。アイが俺を変に意識してるのは、俺が告白した時、これからアピールするとか言ったからだよね…?」
ほとんど確信していたことだったが、一応疑問形で聞いてみた。
俺が話しかけるたびに彼女が挙動不審になったのは、どんなアピールをされるのか、身構えてしまっていたからだろう。そして、彼女はその気持ちに応えることができないから、そもそも話をすること自体避けていたのだと思う。
アイは俺から視線を逸らして、下を向いた。それは肯定を意味しているものだった。
「それを一旦、忘れて欲しいってこと」
「………」
「最初は、アイが俺を意識して狼狽えてるところを見るのが、正直面白かった。でも、今は…アイと今までみたいに話せなくなる方が嫌だって思った、から」
何だか告白した時より緊張している気がする。それに、あの時より言葉が上手く出てこない。
自分の気持ちを伝えるのって難しい。
「俺は…文化祭のステージを成功させたい」
カイトのためにも、自分のためにも。
「だから、そのために…アイにはいつも通りに戻って欲しいんだ。……ごめん、自分勝手で」
自分から告白しておいて、忘れて欲しいなんて言って、俺は今わがままを言っている。
「…………レン、は…それでいいの?」
それでいいの?とは、俺の話を一旦忘れて欲しいと言ったことだろう。
「うん」
俺がそう頷くと、アイは少しだけ目を伏せて考えた後、
「分かった。…私こそ、ごめんね」
俺と目を合わせて、少しだけ微笑んだ。
こんなに真っ直ぐ彼女の目を見たのは、久しぶりだ。
最近は後ろ姿ばかり見ていたから、目が合っただけでも嬉しくて泣きそうになる。
それを言ったら、またアイの様子がおかしくなってしまうだろうから、内緒だけど。




