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考え事

36

 合宿を終え、俺たちは再び学校での練習を再開した。

 刻一刻と本番は近づいているのに、いまいち息が合っていない。


 原因は分かっている。

 あの日からずっと考えてはいるが、いい案が思いつかない。


 アイも、合宿中みたいに俺を避けたりはしなくなったが、まだまだいつも通りではない。目が合えばそらされるし、話しかけてもテンションがおかしかったり。


 それに、カイトの様子も…おかしい。

 俺が気にするのも筋違いというものかもしれないが、それでもやっぱり気になる。


 俺もリンもお手上げ状態。カノンもいつも困ったように俺たちを見守っている。

 二人のためにも早くどうにかしたいと焦る気持ち、練習もちゃんとしなければいけないという戒める気持ち、いろんなことが押し寄せてきて大変だ。

 夏休み明けすぐに文化祭だというのに、このままでいいのだろうか。





 いつもより早く目覚めた俺は、午後から練習だったのにも関わらず、早めのお昼を済ませ、学校に向かっていた。

 合わせの前に個人練習できればいいなという気持ちがあった。


 グラウンドや体育館の方角から、運動部の元気な声が聞こえてくる。外の暑さも相まって、さらに暑苦しく感じる。

 下駄箱に入ると日陰だからか、幾分ひんやりと感じた。靴を履き替え、いつも通り部室に向かう。






 部室のスライド式のドアを開けると、窓のそばに先客がいた。


「カイ…ト」


「…レン?」


 窓際から景色を見ていた彼が、俺の声に反応して後ろを振り返る。


「早いね、自主練?」


「まあ、そんなとこ。カイトは…?」


 あの日から、ろくに会話もしていなくて気まずいと思ったけれど、案外そんなこともなかった。多分、カイトのおかげだ。


「僕は……ちょっと考え事かな」


 普段なら考え事をしていてもはぐらかすような人なのに、今日のカイトはやけに素直だと思った。


「…意外?」


 彼の問いに首を横に振る。誰だって、一人で考えることはある。カイトだって、絶対に悩みを抱えているのは分かる。それが何かは気づかれないようにしているみたいだけど。


「話したいなら、聞くけど」


 ぶっきらぼうにそう言った。どうしてこんな上から目線でしか言えないのか。そんな俺に、カイトは少し微笑んでから、口を開いた。


「レンは…高校卒業した後のこととか、考えてる?」


「……?」


 そう言われて初めて、自分の将来のことを考えてみた。いつも今しか見ていなかった俺は、高校卒業してからのことをちゃんと考えていなかったのだ。


「…大学進学はしたいと思ってる。でも、それ以上のことは特に……」


「そうだよね、僕もそう考えてる。…でも、その後は?」


「…え?」


「大学を卒業した後は?」


「…………」


「もっと具体的なことを言えば、バンドは?どうするの?」


「そ…それは、」


 言葉に詰まる。確かに、バンドのことは考えていなかった。常に頭の中にあって、俺にとって当たり前の存在だから。


「現実的に考えて…僕は、このバンドを続けられるのか分からない」


「!…は?何で?」


「僕はこれから受験本番で、大学に入った先も、予定を合わせて集まるのは難しいと思う。それに、音楽で食べていくなんて一握りだっていうのも分かってるし、趣味として続けるには…時間とお金がかかっちゃうかな~って」


 カイトの言うことはとても現実的だ。ずっと悩んできたのだろう。


「文化祭で一応引退しようかなって考えてる」


「…アイ、には?」


「言えてないよ」


「………」


 簡単に続けて欲しいなんて言えない。

 ドラムだって今は学校のものを借りていられるけれど、これからは自分のものを買うか、他から借りるかしかないし、集まる場所もスタジオとかを予約しなければいけないだろう。

 そういうことを考えると、彼の言うことは正論で的を射ているとは思う。でも…


「嫌だ」


「………」


「俺は、カイトがバンドから抜けるのは嫌だ。アイも、多分そんなことになったらバンド続けないと思う」


「…だよね」


 カイトもそれが分かっているから、彼女に話せないのだ。


「………」


 それ以上は考えても何も言えなくて、頭の中で考えをまとめては消して、まとめては消してを繰り返して、結局無言が続いた。




「あれ、二人とも早いな」


 俺たちの重たい空気を破ったのは、カサネ先生の声だった。部室の扉から覗き込んでいる。


「先生、こんにちは」


「…こんにちは」


 カイトに続き、俺も挨拶をする。


「おう!どうした、暗い空気だな!」


 空気を読んでいるのかいないのか、よく分からないテンションで、先生がぶっこんできた。

 俺はどうしたらいいのか分からず、カイトの方を見た。すると、


「僕の…進路のことでちょっと話をしていたんです」


 と素直に打ち明けた。今日はやけに素直だ。先生に悩みを打ち明けるタイプじゃないだろうに。それほどまでに追い詰められていたということだろうか。

 カイトの悩みに気づけなかったことが悔しい。


「そうか…」


「………」


「………」



「先生な、本当は勉強あんまり好きじゃなかったんだ」



「…?」


 先生の言葉に、俺とカイトは耳を傾けた。

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