後悔?
35
やらかしたかもしれない。いや、確実にやらかした。
アイの様子がおかしい。
正確に言えば、俺が話しかけた時だけ、挙動不審になる。
これは決して自惚れではない。事実だ。
嫌な予感がする。
「アイ…」
「あーごめん!今の所もう一回やろっか!」
「………」
防音室で合わせをしている時なんか、こちらを一切見ないし、俺が話しかけようとすると、話を遮ってくる。
照れ隠しだと分かっているし、意識しているのだと思うと嬉しい気持ちもある。でも、普通に話せないのはもどかしい。
こんなことならいっそ、告白なんか……いや、それは違う。
告白したことを後悔しそうになるも、俺はすぐに自分を立て直す。
かと言って、まともに話もできないアイに、どうやってアピールすればいいのだろうか。
恋愛経験というものがなさすぎて、全く分からない。
カイト……にはさすがに相談できないし、彼とも少し気まずいままだ。そうなってくると…
「ちょっと、休憩しようか」
カイトがそう声をかける。
それを合図に、俺はもう一度だけ挑戦を試みてみた。
「アイ…」
彼女はこちらを振り向かずに、
「ごめん!トイレ行くね!」
と言って早々に防音室を出て行った。
彼女に向かって伸ばした手は行き場をなくしたまま、俺の口からは思わずため息が漏れる。
「リン、ちょっといい?」
俺は目線をずらし、彼に声をかけた。
「あっ……」
リンは気まずそうに、カイトの方を見た。様子をうかがっている。
「いいよ、行ってきな」
カイトは優しく微笑み、俺とリンを送り出した。
俺はリンを連れ、別荘のベランダに出る。
柵に手をかけ二人並んで立ちながら、外の自然を眺める。
「…………」
連れ出したはいいものの、どこからどこまでをどう話せばいいのか、考えあぐねた。
「レン…先輩、大丈夫ですか?」
リンがおずおずと、俺を見上げる。
「あ…うん、ごめんね。リン、やりづらいでしょ」
さすがにリンも、アイや俺、カイトの様子がおかしいことには気づいているだろう。せっかくの合宿だったのに、こんな空気にしてしまったのは申し訳ない。
リンは何一つ悪くないのだから。
「いえ……その、俺、実はあの朝起きてて、二人の会話聞いてしまったんです」
「え……」
「二日目の、朝です」
そう言われて、俺はリンが朝ごはんの時よそよそしかった理由が分かった。なるほど、その時からずっと気を遣わせてしまっていたというのか。
「別に、先輩たちに謝ってほしいわけではなくて…でも、俺も気まずいのは嫌だから…」
リンは、アイに対しては結構生意気を言うけれど、俺やカイトのことは尊敬してくれているみたいで、本当に心配してくれているのが伝わってきた。
「うん。俺が…どうにかするから大丈夫。しばらく、気まずくなっちゃうかもしれないけど……」
そう言って笑うと、リンは少しだけ表情を和らげてくれた。良かった。
「……話聞くくらいならできますから」
「ありがとうね」
俺はそう言って、彼の頭を撫でた。




