動揺
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(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう‼)
部屋に籠ってぐるぐると考える。
今さっき、レンに告白をされた。
好きだと、言われた。
全く考えていなかった。自分が誰かに好かれることを。
いや、告白されたことがないと言えば嘘になる。
でも告白してくれる人は、大体ほとんど私と話したことないような人で、私自身を知らない人ばかりだ。
だから、私を知ったうえで好きになる人なんて、この世にいないとさえ思っていた。それなのに……
さっきのレンの顔、言葉、思い出すだけで顔から火が出そうなほど熱くなる。
どうしよう………
「アイ」
「⁉」
私の部屋の扉がノックされる。それは聞き覚えのある声。カイトだ。
大慌てで扉に近づき、ドアを開ける。
「カイくん、どうしたの?」
「朝ごはん、できたから呼びに来た」
カイトはそう言って微笑む。その表情に少し安心する。
「そういえば……今日の朝、私のこと呼び出したよね。カイくん来なかったけど……」
そう言うとカイトは、何を考えているか分からない顔で私を見つめた。
「あーごめん、忘れてた」
それが嘘であることはすぐに分かった。でも、それ以上何も言えなかった。カイトの雰囲気がこれ以上は聞くなって言っていたから。
「そっ……か」
「アイ……、今日レンと話した?」
「⁉」
唐突な問い、そして名前に反応して、私の顔は自然と熱くなっていく。カイトは何かに気づいているのだろうか。
「へ⁉ど、どうだったかなぁ~。あ!朝ごはんだよね!すぐ行かないと~!」
私は不自然に話題をそらすと、そのままカイトを通り過ぎ、部屋を出た。
「………」
「あ、アイ先輩!おはようございます」
リビングに入ると、すぐにカノンが声をかけてくれた。キッチンの方で、何か作業をしているみたいだ。隣にはリンもいて、彼女を手伝っている。
リビングの中は、いい匂いが漂っている。
「カノン、リン、おはよ~!」
「先輩、今日は早起きですね」
リンが嫌味っぽくそう言ってくる。でも、今は彼のその感じに安心する。自分の動揺が悟られないように、普通に返事をする。
「今日はって何だよ!言っとくけど、今まで私、学校遅刻したことないし!」
「本当かよ(笑)」
そう言って笑いながら、私に近づいてきたのはレンだ。意図的に見ないようにしていたのに、反射的に顔を彼の方に向けてしまう。
レンと目が合う。それだけで、再び私の顔は火が出るほど熱くなった。
「あ、あははははは!やだな~本当だよ!」
動揺しすぎて大声で笑ったため、変な空気になった。今まで、レンとどんなふうに話していたのか忘れてしまうほどに、私は緊張していた。
おかしい。他人と話す時にこんなに緊張するなんて。
「おう!アイ、今日は起きてるんだな!」
タイミングがいいのか悪いのか、後ろから先生の声が聞こえた。
朝ご飯の時間だから来たのだろう。後ろには先生を迎えていたであろう、カイトも立っている。
「はい!今日も元気ですよ!」
先生とはちゃんと目を合わせられるし、こんな感じで返すことができる。レンに対してだけだ。あんな風になるのは……
初めてのことすぎて、どうしたらいいのか本当に分からない。
「カノン、リン、何か手伝おうか?」
カイトがキッチンに向かって歩き出す。だから、私もレンから逃げるように後をついていった。
「もう出来ました。運ぶの、お願いします」
「はーい!私運ぶ‼」
リンのその言葉に勢いよく挙手をして、盛り付けられたお皿を持ち上げる。
食パンにベーコンエッグ、レタスがワンプレートの上に綺麗に盛り付けられている。これぞ朝食って感じ!……って言っても私は朝、ご飯を食べることが多いんだけどね。
「「「「「「いただきます」」」」」」
全員席に着き、手を合わせる。こうして、家族以外の人と机を囲んで食事をするのは新鮮で楽しいものだ。それも今日と明日で終わりだと思うと、あっという間で、寂しくも感じる。
合宿中は、色々あった。練習もたくさんできて、楽しかった。それに………
そうして今朝のことを思い出してしまった私は、一人黙りこくって俯いた。
「アイ、具合…悪い?」
隣に座っているレンが、いつも通り私に話しかけてくる。顔を覗き込まれたので、思わずそらしてしまった。
「……あっ全然、全然元気です!モリモリ食べまーす!……うん、美味しいよ、カノン、リン!」
自分でも何を言っているのか分からなくなってくる。カノンもリンも心配そうに私を見ている。恥ずかしい。
でも、レンがあまりに普段通りだから、私は一つの可能性にたどり着いた。
(もしかして……)
「あのさ、レン…」
先生、カノン、リン、カイトが四人で話している中、私はこっそりレンに耳打ちした。
「何…?」
やっぱり、普通だ。私の中で可能性は確信に変わっていく。
「レンって…今日の朝、何してた?」
小声でそう聞いた。
「は、何言ってんの?」
レンが呆れたように、私の耳元で話す。やばい、耳元で話されるのって、こんなに恥ずかしくてくすぐったいんだ。私は自分のしたことを後悔する。
でも、予想通りの反応だ。
私とレンはそもそも今日の朝、会っていない! これが私の立てた仮説。
「だよね、だよね~。私、変な夢見てたみたいだよ~」
安心したように、ほっと胸を撫でおろす。そんな私を見て、再びレンは私の耳元に口を近づけた。
「…………何でもいいけど、俺の告白を変な夢で終わらせようとするのはやめてよね」
「⁉」
思わず耳をおさえて、レンの方を見る。
真面目な顔で私を見ていた。心臓がまた早く脈打つ。
(あああああああああああああ‼ ゆ、夢じゃない……?)
私はレンとは違う方に顔を向けると、心の中で思い切り叫んだ。
そんな私を、リンが終始やばい人を見る目を向けているのに、この時は気づいていなかった。




