アイ
31
流星群がどうしても見たくて、こっそり家を抜け出したあの日、ある男の子に出会った。
私は昔から何に対しても好奇心旺盛な子供だったらしい。
そして、母の歌声が大好きだった。私が歌うと、父も母もとても喜んでくれて、私も歌うことが大好きになった。
母と父の馴れ初めは、小さい頃から幾度となく、内容を細かく覚えてしまっているほど何回も聞かされていた。だからか、私もバンドというものに幼いころから興味を持っていた。
ある日の朝、今日は流星群が見られるということがニュースで流れていた。
夜遅くに外を出ることは許可されていなかったけれど、どうしても流星群をこの目で見たくて、父と母にバレないようにこっそり抜け出した。
フカフカのダウンにマフラー、防寒対策はバッチリだ。事前にどこが見やすいのかもちゃんと考えていたから、目的地に向かって歩みを進める。
数分も歩くと、目的の場所に到着した。それは近所の川だ。土手に寝転がって、空を眺めようという算段だ。厚着をしていたおかげであまり寒くはないが、呼吸をすると、口から白い息が漏れ出す。
しばらくそうして空を眺めていたが、ふと視線を感じて顔を動かした。
立っている男の子と目が合う。私は身体を起こして彼の方に向き合うと、自分の隣をぽんぽんと手のひらでたたいた。
「ここ」
そう言うと、その男の子は促されるままに、私の隣に腰を下ろした。私と同じ年くらいの男の子。眼鏡をかけた、優しそうな顔だ。
「流星群、見に来たの?」
話すたびに、白い息が空気に溶けていく。
その子は声を出さずに、こくりと頷いた。
「そっか! ふふふ、私も!」
私はそのまま会話を続ける。私と同じように家を抜け出してきたのだろうかと思うと、何だか嬉しくなる。
「私、アイって言うんだ! 君は?」
「れ、レン」
「レン!」
それから流星群を見て感動しながら、主に私が話して、レンは相槌を打ったり、たまに短く返事をしたりして会話をした。
レンは私と同い年で、隣の小学校に行っているらしい。歌うことが大好きだと話すと、レンはピアノを弾くことが好きだと伝えてくれた。運命のように思った。
「じゃあさ、大きくなったら私と一緒にバンドやらない?」
だから、思わずそんな提案をしていた。
「へ……?」
当然、レンはぽかんとした顔をする。
「私がボーカルで、レンはキーボード!」
私はピアノを弾くジャスチャーをしながらレンの方を見る。するとレンは顔を輝かせ、私の言葉に大きく返事をした。
二人で話をしていたら、あっという間に時間は過ぎていった。ずっと話していたかった、話を聞いていたかった。けれど、そんな楽しい時間も長くは続かなかった。
「レン!」
誰かが、レンの名を呼んでいる。私は身体を起こして、声の方に視線を向ける。一人の女性が立っていた。
「何してるの!? 勝手に家飛び出してこんなことして!」
その女性はレンの腕を無理やり引っ張って立たせる。レンは嫌がっているように見えた。
「あ……」
「初めまして、レンのお母さん、ですか?」
戸惑いながらも、私は彼女に向かって丁寧にあいさつをした。が、彼女は私に近づいて、頬を平手打ちした。そして私を睨みつけて、冷たく言い放った。
「あんたみたいな子、レンに二度と近づかないで!」
何が起こったのか、分からなかった。
「お、お母さ」
「レンは黙りなさい!」
彼女の怒鳴り声にレンの身体がすくむ。
「帰るわよ」
そのままレンの腕を掴んで、彼女は歩き出した。レンが後ろを振り返り、私の方を見る。
「アイ!」
レンが叫んだ声は、とても大きかった。
「レン、またね!」
だから、私も負けないくらいの大きな声で、彼にそう言った。笑顔で、大きく手を振りながら。
これで終わりにしたくない。直感的にそう思っていたのだ。
どんどんと小さくなっていくレンの姿を、顔を、忘れないように目に焼き付けた。
それから数日後、私の家にカイトがやってきた。母から話は聞いていた。
一人っ子だった私にとって、カイトの存在は新鮮で、まるで本当のお兄ちゃんのように懐いた。優しくて、何でもできる、完璧なお兄ちゃん。
レンのことを話してバンドに誘うと、快く返事をしてくれた。




