認めたくない
30
「カイト!!」
レンが僕を部屋へ連れだし、胸ぐらを掴んでくる。
「……どうしたの、レン」
僕はなるべく平静を装って、笑顔を作る。
「笑うなよ、嘘ついただろ」
「何のこと?」
「とぼけんな、俺を煽るために…わざとあんなこと言って」
怒っている。僕がアイに告白したと嘘をついたから。
でもどうして怒るんだろう、レンは自分の気持ちを伝えて、アイだって意識するようになって、二人は絶対に上手くいくのに。
「告白、できたんでしょ。良かったじゃん」
「ふざけんな! カイトの気持ちはどうでもいいのかよ」
ああ、レンが眩しい。こんな時でも僕の気持ちを考えてくれる、真面目でいい子で、可愛くて、そんなレンが好きで、好きで、憎いよ。
「…あのね、勘違いしてるみたいだから言うけど、アイは僕のこと特別でも何でもないから」
「は…?」
これを言葉にすること、本当は嫌だ。
言いたくない、認めたくない。…でも、可愛い後輩のために、言わないと。
「アイは、せいぜい僕のことお兄ちゃんみたいな存在としか思ってないんだよ。………つまりね、最初から僕とレンじゃ、スタートラインが全然違うのさ」
「………」
「………こんなこと、言わせるなよ。……認めさせるなよ。アイが…僕を恋愛対象として見てないなんて、僕が一番よく分かってるんだよ! だから、だから……」
レンの手が僕の胸ぐらから離れていく。自分が何を言わせたのか、理解したみたいに、苦しそうに顔を歪ませる。
(言って…しまった)
「…でも、それでも告わないと何も変わらないだろ」
真っ直ぐにそんなことが言えるレンが羨ましい。そう、ずっと羨ましいんだ、彼のことが。
「そうかもね…でも告わないよ」
「……どうしてっ…」
「僕は、最後までアイの家族として、傍にいるから」
これからも、彼女の笑顔を見ていたいから。
「………」
レンはそれ以上何も言い返せずに、言葉を詰まらせ、
「ごめん…」
とだけ言って、静かに部屋を出て行った。
今日も練習が残っているのに、こんな空気にしてしまった。…僕らしくないな。
「…カイト、先輩」
少し開いていた扉から、リンの声が聞こえた。隙間から心配そうにこちらを覗き込んでいて、隣にはカノンもいる。
「リン、カノン、ごめんね。せっかくの合宿だったのに…」
僕は二人に向かって笑顔を向けた。
でも二人の顔は晴れない。当たり前か。
どうして、こんなことをしてしまったんだろう。でも、いつかは起こることだ。こうやって気まずくなる瞬間が、必ず訪れていただろう。
「僕は大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「…本当に、大丈夫ですか?」
カノンが消え入りそうな声で尋ねる。
「…俺、まだ先輩たちのことあんまり分かってないかもしれないですけど、でもカイト先輩が大丈夫じゃなさそうってことは分かります。…話せない、ですか?」
「……うん、ごめん」
これを、リンたちに話すわけにはいかない。というか、これ以上自分の格好悪い所を後輩に見せたくない、というのが本音だ。いつだってかっこつけていたい。
リンとカノンは僕の答えに、全く納得のいっていなさそうな表情をしながらも、それ以上は何も言わずに部屋を出て行った。
再び一人になった部屋でぼーっと天井を見つめる。
できることならずっと、彼女の笑顔を隣で見ているのは僕でいたかった。でも、それが叶わないのなら、せめて兄というポジションだけはやり通したい。
そう思う僕はおかしいだろうか、アイ。




