表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/51

答え

25


「レン、おはよ」


「カイト、おはよう…」


 合宿二日目。昨日は結局、一、二回だけ合わせをして、練習は終了した。

 夜ご飯の時間になると、カサネ先生も様子を見に来て、先生が買ってきてくれた材料でみんなで料理を作った。これが中々楽しかった。

 俺とカイトとリンが同じ部屋で、アイとカノンはそれぞれ一人の部屋で寝た。元々カノンの家の別荘だから、カノンが一部屋使うことに誰も文句はないし、俺もカイトもリンも同じ部屋で大丈夫ということになったので、アイが一部屋使っている。



 俺が目覚めた時、すでにカイトも起きていて、窓の外から海を眺めていた。リンはまだ眠っている。この別荘は、部屋からでも海が見れる絶景の場所だ。

 部屋も広いし、三人で寝ても全然余裕がある。改めて、カノンの家の凄さを思い知った。この様子じゃ実家とかは、もっとやばいんだろう。


「早起きだね、まだ六時だよ」


「それ言うならカイトもだろ」


 リンがまだ寝ているから、俺たちは少し小さめの声で話をする。


「……昨日の、考えた?」


「………」


 カイトが外を眺めながら、俺に聞いた。少しだけ、空気が重くなる。


「…………俺は、アイが好きだ。…取られたくないし、アイの笑顔を一番近くで見るのは俺がいい。カイトが、ライバルでも…負けたくない」


「そっか」


 俺の本音を聞いて、カイトは満足そうな顔で微笑んだ。まるで兄のように…





 その後、俺とカイトがリビングに行くと、甘い香りがした。カノンが、キッチンでボウルをかき混ぜているのが見えた。


「あ、おはようございます」


 俺たちに気づいたカノンが頭を下げる。


「おはよう、カノン。早起きだね」


 カイトがカノンに話しかける。

 まだ朝の六時半だが、カノンはもうばっちり準備を済ませていた。まあ、リンもいるから当然か。


「お二人も早いですね。私は何だか目が覚めてしまって……。あ、パンケーキでも作ろうと思っていたんですけど、どうですか?」


「いいね、僕たちも手伝うよ。ね、レン」


「ああ、もちろん」


「え…ありがとうございます。じゃあ、フルーツ切ってもらってもいいですか?」


 俺はあまり料理をしたことがない。逆にカイトはとても手際がいい。彼には欠点がないのだろうか、そう思ったけれど、一つだけ思いついた。

 カノンも見たところ料理ができそうだし、俺も二人を見習わなければと思った。

 帰ったら母に料理でも教えてもらおう。もっと母の手伝いをしようと、フルーツを切りながら考えていた。





「……あの、リンくんまだ寝てますよね」


 六人分のパンケーキを無事に作り終え(ほとんどカノンが作った)、机の上に並べていた時カノンがつぶやいた。


「せっかくだから起こして来たら? ごめんね、本当は一緒の部屋が良かったよね」


 カイトが気をきかせてそう言う。すると彼女は顔を真っ赤にして、首を横に振った。


「いえ、とんでもないです! ………でも寝顔気になるので、ちょっと行ってきますね…」


 小さな声でぽつぽつと話し終えると、彼女はリビングから出て行った。


「レンも、アイのこと起こしに行って」


「は!?」


 カイトが俺を見る。

 何を当たり前のように言ってるんだ。そもそも俺とカイトはライバルなのに、余裕そうでむかつく。


「別に、僕はアイの寝顔見たことあるから、レンに譲ってあげようかな~って思っただけだよ? 七時にカサネ先生も来るって言ってたし、僕は先生を迎えるよ。それとも、僕が起こしに行っていいの?」


 煽るように俺を見て笑うカイト。本心を言っているのか、分からなかった。でも、彼がアイの寝顔を何度も見たことがあるというのは、容易に想像できたはずなのに、俺はそれにひどく嫉妬している。


「俺が、行く」


 そう大人気なく言いきって、カイトを見ずにリビングを出た。






 アイの部屋の前まで来た俺は、ごくりと息を飲んだ。アイが、このドアの向こうで眠っている。何だか妙に緊張してきた。

 俺は深呼吸をして、そーっと扉を開けた。


「………アイ?」


 小さな声で名前を呼んでみる。もちろん返事はない。

 部屋の中は、俺たちの部屋より少し狭いが、一人部屋にしては広い。そして、大きなベッドが一つ置いてある。

 足音を立てないように、忍び足でベッドに近づく。何か、いけないことをしているみたいで恥ずかしい。

 呼吸するのも忘れてベッドから覗き込むと、彼女の顔が見えた。


(かわいい……)


 いつも明るい、大きな声を発する口も、今は静かに閉じられている。

 まるで人形のようだ。アイはしゃべらなければ、ただただすっごい美少女なのだ。

 静かなアイは久しぶりに見た気がする。無意識に、顔が彼女に近づいていく。まるで吸い寄せられるように…


「ん……」


 すると彼女が目に力を込め、声をあげたので、すぐに後ずさった。


(何してんだ…俺!)


 自分のしたことを思い出し、一人で恥ずかしくなる。というか、本来の目的を忘れるところだった。


「アイ、アイ起きて」


 布団越しに、アイの身体を揺らす。


「うーん」


 アイは布団の中でモゾモゾと動いて声を出したけれど、起きる気配はない。

 どうしたもんかと頭を悩ませていると、


「レ…ン……」


 微かにそう聞こえてきた。驚いて、彼女の方を見るが、目を閉じたままぐっすりと眠っている。


(寝言…)


 このままこの部屋にいたら、俺の心臓がもたない。だから、俺は部屋を出ることにした。アイのことも起こせそうにないし、しょうがない。






 部屋を出て階段を降り、リビングに戻ると、すでにアイ以外のメンバーは椅子に座っていた。


「レン、おはよう!」


「おはようございます」


 カサネ先生に声をかけられる。朝だと言うのに、元気な声だ。ジャージを着たまま、ホテルからこちらに来たのだろう。先生らしい。


「リン、おはよう」


 カサネ先生の隣の椅子を引いて、目の前に座っているリンに声をかけた。リンの隣には、もちろんカノンが座っている。


「お…おはようございます」


 リンはどこかよそよそしい態度で、俺に挨拶をした。それを少し不思議に思ったけれど、寝起きだからいつもと違うのかな、などと思うことにした。


「レン、アイは?」


 カイトはリンの隣に座っていて、頬杖をついて俺に話しかけてきた。


「起きなそうだったから、諦めた」


「そっか」


 どこまで分かって言っているのか、俺の言葉にそう笑うと


「じゃあ、食べちゃおうか」


 と全体に向かって言った。


「出来立てではないですけど…」


 カノンがそう付け加えた。だが、冷めてもとても美味しそうだ。乾燥しないようにラップがかかっている。


「「「「「いただきます」」」」」


 五人で手を合わせ、パンケーキを口に運んだ。


「美味しい!」


 リンがまず声を上げた。その言葉を聞いて、カノンはほっと胸を撫でおろしていた。


「うん、美味しいね」


「美味しい」


「美味しいな!」


 カイト、俺、先生もそれぞれ感嘆の声をもらす。自分の切ったフルーツが歪に見えて恥ずかしかったが、味は美味しい。切っただけだから、不味くしようがないというのは言わないでくれ。


「先生、材料ありがとうございました」


「気にするな! こんなに美味しいものが食べられるんだからな」


 カノンの言葉に、先生がそう返す。彼女は照れくさそうに、でも嬉しそうに笑った。


「「「「「ごちそうさまでした」」」」」



 パンケーキを食べ終え、談笑していた俺たち。時刻は八時だが、まだアイは起きてこない。



「アイって、休みの日すっごい寝るんだよね」


 お皿洗いをしていた俺に、カイトが声をかける。家事は当番制で回している。今日の朝のお皿洗いは俺の担当だった。


「へえ」


「中々起きなかったでしょ?」


 マウントのように話してくる。俺は本当に心が狭い。アイの…彼女の全てを俺だけが知っていたいとか…そんな風に思ってしまうなんて。


「まあ、気持ちよさそうに寝てたから無理に起こすのもあれかなって」


「そうだね」


「あの~この後ってどうします?」


 リンとカノンが、おずおずと俺たちの方に近づいてくる。俺は一度水を止め、顔を上げて二人の方を見た。


「う~ん、アイが起きるまで三人で練習進めようか。歌抜きで合わせるのも、いい練習になりそうだし」


 カイトがそう提案する。俺もリンも反論はない。


「じゃあ、私はカサネ先生と買い出しに行ってきますね」


 三人でカノンと先生を送り出し、防音室に向かった。





 防音室はかなり広かった。別荘でこれとは、さすがとしか言いようがない。

 中にはグランドピアノが一つ置いてあり、使用許可をもらっていたので、レンはこのピアノを使わせてもらっている。ドラムはないので、学校で借りているものを車で運んだ。

 ギターはリンの、ベースはリンの兄のを持ってきたそうだ。

 楽器は昨日使ったまま置いていたので、少し調整したらすぐに演奏できる。


「じゃあ、とりあえず二曲とも通して合わせてみよっか」


 それぞれ調整や軽い練習をした後、カイトが提案した。それに二人とも頷く。

 俺たちは今回も、トリに二曲演奏させてもらうことになっている。四人でよく話し合って、曲を厳選した。

 リンは元々とても上手いのだが、本人は自分の演奏に納得しておらず、部活に加えて家でもかなり練習しているらしい。さらに腕に磨きをかけている。

 アイだって、ギターを始めてまだ数か月だと言うのに、もう普通に弾けるくらいにはなっている。ピアノ以外の楽器のことはよく分からないけれど、演奏を合わせた時不快になる音じゃなければ、普通に上手いのだと思っている。

 どんどんバンドとしてのレベルが上がっていくのにつれて、俺の焦りも増していく。俺もリンと同様、自分の演奏に納得がいっていない。

 良くないことだと分かっていても、演奏中にそんなことばかり考えてしまって、中々身が入らない。



 何度か三人で合わせていたら、あっという間に時刻は十時を回っていた。


「レn…」


「おっはよ~!」


 アイが、元気な声と共に防音室に入ってくる。


「おはようございます」


「もう十時だけどな」


 リンが挨拶を返した後、俺はアイにツッコんだ。


「いや~よく眠れました!」


 寝起きとは思えないほど元気だ。だが髪には寝ぐせがついているし、いつもよりは瞼が開いていないような気もする。


「おはよう、アイ。リビングにパンケーキあるよ」


「え、ほんと!? やった~!」


 カイトが声をかけると、嬉しそうに防音室から出て行った。俺は慌ててアイの後を追いかけた。







「あの…カイト先輩……」


「しーー」


「っ………」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ