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合宿

23


「合宿を! します!!」


 季節は夏。テスト期間も終わり、残すところ夏休みを待つだけになった学校。

 部室でアイがそう言った。テストが終わって、上機嫌の彼女はいつもよりもニコニコしている気がする。

 それはそうと、アイが言ったことをもう一度思い返してみる。


(合宿…?)


「あの…合宿って…?」


 リンがすぐに聞き返す。彼の隣には、彼女であるカノンもいる。

 リンから報告を受けた次の日から、早速カノンがお昼に加わった。アイもカノンもすぐに打ち解け、俺も彼女とは前に話したこともあったので、あまり緊張せずに話すことができた。今では部活のメンバーではなくとも、いるのが当たり前のような存在となっている。

 それに、二人はとても初心うぶで、見ていて微笑ましくなるくらいのカップルだ。いつも俺とアイ、カイトで優しく見守っている。


「合宿は合宿だよ! やっぱり部活って言ったら、合宿だよね~!」


「今年もステージで演奏できることになったし、レンも問題なくやれそうだし。いいかもね」


 カイトが俺の方を見ながら言った。

 確かに、去年の今頃は合宿とかいう雰囲気ではなかった。親に認めてもらうために、とにかく学校で練習していたし、合宿に行く許可なんてもらえなかっただろう。でも今年は違う。

 そしてカイトが言ったように、俺たちは有難いことに今年もステージで演奏できることになった。リンが加わって、アイもギターを始めたばかりの新体制で、練習という練習ができているかも分からないままのオーディションだったが。

 これから、本番までもっと磨いて、良い演奏を届けられるようにしたい。

 そのためにも合宿はいい機会だとも思った。それに、合宿という響きは、何だかワクワクすると言うか、楽しそうな感じがした。だって、泊まりでアイと一緒にいられるのだ。


「それで、肝心の場所は? どこでやるか決めてるの?」


「うっ………」


 俺の質問にアイはギクッと肩を震わせた。


「え、まさか場所も決めずに合宿提案してきたの?」


「え、いやだってその……テストもあったし……」


 分かりやすくアイが口ごもる。薄々そんな気はしていたけれど。

 でも今からとなると、合宿場所をおさえるのは難しいような気がする。夏休みで、しかもそれなりの人数、毎年合宿をやっている運動部などと違って場所が決められているわけでもない。自分たちで一から、防音も完備されている場所を探すのは厳しいと思った。


「あの………」


 半ば諦めの姿勢に入っていた俺の耳に、カノンの声が聞こえてきた。彼女は申し訳程度に手を挙げていて、全員の視線がカノンに集中する。


「…良かったら、私の家の別荘使いませんか?」


「「「「…え?」」」」


 四人の声が重なる。


「その、家には別荘がいくつかあって、父が趣味でバイオリンをやっているので、防音の部屋もあります。多分お願いしたら許可してくれると思うし、広さも…それなりにあります。……みなさんが、良ければなんですけど…」


 こちらからしたら願ったり叶ったりな提案だ。

 それにしてもカノンはお嬢様だったのか。言われてみれば、彼女は一つ一つの所作が美しいし、笑い方も品がある気がする。


「カノン、いいの? 部員じゃないのに…」


「そうだね、提案としては魅力的だし、僕たちはとても有難いけど」


 アイもカイトも戸惑っている。特にアイに関しては、珍しく気を遣っている気がする。いつもなら元気よく感謝を伝えそうなのに。


「私、みなさんのファンなんです! ……去年の文化祭でステージを見た時、本当に感動して。だから、力になりたい。…それに、私の家の別荘を使えば、私も合宿にお邪魔させてもらえて……リンくんとも一緒にいれると思ったので…」


 最後の方は顔を真っ赤にしながら言っていた。リンもそれを聞いて赤面し、二人で目を合わせて照れていた。


「ごめんなさい、欲張りで…」


「えーそんなことないよ! そりゃ好きな人とは一緒にいたいよね!! …それに、元々カノンのことも合宿に誘うつもりだったよ?」


 申し訳なさそうに俯いたカノンに、アイがそう声をかける。


「…本当ですか?」


「うん! もちろん! カノンも、うちらのメンバーだからね!!」


 アイの偽りのない言葉に、カノンはとても嬉しそうに笑っていた。

 俺はアイの言葉に驚いた。まさか彼女の口から、「好きな人とは一緒にいたい」なんて言葉が出てくるとは思わなかったからだ。

 アイにも人並みにそういった感情が備わっていたのか。



 後日、カノンから許可を得たと報告があり、ぎりぎりではあったものの、無事に合宿の場所が決まった。

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