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【コミカライズ開始】身に覚えのない溺愛ですが、そこまで愛されたら仕方ない。忘却の乙女は神様に永遠に愛されるようです  作者: まえばる蒔乃@受賞感謝
第六章・まつろわぬ、ふたりで一つの神様

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何千回の輪廻を超えて

 ─次に聞こえてきたのは、草を揺らす風のざわめき。

 空は真っ青に晴れ渡っていた。


「え?」


 身を起こすと、そこには見渡す限りの稲穂の海があった。

 私は朱色の巫女装束を着ていたけれど、普段着ているものとデザインが違う。もっと古めかしいような、被帛付きで、まるで奈良の古墳に描かれてるような。

 人々が近づいてくる。何があるのかと思いきや、私は突然槍で胸を突かれていた。


「嘘」


 痛みが体を襲う。誰かが、私を抱き留めてくれる。


「楓……」


 それは紫乃さんの声だった。

 再び視界が暗転する。

 次は、木を組んで作られた社の中で、私は高熱に浮かされていた。

 枕元で紫乃さんと、誰か他の人々が話し合っている。


「やはり巫女様に無理をさせてしまったから……」

「毒が……」

「もう、手の施しようが……」


 紫乃さんが私を見て、悔しげに拳を握る。

 再び、私の視界は暗転した。

 同じような繰り返しを、私は延々と、延々と、気が遠くなるほど見せられた。

 あるときは老衰で。あるときは事故で。あるときは、呪い殺され。

 昔の人は当然の如く、現代よりも天寿を全うするのは難しかっただろう。

 私は何度も死を繰り返した。隣にはいつも、悲しい顔をして頰を撫でる紫乃さんがいた。


「あなたはいるだけで、紫乃ちゃんを悲しませるのよ」


 耳元で少女の声がした。

 最初に見せられた稲穂の海の真ん中で、尽紫さんが槍を突きつけてきた。

 黒曜石の切っ先にぞくりとする。先ほどの痛みと死を思い出して、私は息を呑んだ。


「……ねえ。あなたも嫌でしょう? 紫乃ちゃんの巫女である限り、あなたは何度も生きるの。人生なんて人間にとって苦行でしかないわ。権力に組み込まれなかった巫女だから、称賛も、名誉もない。ただ神に仕えるだけ、家柄を未来に残せるわけでもない。紫乃ちゃんと一緒に、望みの果て、世界の端っこで夫婦ごっこを続けるだけの人生。理解もされない、報われない、骸を踏みつけられ続ける人生。強欲な人間には向いていないわ」


 一息でまくし立て、尽紫さんは髪を広げる。

 空は夜空になり、稲穂は全て漆黒に染まる。

 一本一本の稲穂が触手のように、意思を持って私に襲いかかった。


「神に寄り添えるのは同じ神だけよ。紫乃ちゃんには、私が寄り添うのよ!」


 私は深呼吸をした。服装は違っても、見たことのない空間だとしても、ここはおそらく複製神域の応用版であり、私は私なのだ。

 目を閉じて、人差し指と中指で四角を作る。

 紫乃さんの笑顔を思い出す。私を信じてくれた夜さん、羽犬さん。

 修行に付き合ってくれた、たくさんのみんなの笑顔を。


「はやかけんビーム……ッ!!」


 私は叫んだ。見えなくともはやかけんはここにある。地上からは感じられない場所に地下鉄が通っているように、私の体の中にはやかけんは存在する。

 私の手元から発射された光条は、真っ黒な空間を切り裂き、拡散し、光でいっぱいに輝かせる。私はさらに、神楽鈴を右手に掲げて、しゃんしゃんと鳴らした。


「尽紫さん! 私は負けません!」


 神楽鈴の作用だろうか。

 拡声器越しの叫びのように、私の声が強く、大きく暗闇にこだまする。


「どんな過去があろうとも、どんな未来が待ち受けていようとも、私は絶対に折れてやりませんから! 私を待っている紫乃さんがいる限り、そして」


 そして、私は息を思いっ切り吸い込み、叫んだ。


「もうひとりの紫乃さんでもあるあなたが、泣いている限り! 私は諦めません!」


 綺麗事を言うなとばかりに、稲穂が私に襲いかかる。

 神楽鈴の箒くんを使って空を舞い、はやかけんビームで稲穂を浄化する。ストラップにしていた鵲ちゃんたちが、ひらひらと実体化して稲穂をついばんでいく。カラスのいない豊作の田んぼは鵲にとってはお腹を満たす楽園だ。

 浄化に次ぐ浄化。

 時に箒くんで飛び回り、はやかけんビームを打ちまくり。

 気づけば私は、紫乃さんの屋敷の廊下にいた。

 巫女服を壁に縫い留められたままの状態だ。


「戻ってきた……」


 はっとして、私は記憶を辿る。

 元々消されていた十八年間については思い出せないけれど、直近のことなら今夜の夕飯から紫乃さんのネクタイの色まで、全部思い出すことができた。


「なんてこと……本物の死を何度味わっても……折れないなんて……」


 尽紫さんがぐったりと座り込んでいた。


「だ、大丈夫ですか?」


 声をかけると、尽紫さんがぎろりと睨む。


「大丈夫に見える!? おばか!」

「ご、ごめんなさい」


 叱り方が紫乃さんと同じだと、私は脳天気に思った。


 尽紫さんが私に髪の毛の槍を向けてくる。鵲ちゃんが槍をぺいっと弾いてくれた。


「なんで……楓ちゃん、切らないのよ」

「何をですか?」

「私の髪よ。あなたを攻撃する髪、いくらでもあなたなら切れたでしょう?」

「切りたくないですよ。だって尽紫さんの髪綺麗だし、また伸びるってわかっててもなんだか嫌で」

「……何それ」

「嫌な気持ちが残るやり方は嫌なんです。私、討伐したいんじゃなくて……尽紫さんと真剣勝負をしたかっただけなので」

「甘いこと言わないで。どうせ私があなたを殺せないと思ってるんでしょう? 私は何度もあなたを傷つけてきたのよ、何回も、何回も!」

「死ぬのは嫌ですけど、命は張りますよ」

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