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【コミカライズ開始】身に覚えのない溺愛ですが、そこまで愛されたら仕方ない。忘却の乙女は神様に永遠に愛されるようです  作者: まえばる蒔乃@受賞感謝
第四章・蓬莱を求めて――肥前と猫、方士

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筑紫の、筑のほう

 屋敷に戻ると煮物パーティ会場はすっかり片づき、いつもの静かな庭に戻っていた。


「羽犬さんー! 途中でいなくなってごめんなさい!」


 謝りながらカフェに向かうと、カウンターの中の羽犬さんがへなへなとしゃがみ込んだ。


「よかったー、無事で……」


 カウンターを挟んだスツールに、鯉のおいちゃんが座っている。

 二人でやきもきしてくれていたのだろう。


「おいちゃんも心配しとったとよ。かくなる上はおいちゃんが身を捧げて楓ちゃんを返して貰おうかと思いよった」

「そういえば佐賀って鯉こく料理美味しいですもんね」

「もー、おいちゃん捌かれるとこやった」

「ほんっとよかったよ、楓ちゃんにまた何かあったらどうなるかと思ってたんよ」


 羽犬さんの目元が赤い。心から心配してくれていたのだろう。私は頭を下げた。


「お二人とも、ご心配おかけして申し訳ないです。バッチリ帰ってきました」

「それならよかった。って。楓ちゃんいい匂いするやん? 綺麗になってる。何かいいことあった?」

「えへへ、温泉入ってきました」

「なんね、余裕やんかー」


 羽犬さんが肘で軽く突っついて笑ってみせる。

 ほっとしたらすぐ笑い話に変えてくれる羽犬さんの気遣いに、私は胸が温かくなった。


「帰ってきたなら、早速夕飯作らんとね。待っとって、すぐ店じまいするけん」


 黙って聞いていた紫乃さんが車のキーを見せる。


「せっかくだから外に食べに行こうか」

「はいはい! んじゃ俺、人の作った天ぷら食べたか! ひらおに車出して! 紫乃!」

「今の時間なら……そうだな、まだ混んでないか」

「いいですね、決定ですね!」


 その後、店じまいをする羽犬さんをカフェに残し、一旦私たちは屋敷へと戻った。

 紫乃さんの腕の中で、夜さんはいつの間にかすっかり眠っている。

 屋敷の玄関の腰掛けに座って羽犬さんを待つ間、私は夜さんを撫でた。


「みんなに迷惑かけてごめんなさい。私が騙されたせいで」


 紫乃さんが首を横に振る。


「騙したほうが悪いし、俺たちも油断していた。夜が屋敷に入ったことで佐賀方面に対する警戒が緩くなっていたんだ」


 紫乃さんの説明によると。

 屋敷は基本福岡県内のあやかしや神霊なら障りなく入れるが、夜さんのような他県のあやかしは入ると家主である紫乃さんが感知できるようになっているらしい。しかし今回は大量にあやかしが招き入れられていたこともあり、夜さんの気配と侵入者である徐福の気配が混ざっていて、対応が後手に回ったのだという。

 紫乃さんは深く溜息をついた。


「本当はそれくらいなら、徐福の気配も気づけるんだ。だが今回は、妙に気配が感じ取りにくかった」

「原因は判明したんですか?」


 険しい顔のまま、彼は己の手元を見下ろして呟く。


「憶測だが。俺の姉が、一枚嚙んでいるのだと思う」

「姉……喧嘩別れしたという、筑紫の筑のほうの方、ですか」

「名前を尽紫と名乗る、女神だ。俺の一対で……俺が楓と夫婦になって以来、ずっと恨まれている」


 紫乃さんの言葉を聞いた途端。頭の奥のほうがぎゅっと痛む感覚がした。

 無意識に思い出そうとしたことで拒絶反応が起きたような激しい痛み。


「っ……」

「楓ッ!?」


 反射的にうずくまった私に、紫乃さんが声をあげる。痛みはすぐに治まった。

 顔を上げて、私は紫乃さんに笑顔を作った。


「すみません、なんだか頭がちょっと痛くなって。もう大丈夫です」

「……あまり無理はするな。本来ならもっと休んでいてもいいくらいの状況なんだ」

「噓みたいに痛みが引っ込みました。ええと……何かを思い出そうとしたんですが」


 私は記憶を辿る。元々思い出そうとしたものは、全く思い出せない。

 代わりに徐福さんの問いかけが頭に浮かんできた。


 ─最初のあなたに会う前の彼は、彼女と一対だったんですよ。意味はわかりますよね?

 そしてまた、紫乃さんの言葉が浮かび上がってくる。

 ─令和(いま)はいろいろ難しいよなあ。古代なら神相手なら親子だろうが兄妹だろうが気にせず夫婦になるのはよくある話だったし。


「……」

「楓?」


 私の背を撫で、表情を窺う紫乃さんを私は見上げた。


「紫乃さん。聞きたいことがあるんですけど」

「もちろん。なんでも話すよ」

「お姉さんとは夫婦だったんですか?」


 言葉を口に出しながら、紫乃さんの返事がなんだとしても、受け入れようと思った。

 紫乃さんのお姉さんが本当は妻でもあったのだとしたら、間に入ってきた私は確かに横入りの邪魔者だ。害を与えられても理解できるから。

 返事に身構える私に、紫乃さんは眉間に皺を寄せ、断言した。


「絶対ない。寒気がする。冗談じゃない。誰がそんなこと言い出したんだ、徐福か?」

「徐福さんも匂わせてきましたけど、よく考えたらそもそも、紫乃さんも言ってたので……『昔は親子だろうが兄妹だろうが気にせず夫婦になってた』って」

「あれは当時は納得されやすかったって話をしただけで、姉は冗談じゃない。悪いがあの嗜虐趣味のサディストに男女の仲として惹かれる趣味は、俺には全くない」

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