その頃、都内某所
とある高級ホテルの最上階。
都心の絶景を見下ろす部屋に、裸の少女の姿があった。
彼女が座っているのは、和装の美形だ。うずくまった彼の目と口はぐるぐる巻きの髪の毛で塞がれ、わずかに覗いた首元や手首からは、縛り上げる黒髪が蠢いているのが見えた。
彼の上で足を組み直し、裸の少女は手のひらの中の水晶玉を見つめる。
その中にはいくつかのあやかしの姿が封印されていた。
玉がこすれ合う音を立て、彼女は微笑む。
「福岡出禁になっているくせに、一ヶ月でよくここまで集めたわねえ?」
「つ、尽紫様のためならばぁ……贄山隠二十七歳、これくらい頑張りますともお……」
「で、どこで集めたの?」
「佐賀ですっ、佐賀っ……福岡のぉ……西ですぅ……っ」
「佐賀ねえ。東京駅の丸の内口からワープできるから、便利だものね?」
丸の内口の干支のレリーフ。
あれがまだ今ほど交通期間が発達していなかった時代、東京から佐賀まで転移する呪術がかけられたワープスポットであることは時の政治家や一部の華族しか知らない情報だ。薩長土肥の中で肥前はそういった陰の部分で活躍していたというのは、その筋には有名な話である。
「さすがよね、あなたは驕らなければ力があるのだから、もっと最初から頑張ってればよかったのよ」
「あひ……ああっ、尽紫様ぁ」
「ふふ、ざぁこざぁこ♡」
「あああっ、髪の毛がっ、食い込んでっ」
ぎしぎしと椅子にした贄山に体重をかけながら、裸の少女は水晶を検分する。
その中の一つをかざし、うっとりと微笑んだ。
「この子がいいわ。楓の匂いがついているし……もうすぐ消える命だわ。儚い男、私大好きなの」
夜景が映り込んだ水晶玉の奥。
そこには、丸まったずたぼろの黒猫の姿が映し出されていた。
「佐賀といえば猫又、よね……猫ちゃんは執念深いわよ? 私ほどではないけれど」
佐賀にサイン色紙を置かせていただくのが、私の夢です






