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死に戻り令嬢ルミア・パテラスは自由に生きたい

作者: WING

異世界恋愛、書くのは初です。

難しい……それでも読んで評価していただけたら幸いです!

 私、ルミア・パテラスは今、処刑台の上に立たされていた。

 死ぬのは怖くない。

 だって、死ぬのはこれで101回目であり、何度も死に戻りを繰り返してきたのだから――……


「これより、アラン王子の暗殺を目論んだルミア・パテラスの処刑を行う」


 民衆目の晒されながら、私の視界に移った二人の人物に視線を向ける。

 一人はこの国、フィレンジア王国の王太子であるアラン王子。もう一人はその婚約者となり、私を陥れた張本人である男爵令嬢のマリア・ハウゼン。

 彼女の家格は男爵家であり、王妃を狙える立場ではない。本来ならそうなのだが、暗殺を阻止したとして王宮や王族からも認められ、異例でアラン王子との婚約へといたった。


 マリアが処刑台にいる私へと歩み寄り耳元で囁いた。


「私の計画にあなたは邪魔なの。アラン様は私のモノよ」


 怪しく笑う彼女を見て、私はようやく理解してしまった。

 ああ、あなたは何度私が死に戻りをしようと、変わらないのですね……

 アラン王子との婚約は政略結婚で、お互いに好意があるわけでもない。

 そんなアラン王子は、この男爵令嬢に惹かれている。

 いくら暗殺など計画していないと言っても、信じないだろう。私が死ぬことになった100回の人生でも、それは変わらなかった。

 何を言っても信じてはもらえず、マリアのことだけは心から信じ切っていた。


「あなたはそれで幸せですか?」

「はい。だって、こんなにも愛している人と添い遂げることができるのですから。これ以上に幸せなことはないですよ」

「それで大勢が死ぬことになってもですか?」

「ええ。愛に犠牲は付き物ですから。私とアラン様の愛は誰にも邪魔はできません」

「歪んだ愛ですね」

「いくらでも言って下さい。あなたは私を止めようと裏で動いていたようですが、それもここまでです」


 その通り。私は彼女を止めようと裏で動いていた。

 それがこの結果だ。王国のため、彼のために最善を尽くそうとした。それでもダメだった。


「そう、ですね。もう終わりにしましょう」


 アラン王太子殿下のことは忘れ、彼女の邪魔をしなければ私の人生はこんなにも狂わなかった。

 ならばいっそのこと、自由に生きればいいじゃないと。そう思った。


「マリー、何を話していたかは聞こえなかったが、これ以上は話さない方がいい」


 そう声をかけたのは元婚約者だったアラン王子。

 非難するような目で私を見ている。


「はい。アラン様。でも、彼女が可哀想で……」


 振り返ったマリアは、先ほどの笑みを忘れたのかのように悲しそうな表情を浮かべていた。


「これもすべて、彼女の行いが原因だ。キミは何も悪くない」


 マリアを抱き寄せたアレンはその場をゆっくり離れた。

 そして処刑人の持つ剣が私の首へと振り下ろされるその瞬間、声が聞こえた気がした。


「――誰かのためじゃない。自分が幸せになるために、自分がしたように自由に生きるといいさ」


 そんな優しい声が聞こえ、私の意識は途切れるのだった。



 ◇ ◇ ◇



 目覚めた私が見たのは見慣れた牢獄ではなく自室であった。

 どうやらベッドで寝ていたようだった。

 両手を確認すると、まだ小さく幼いことが見て取れる。ベッドから起き上がった私は窓の外を見た。

 空は青く透き通っており、屋敷の庭に花々が咲き誇っていた。

 そして理解する。


「また、死に戻りをしたのね」


 そこで死に際に聞こえた言葉を思い出す。


『――誰かのためじゃない。自分が幸せになるために、自分がしたように自由に生きるといいさ』


 101回目となる死に戻り。

 今まで聞こえるはずのなかった声。

 ルミア・パテラスはパテラス公爵家の令嬢である。

 今の年齢は19歳。生まれてすぐにアラン王子との婚約も決まっていた。

 すると部屋にノック音が響く。


「お嬢様、朝食のお時間です」

「すぐに行きます」


 メイドにそう伝え、私は着替えて家族の下へと向かった。

 向かうと、席には父バランや母ヘレン、兄クルトが座って待っていた。


「お父様、お母様、クルトお兄様、お待たせしました」

「今日は遅かったな」

「すみません。支度に時間がかかりました」


 本当は死に戻りしたから確認していたから時間がかかったとは言えない。


「そうか」

「あなた、女の子は準備に時間がかかるものですよ」

「そうは言ってもな……」


 母には強く言えない父を見て、私もクルトお兄様も笑ってしまう。

 すると母が両手を叩く。


「冷めてしまうわ。早く食べましょう」

「それもそうか」


 久しぶりの家族との再会となったルミアは、楽しく朝食を食べるのだった。

 朝食を食べ終えると、お父様が私を見る。


「明日は学園の卒業式だが、今後もアラン殿下のことは任せたぞ」

「はい。ですが、もしものことがあったらどうすればよろしいですか?」

「もしものこと?」


 聞き返すお父様の言葉に私は頷いてもしものことを話す。


「例えば、殿下が婚約破棄を申し出た場合です」

「何を言っている。殿下がそのようなことをするはずがない。そもそも陛下と私は幼い頃からの旧友だ。そんなことあるはずがない」


 断言するお父様だが、何度も死に戻りをしている私は知っているのです。

 殿下は彼女に奪われる運命だということに。何をしても覆らないということを。

 これ以上、アラン殿下を貶めるような発言は止めた方がいいと判断した私は引き下がった。


「申し訳ございません」

「殿下の前では発言に気を付けるように」

「はい」

「では私は王宮に行く」


 お父様はそう言って早々に向かわれてしまった。

 クルトお兄様は私のことを不思議そうに見ていた。


「あの、お兄様なにか?」

「いや。変わったなと思ってな」

「そうでしょうか?」


 首を傾げる私を見て、クルトお兄様はクスクスと笑った。


「そういうところは変わらないか」

「もう、なんですか!」


 頬を膨らます私を見て笑うお兄様に少しムカッとしてしまった。


「いいや。まだまだ子供らしいと思っただけだ。それじゃあ、僕もいくよ」

「お気を付けて」


 残ったのは私とお母様。お母様はクルトお兄様とのやり取りをして面白そうに笑っていた。


「ルミア、あなたも学園に行かないとでしょう?」

「あっ! そうでした!」


 学園の存在をすっかり忘れていた私は、足早に準備を済ませて向かった。

 王立ベルフィート学園は貴族が通う学園であり、貴族としてのマナーや教養が行われる。

 加えて、魔法や剣技などの練習も行われる。将来、騎士団に入る人もいるため、そのような教養も行われている。

 到着した私は学園を眺める。

 死に戻りはいつも同じ過去に戻って来る。アラン殿下が私に婚約破棄を言い渡すのは今夜のパーティー。

 私はもう、自由に生きると決めている。

 いつも通りの学園生活だが、私とアラン殿下の距離は遠い。アラン殿下の側には王国の重鎮の子息に加えて彼女がいた。

 そう。マリアである。

 私は静かにため息を吐いた。


「こんな生活も、早く終わりにしたいのに」


 卒業式も終わり、ついに卒業パーティーが始まろうとしていた。

私は参加したくはなかったが、公爵家の娘ということもあり、加えて婚約者であるアラン殿下も参加するので行くほかない。

だけど、婚約破棄を言い渡されるのに、私の心は澄んでいた。

 会場に向かい、パーティーが始まった。

 アラン殿下に挨拶へと行くと、傍らにはマリアがおり怪しく笑っていた。


「ごきげんよう、アラン殿下」

「ふんっ。よくこの場に出て来れたものだ」

「……なんのことでしょうか?」

「シラを切ってもマリアから聞いているぞ。マリアの教科書を燃やし、制服を切り裂いたことも。それが時期王妃となる者がすることか?」


 私は知っている。すべてがマリアの自作自演であることを。

 それを言ってもアラン殿下はすでに彼女のことが好きになっているので、私の言葉は全て嘘に聞こえているはずだ。


「違います。私は何もしておりません。それにアラン殿下も彼女に騙されてはなりません」


 これは時期国王となるアラン殿下のために言っている忠告だ。

 今後国を背負う者が、そのような女に騙されないようにと。


「まだそのようなことを言うか! 彼女がどれだけ苦しんだと思っている! お前のような女が私の婚約者だとは残念だ……」


 そしてアラン殿下が私に指を差して告げた。


「――この場でお前との婚約を破棄する! 私は彼女と幸せになる!」


 アランはマリアを抱き寄せる。

 周囲からは黄色い悲鳴が上がって大盛り上がり。

 そんな光景を尻目に、微笑みを消さずに私は確認を取る。


「いいのですか? それは多額の出資で王家に貢献している公爵家を蔑ろにしているのと同義ですが?」

「関係ない。そちらが勝手に出資しているだけだ。それに、この婚約だって勝手に決められたものだ。どうせ王妃の座が欲しかっただけだろう。まるで悪役だな」

「悪役でも結構です。では今回の件、陛下にもお話しさせていただきます」

「勝手にしろ。私の言い分を信じるだろうがな」


 私は去り際、アラン殿下に最大の微笑みを向けた。


「ではアラン殿下とマリアさん、末永くお幸せに」


 そう言って私は帰るのだった。

 帰って来た私は、お父様に今回の件をこと細やかに説明すると頭を抱え出した。


「本当にこんなことになるとは……」

「それで、ルミア。お前は本当に何もしてないのだな?」

「はい。何もしておりません。嫌がらせや権力を振りかざす行為は嫌いですので」

「理解しているようで何よりだ。貴族とは権力を振りかざす者だと勘違いしている者が多くて困る。国をよりよくするために尽くすのが貴族というものなのだが……」


 ため息を吐いたお父様が私を見る。


「とにかく、アラン殿下が公の場で婚約破棄したのだ。陛下とも話したが、どうやら殿下とその男爵令嬢に問題があるようだな」

「一つ、よろしいでしょうか?」

「どうした?」


 私は決めていたことをお父様に告げた。

 それは……


「私は婚約破棄されました。私の貰い手はいるでしょうか?」

「いない、だろうな。貴族の間でも扱いには困るだろう」


 お父様は難しい表情をする。

 貴族社会では一度婚約破棄をされてしまえば貰い手は付かない。それが貴族というもの。

 よって私は公爵家では不要であり、いるだけで扱いに困ることになる。死に戻りで知っているのだ。私が公爵家の娘であり、次期王妃として教養されてきたこともあり貰うにも貰い手がいないということを。


「私からお父様にご提案があります」

「ほう? 申して見よ」


 ルミアはもう死に戻りなどをしたくなかった。

 もうこんな立場から逃げたかった。


「私は家を出ます」


 お父様が私の真意を見抜こうと視線を向けてくるので、死に戻りのことは伏せて正直に答えた。


「もうこのような立場は嫌なのです。今後のことも考えると、お父様でも私の扱いに困ると思います」

「確かにルミアの立場を考えれば嫌になるだろう。扱いに困るのも確かだ。だから家を出ていくと? 行く当てはあるのか?」

「辺境でのんびり暮らそうと思います。貴族としてのしがらみからも、厄介ごとからも回避ができますので」

「そうか。ルミアが望むならそうしよう」

「ありがとうございます」


 お父様の判断にルミアは頭を下げたが、困ったように頭を掻きむしっていた。


「なに、娘が困っているなら父として当然のことだ。それに、私はルミアに何もしてあげられなかったからな。できることはさせてほしい」

「ありがとうございますっ!」


 こうして私は辺境で暮らすことになるのだった。


あれから一カ月後。

私は王都から離れた辺境の村へと向かっていた。

幸いにも私は精霊魔法の扱いに長けており周辺の魔物なら余裕で倒すことはできていたが、今目の前にいる魔物はそう簡単に倒せそうにはなかった。

 大型で熊型の魔物であるがレッドグリズリーが威圧していた。

 今の私には倒せないだろう。


「どうすれば……」


 その瞬間、一人のフードを深く被った体格からして男性だろう者が私と魔物の間に割って入った。

 男は何も言わずに鞘に入った剣を引き抜き、一瞬で魔物との間合いを詰めて振るった。

 少ししてレッドグリズリーは倒れ、男は剣を鞘に戻して私の方に振り返った。


「大丈夫か?」


 フードを深く被っているからなのか表情は伺えないが、それでも助けてくれたことに感謝とお礼をする。


「助けていただきありがとうございます」

「気にすることじゃない。私はこの先にある村の護りを任されている剣士のブレインという」


 男がフードを取ると、綺麗な金髪に空のように澄んだ青い瞳がこちらを見ていた。

 目鼻が整っており、どこかの貴族だと言われても納得してしまうほどの気品を備えた青年であった。


「私はルミアと言います。今日からこの先にある村で暮らすことになります」

「キミがそうか……」


 どこか納得したように頷いていた。


「あの、どういうことでしょう?」

「なら歩きながら話そう。ここは魔物が出るからね」


 歩きながら彼は話す。


「私は昔、罪を着せられて処刑されそうになったことがある。そこをキミのお父様であるバラン様に助けてもらい、追放という形で今向かっている村に住んでいる。これでも私は最強と言われた剣士なんだ」


 少し誇らしそうに言うブレインを見て私は思い出した。

 最強の剣士ブレイン。若くして数多いる剣士の中でその頂へと立ち、最強と謂わしめた剣士。ドラゴンを一人で倒したという噂を聞いたこともある。

 なんでも追放されたという噂を耳にしたが、ここにいるとは驚きだった。


「剣王……」

「そうとも呼ばれていたけど昔の話だよ。今はただの田舎村にいるただの剣士さ」


 そこでブレインは不思議そうに私を見ていた。


「でも、どうして公爵家の娘であるルミアさんがこんなところに?」

「お父様から聞いていないのですか?」

「娘が村に住むから何かあれば助けてくれとしか」

「なるほど。これはお父様の言葉足らずなところですね」


 昔から説明するにも端的にいうことがあり、今回もそれだろうと思った。


「実は――」


 私は婚約破棄に至った経緯とここにくることにした理由を説明した。

 話を聞いたブレインは呆れた表情を浮かべていた。


「貴族とは面倒くさいですね。それに王子も王子で何を考えているのか……本当に国を想っているならこういうことはしないと思っていたが。何はともあれ、理由は理解したよ。にしても、逃げ出したのか」

「はい。もう面倒になって、ならいっそのことのんびり暮らそうかと」

「それも悪くない。これからルミアさんが住むことになる村、ラタール村はみんなが良い人だ。きっと気に入ってくれると思うよ」

「少し楽しみです」


 フフッと笑うのだった。

 しばらく歩くと村が見えてきた。村の入り口には一人の少女が立っていた。


「ブレインさん、おかえり!」

「ただいま、ヘレン」


 ヘレンと呼ばれた甘栗色の髪を揺らす少女が、ブレインの隣にいる私へと顔を向けた。


「この人は?」

「昨日話しただろう? 今日からラタール村に住むことになったルミアさんだ」

「わぁ~、きれい」


 ヘレンの私を見る顔が輝いていた。

 無邪気な笑顔はルミアにはとても明るく見え心が安らぐ。


「お姉ちゃん、この村に住むの?」


 私は座ってヘレンと目線を合わして微笑む。


「ええ。今日からお世話になりますね」

「うん! 私が村を案内してあげるよ!」

「是非お願いしますね」


 私はヘレンに手を引かれて村を案内された。

 そこで村長に挨拶をしたのだが、私が貴族のそれも公爵ということもあってか緊張していた。この村に住むことになるのでいつも通りにしてほしいと頼んだが、まだまだ時間はかかることになる。


「それじゃあ、ルミアさんの家に案内するよ。ずっと荷物を持っているのも疲れるからね」

「お願いします」


 ブレインに連れられてこれから私が住む家へと案内された。


「ここが今日からルミアさんの家になる」


 案内された家は村にある家と遜色はなく造りもしっかりしている。

 四人くらいなら暮らせそうな広さがあり、私一人で暮らすにはちょっと広すぎると思う。


「私にはもったいないですね」

「そんなことないさ。ルミアさんも晴れて家族なんだから」

「そうだよ! 村のみんなは家族なんだから! この村に住むお姉ちゃんはもう家族だよ!」


 家族という言葉に、一人でここまで来た私にとっては嬉しい言葉だった。

 家族と離れるのは寂しいと思ったが、この明るいみんなとなら楽しくやっていけると思えた。


 ルミアがラタール村に来てから半月が経った頃、村の広場でブレインを中心に男性達が集まってなにやら話していた。

 気になったので向かうと、近づく私に気付いたブレインが向かってきた。


「ブレインさん、何かあったのですか?」

「ルミアさん。実は……」


 ブレインは最近起きている異変に付いて説明した。

 それは近辺の森で何か大型の魔物が棲み着いており、近辺の動物がいなくなっているとのことだった。

 魔物とはゴブリンなどもいるのだが、その程度なら冒険者と呼ばれる魔物を倒すプロがいるので任せておけば問題はない。

だが、その中でも大型となると、近辺の村や街などに被害が出る可能性があり、軍を出して討伐する必要性が出てくる。


「魔物の特徴などは?」


 ブレインは首を横に振った。つまり情報がないということになる。

 私には精霊魔法があるので、多少の戦力にはなると考えブレインに提案した。


「私も同行したいです。こう見えて精霊魔法は得意なんです」

「だが……公爵の娘であるルミアさんを巻き込むわけにはいかない」

「それでも、お願いします! 貴族にも関わらずこんなにも優しく、親身になってくれるみんな、家族を守りたいんです!」


 しばらくしてブレインはため息を吐いた。


「分かった。だけど、無理はしないでください。私が逃げてと言ったら逃げるようにしてくださいね? ルミアさんが怪我をしたら公爵に顔向けできません」

「ありがとうございます!」


 すると服の裾が引っ張られた。見るとヘレンが不安そうな表情で私を見ていた。

 私は安心させようとヘレンの頭を撫でる。


「みんな大切な家族だから守りたいの」

「お姉ちゃんは強いの?」

「ええ。私はこう見えて優秀な精霊魔法使いなんですよ」

「絶対戻ってきてね」

「ええ、約束するわ」


 それから準備を済ませ、ブレインと一緒に森へと向かった。

 向かう途中、ブレインは私がどれくらい戦えるのかを聞いてきた。


「そうですね、こう見えて戦うのは初めてなんです」

「ならどうして……」

「言ったじゃないですか。ブレインさんと同じで、みんなを守りたいです。だって――家族ですから」

「愚問だった。この先だ。慎重に動こう」


 周囲に気を配りながら移動することしばし。ブレインが立ち止まり、口元に人差し指を当てた。

 静かにという合図だ。

 頷いた私はブレインが指差す方向へと顔を向けて目を見開いた

 その先に居たのは白く美しい大型の狼で思わず見惚れてしまった。

 伝承などで聞いたことがある、神獣と呼ばれる存在――神狼フェンリル。

 それが目の前に存在していた。

 寝ていたのか、フェンリルが隠れている私とブレインへと視線を向けた。


「バレているのか……さすがは神獣だな」


 ブレインが茂みから姿を現した。私も意を決してフェンリルの前へと出た。

 こちらを見据える眼光は鋭く、心の中まで読み取られているように感じてしまう。

 ブレインが剣を収めて口を開いた。


「私はブレイン。こっちはルミアという。私達に敵意はない。一つ聞きたい。フェンリルがどうしてこのような場所にいる?」

『……我が名を知っているとはな』

「喋った⁉」

『何を驚いている小娘。我は魔物などではなく神獣だ。神に最も近しい存在だ。喋れるのは当然のこと。敵意がないと言うのは、その小娘を見ればわかる』


 戦わなくてよかったことに思わず安堵する。

 ブレインは続ける。


「どうしてこのような場所に?」

『我は孤高の存在だ。どこに行こうとどこに棲もうと関係ない。今はただ、ここで休んでいただけだ』

「だったら早く移動してくれたら助かる」

『ほぅ……この我に命令するか?』


 眼光がブレインに向けられる。


「周辺の魔物があなたの魔力や気配に当てられて逃げている。それが周辺の村や街に被害が出るかもしれない」


 そこで私も一歩前に出てフェンリルにお願いする。

 怖い、また死ぬかもしれない。そんな恐怖に駆られながらも、それでもみんなを守るために、助けるためなら。


「私からもお願いします!」


 私は深く頭を下げると、隣でブレインも頭を下げた。


「村の安全のために、どうかお願いします」


 静寂が続く。


『娘、名前はなんといった?』

「ルミアです。ルミア・パテラス」

『ルミア。お前は中々に面白く、それでいて壮絶な人生を送っているようだ。それにこの気配は、そうか……奴が加護を授けたのか』

「あの、何を言って?」

『ここで話したくないなら別に構わない。ただ、奴が加護を授ける理由が何となく理解できる。優しいのだな』


 フェンリルは私が死に戻りをしていることを知っているような口調だった。いや、多分何もかもが視透けているのだろう。


「それで、移動していただけないでしょうか?」

『ふむ。では私も村に住まうとしよう』

「え?」

『移動しろと言ったのはそっちだ。どこに行くにも我の自由だと思うが、違うか?』

「そうですが、どうして村に?」

『我はルミア、そなたに興味があるのだ。これほどまでに優しい心を持った人間は初めて出会った。それに人間一人分の人生だ。我から見れば短いもの』


 私は思わずブレインの方を見た。

 急にフェンリルが一緒に住むと言われても困るというもの。


「まさかフェンリルがルミアに興味を持つとは……ルミアさんを含めて、村のみんなに危害を加えないということでいいんだな?」

『当然だ。近寄ってくる魔物とかは我が駆除しよう。狩りなども任せておけ』

「それは助かるな……でも住むには条件がある」

『条件とな?』

「気配と魔力だけは抑えてほしい。あと、そこまで大きいと村のみんなも怖がる」

『それくらいなら構わない』


 そう言うと犬より少し大きいくらいのサイズへと小さくなり、気配も魔力も無くなった。


『これいで良いな?』

「ああ。もう問題はない。だが、何かあれば容赦はしない」

『心配いらない。ほれ』

「え? 急に光が!」


 私の手の甲が光り、紋章が浮かぶ。


『それは我が主と認めた証である契約の紋章だ。ルミアなら我も異論はない。それがあれば我に命令もできる。ブレインといったな。これで文句はないな?』

「そこまでしてくれたんだ。言うことはない」

『ではこれからよろしく頼む』


 こうして神狼フェンリルと契約を果たすのだった。

 村に戻りフェンリルのことは白い狼でルミアに懐いて契約したという設定にしておいた。

 そして森に現れた大型の魔物はこの狼と協力して倒したことにした。


「無事でよかった! 狼の名前はなんていうの?」


 ヘレンがフェンリルを撫でながら聞いてくる。

 フェンリルもブレインも私を見つめてくる。まさか、神獣に名前を付ける日が来るとは思わなかった。


「そうですね……シロとかどうでしょうか?」


 白いからシロ。

 私ながらに安直な気もしてしまう。

 気に入ったのか、フェンリルもといシロは遠吠えをあげる。


「ふふっ、気に入ってもらえたなら良かったです。これから家族としてよろしくお願いしますね」


 そう言って私はシロの頭を撫でた。

 シロが獲ってきた肉を使って宴会が開かれ、騒がしく楽しい夜となるのだった。


 そして私は思う。

 私、ルミア・パテラスの自由な生活はまだ始まったばかりなのだと。


最後までお読みいただいてありがとうございます!

好評でしたら連載しようかと考えています。

ざまぁとかの要素は連載版とかで書ければなと思っています。


【私から読者の皆様にお願いがあります】


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