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虚無編第3話 前世の追憶


いつの間にか後ろには俺が立っていた。

「場所をかえさせてもらう。あの2人に聞かれると色々とまずいからな。」

もう1人の俺が指を鳴らすと当たりの景色は真っ暗になっていた。黒い空間だがきちんと明るく、二つの白い椅子があった。もう1人の俺は椅子の一つに腰を掛け、話し始めた。

「さぁ、話させてもらうよ。」


「まずオレの話だ。お前は先ほど虚無の女神について知ったな。」

「ああ、虚無の女神なんてでたらめだろう。」

「彼女は存在する。いや、存在していたと言ったほうがいいか。」

「なんだと。」

「彼女は世界を消さなかった。消せなかったんだ。世界を消したいと思っていても無意識の内にな。」

「待て。なぜお前にそんなことが言える。」

もう1人の俺は笑いながら答えた。

「それは…オレが創造神で、妹が虚無の女神だからだ。」


もう1人の俺は少し黙った後話し始めた。

「これはオレがまだ人間だった頃の話だ。」




その頃、オレとミリはとある魔法使いの子供だった。

オレたち家族は周りの魔法使いとは違った研究をしていて気味悪がられていた。

オレが妹と出かけていた時の話だ。

「ミリ。何か欲しいものはあるか?」

「ううん、お兄ちゃんがそばにいてくれるだけで幸せだよ。」

「そうか…」

そんな時、周りの者の内の一人が石を投げてきた。それに続いて、一人一人と石を投げる者が増えた。オレにはミリをかばうのが精いっぱいで言い返すこともできなかった。それと同時に自身の無力さに打ちひしがれていた。

「お兄ちゃん大丈夫?」

気がつくとミリが家で介抱してくれていた。

「大丈夫だ。お前にだけは心配させたくはないからな。」

そんな感じで毎日を過ごしていたある日、

両親が突然処刑された。嫌われていたからか、様々な罪をあることないこと全部吹っ掛けられて処刑されたらしい。オレにはもはや親なんて関係なかった。大切な妹の幸せを守ることだけがオレの全てだった。

そして、家の隠された地下室を見つけた。これが地獄の始まりだったんだ。

オレはその地下室でとんでもないものを見つけた。それが錬金術の禁忌だった。対価として適切なのならば理論上どのような願いでもかなえられるという伝説だった。だが、あまりにも高望みをしてしまえば自分が消える。それは誰もが最も大切なものは自分自身だからだ。

オレは覚悟を決めた。

「オレは妹を幸せにする。」

だが、本は反応を示さなかった。

それからオレはなぜ反応しなかったのか。それが気がかりだった。願い方が曖昧過ぎたのか、それとも何か叶えられない例外的な事象なのか。そんな時一つの考えが生まれた。オレは無力だった。オレが妹を守れるような力を…いや、これではオレ自身が消えてしまっては意味が無い。ならオレが消えても消えなくてもいいようにオレとミリの二人に力を与えるようにすればいいと思った。そう思い立った途端オレは地下室に向かいそれを願った。

「オレとミリにすべてを自由にできる力を与えてくれ。」

そう願った途端本が光りはじめた。

「お兄ちゃん!」

そう聞こえ振り返るとミリがいた。ミリはこちらに走り抱きついた。その瞬間、大きな光が辺りを包み込んだ。その時に気づいた。そこにいたはずの妹がいないことに。




「オレはバカだった。妹を守りたいが故自分を犠牲にしようと思った。だが、オレたちにとって一番大切だったのは自分達自身ではなかった。お互いの存在だったということだ。」

「ん?なぜだ。妹は消えたんじゃなかったのか?」

俺はそんなことを聞いた。

「オレたちは確かに途方もないような力を手に入れた。だが、この二つの力は決して交わることのない対角の力だ。そう簡単には会えない。そのうえ…」

もう1人の俺はうつむきながら言った。

「オレにはもう妹に対して兄と言えるような存在ではないということだ。」

「そうか。」

「オレは妹を裏切った。アイツは最初から答えを言ってくれていた。オレがいるだけでいいと。オレはアレを無理して言っていると思ってしまっていた。だが、アイツは本当の意味でオレといる日常を大切に思っていてくれたんだ。妹を信じなかったオレは兄失格だ。」

「…なら、オレが言えた立場じゃないが、オレがお前の代わりに謝ってやる。お前と似た俺がいるのも妹がいるのも偶然とはいいがたい。未離が俺の妹になった日からこの運命に必然性を感じていた。これはお前の妹がお前に会うために用意した運命なんだと俺は思っている。どうだ?会う気になったか?」

「いや全然だ。妹には会いたいが、オレに兄を名乗る資格なんてない。それは変わらない。そうだ、お前がオレの代わりになればいい。この力を完全に渡し、お前がオレの代わりに兄になってあげてくれ。」

あまりに突然なことだったが、こいつも妹を思う気持ちは変わらない。

「ああ、分かった。」

俺は身に余るような力を宿した。俺にはこいつらの運命に巻き込まれたわけじゃなく、元から俺自身も赤の他人じゃないような気がした。ただそれだけで俺はこれから巻き起こる大きな運命の鎖をかき分けていくことになる。だが、妹を救うためならそれでもよかった。



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