8ボーグ ここは通さねーぜぇ
『何やってんだサノォォォォォォッ!! もう予選始まってんぞ!』
「……ハッ」
ふと我に返ると、既に辺りには俺以外誰もいなくなっていた。
ヤ、ヤバい!
俺も急がなきゃ!
『……てかルイカ、今タメ口じゃなかったか?』
『うわぁ、サノウさんてそういうの気にしちゃうタイプなんですね。そりゃモテないわ』
『う、うるせーな!』
俺は慌てて、独り暗雲立ち込める(慣用句)ビダ山脈へと入っていった。
「……ないなぁ」
差し当たり近場をざっと探してみたものの、案の定ムァツ茸の気配すら感じることはできなかった。
『そりゃこんな山の麓付近に生えてるムァツ茸は、とっくの昔に職人が狩り尽くしてるでしょうからね。ここはまだ人の手の入ってない、山奥を目指すのが定石っすよ!』
『やっぱそうなるよなぁ』
まあ、今の俺なら大抵の魔獣には勝てるだろうし、ある意味それが一番手っ取り早いか。
意を決して山奥へと歩を進めようとした、その時――。
「ヒャッハー! ここは通さねーぜぇ」
「ヒャッハー!」
「ヒャッハッハー!」
「っ!?」
例のモヒカン3人組が、俺の前に立ちはだかった。
「……何の用だよ」
「ヒャッハー! 察しが悪ぃなぁ! 俺たちにヒャハい真似した落とし前つけるために、待ち伏せてたに決まってんだろぉ?」
「ヒャッハー!」
「ヒャッハッハー!」
「はぁ!? そ、そんなことしてる場合かよッ! 今は一刻を争う予選の最中なんだぞ!?」
頭の中までヒャハってんじゃないかこいつら!?(ヒャッハーの使い方これで合ってるかな?)
「ヒャッハー! その点は抜かりねーよ。要はムァツ茸を採ってきたやつから分捕りゃいーんだからなぁ」
「ヒャッハー!」
「ヒャッハッハー!」
「なっ!?」
そんな、卑怯な……!?
……いや、卑怯じゃないか。
コトウさんも『何でもアリ』って言ってたもんな。
たとえ他者から掠め取ったムァツ茸だったとしても、コトウさんにそれを納めた者が正義。
これはそういう戦いなんだ。
「つーわけで、まずはお前のことをヒャッハヒャハにしてやるぜぇ!」
「ヒャッハー!」
「ヒャッハッハー!」
「くっ……!」
そう言ってモヒカンリーダーが取り出したのは――長大な三節棍だった――!
そしてモヒカンその2が取り出したのは――長大な三節棍――!!
更にモヒカンその3が取り出したのは――長大な三節棍――!!!
――まさかのトリプル三節棍!?!?
「ヒャッハー!」
「ヒャッハー!」
「ヒャッハッハー!」
3人はその場で三節棍を豪快にブン回す。
――すると、
「ヒャッハ!?」
「ヒャッハ!?」
「ヒャッハッハ!?」
お互いの三節棍がぶつかり合って、しっちゃかめっちゃかになった。
いやそりゃそうなるだろッッ!!!!
完全にこいつら真正のヒャハボーイだわッ!!(ヒャハボーイ?)
『お約束ってやつですねえ。いやあ、癒されるなあ』
『勝手に癒しを感じるな』
とはいえ、俺も少しだけほっこりしたけど。
「くっ! お、お前ら、散れ! こいつを三方からヒャハるんだ!」
「ヒャッハー!」
「ヒャッハッハー!」
「――!?」
今度は多少は頭を使ったのか、3人は俺を等間隔に取り囲んだ。
こ、これは、ヤバい!?
「ヒャッハー!!!」
「ヒャッハー!!!」
「ヒャッハッハー!!!」
「くぅ!」
3人の三節棍が、嵐のように俺に襲い掛かる――。
「ヒャハハハハハハ!! お前をヒャハいミンチにしてやるぜぇ!」
「ヒャハハハハハハ!!」
「ヒャーハハハハハハ!!」
「……」
うん、盛り上がってるところ申し訳ないけど、正直まったく痛くも痒くもないわ。
『なあルイカ、ひょっとして俺って、痛覚ないの?』
そういえばサイボーグになってから、一度も痛みを感じたことがないのに今気付いた。
『いえ、痛覚は生き物が生活するうえで必須のアラートサインですからね。通常の人間よりは抑えられているとはいえ、サイボーグであるサノウさんも傷を負えば相応の痛みは感じます。つまり、こいつらの攻撃は、サノウさんに毛ほどのダメージも与えられていないということですね』
『……そっか』
これは単にこいつらの攻撃がショボいだけなのか、それとも俺の身体が頑丈すぎるのか、はたまたその両方なのかは何とも言えないが、敵ながら若干可哀想になってきたな。
「ヒャハ!? な、何で俺たちの『ヒャハヒャハラッシュ』を喰らって平気な顔してやがる!?」
「ヒャハ!?」
「ヒャハッハ!?」
何でって、実際平気だしなぁ。
あと今更だけど、モヒカンその2とその3は「ヒャッハー」しか言わないんだね?
よくそれで意思疎通ができるなぁ。
そして一瞬スルーしてあげようかと思ったけど、やっぱ『ヒャハヒャハラッシュ』のネーミングのダサさには触れざるを得なかったわ。
――その時だった。
ドーンという無機質な花火の音が、辺りに響き渡った。
「「「「っ!!!」」」」
そ、そんな!?
まさか、もう予選突破者が!?
『おっとー、これは悠長にザコの相手してる暇はなさそうですね』
『……ああ、そうみたいだな』
悪いがこいつらには、ここでご退場願おう。
――俺はまずモヒカンリーダーの懐に飛び込んで軽く腹パンを一発。
「ヒャハッ!!?」
次にモヒカンその2のところに行って同様に腹パンをドン。
「ヒャハッ!!?」
最後にモヒカンその3に以下同文。
「ヒャハッハッ!!?」
あっという間にトリプルぐったりモヒカンの完成と相成った。
『……これ、殺しちゃってないよね?』
『さあ、多分大丈夫じゃないですかね? サノウさん今、相当手加減してたでしょ? 因みにサノウさんが本気でパンチしたら、余裕で胴体貫通しちゃうんで気を付けてくださいね』
『マジかよ』
おちおち漫才のツッコミもできやしない(相方いないけど)。
『さあさあ、閑話休題、ムァツ茸狩りにヒィィウィィゴーッ』
『お、おう』
ある意味戦闘よりも、そっちのほうが俺にはネックだな。