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8/22

8ボーグ ここは通さねーぜぇ

『何やってんだサノォォォォォォッ!! もう予選始まってんぞ!』

「……ハッ」


 ふと我に返ると、既に辺りには俺以外誰もいなくなっていた。

 ヤ、ヤバい!

 俺も急がなきゃ!


『……てかルイカ、今タメ口じゃなかったか?』

『うわぁ、サノウさんてそういうの気にしちゃうタイプなんですね。そりゃモテないわ』

『う、うるせーな!』


 俺は慌てて、独り暗雲立ち込める(慣用句)ビダ山脈へと入っていった。




「……ないなぁ」


 差し当たり近場をざっと探してみたものの、案の定ムァツ茸の気配すら感じることはできなかった。


『そりゃこんな山の麓付近に生えてるムァツ茸は、とっくの昔に職人が狩り尽くしてるでしょうからね。ここはまだ人の手の入ってない、山奥を目指すのが定石っすよ!』

『やっぱそうなるよなぁ』


 まあ、今の俺なら大抵の魔獣には勝てるだろうし、ある意味それが一番手っ取り早いか。

 意を決して山奥へと歩を進めようとした、その時――。


「ヒャッハー! ここは通さねーぜぇ」

「ヒャッハー!」

「ヒャッハッハー!」

「っ!?」


 例のモヒカン3人組が、俺の前に立ちはだかった。


「……何の用だよ」

「ヒャッハー! 察しが(わり)ぃなぁ! 俺たちにヒャハい真似した落とし前つけるために、待ち伏せてたに決まってんだろぉ?」

「ヒャッハー!」

「ヒャッハッハー!」

「はぁ!? そ、そんなことしてる場合かよッ! 今は一刻を争う予選の最中なんだぞ!?」


 頭の中までヒャハってんじゃないかこいつら!?(ヒャッハーの使い方これで合ってるかな?)


「ヒャッハー! その点は抜かりねーよ。要はムァツ茸を採ってきたやつから分捕りゃいーんだからなぁ」

「ヒャッハー!」

「ヒャッハッハー!」

「なっ!?」


 そんな、卑怯な……!?

 ……いや、卑怯じゃないか。

 コトウさんも『何でもアリ』って言ってたもんな。

 たとえ他者から掠め取ったムァツ茸だったとしても、コトウさんにそれを納めた者が正義。

 これはそういう戦いなんだ。


「つーわけで、まずはお前のことをヒャッハヒャハにしてやるぜぇ!」

「ヒャッハー!」

「ヒャッハッハー!」

「くっ……!」


 そう言ってモヒカンリーダーが取り出したのは――長大な三節棍だった――!

 そしてモヒカンその2が取り出したのは――長大な三節棍――!!

 更にモヒカンその3が取り出したのは――長大な三節棍――!!!

 ――まさかのトリプル三節棍!?!?


「ヒャッハー!」

「ヒャッハー!」

「ヒャッハッハー!」


 3人はその場で三節棍を豪快にブン回す。

 ――すると、


「ヒャッハ!?」

「ヒャッハ!?」

「ヒャッハッハ!?」


 お互いの三節棍がぶつかり合って、しっちゃかめっちゃかになった。

 いやそりゃそうなるだろッッ!!!!

 完全にこいつら真正のヒャハボーイだわッ!!(ヒャハボーイ?)


『お約束ってやつですねえ。いやあ、癒されるなあ』

『勝手に癒しを感じるな』


 とはいえ、俺も少しだけほっこりしたけど。


「くっ! お、お前ら、散れ! こいつを三方からヒャハるんだ!」

「ヒャッハー!」

「ヒャッハッハー!」

「――!?」


 今度は多少は頭を使ったのか、3人は俺を等間隔に取り囲んだ。

 こ、これは、ヤバい!?


「ヒャッハー!!!」

「ヒャッハー!!!」

「ヒャッハッハー!!!」

「くぅ!」


 3人の三節棍が、嵐のように俺に襲い掛かる――。


「ヒャハハハハハハ!! お前をヒャハいミンチにしてやるぜぇ!」

「ヒャハハハハハハ!!」

「ヒャーハハハハハハ!!」

「……」


 うん、盛り上がってるところ申し訳ないけど、正直まったく痛くも痒くもないわ。


『なあルイカ、ひょっとして俺って、痛覚ないの?』


 そういえばサイボーグになってから、一度も痛みを感じたことがないのに今気付いた。


『いえ、痛覚は生き物が生活するうえで必須のアラートサインですからね。通常の人間よりは抑えられているとはいえ、サイボーグであるサノウさんも傷を負えば相応の痛みは感じます。つまり、こいつらの攻撃は、サノウさんに毛ほどのダメージも与えられていないということですね』

『……そっか』


 これは単にこいつらの攻撃がショボいだけなのか、それとも俺の身体が頑丈すぎるのか、はたまたその両方なのかは何とも言えないが、敵ながら若干可哀想になってきたな。


「ヒャハ!? な、何で俺たちの『ヒャハヒャハラッシュ』を喰らって平気な顔してやがる!?」

「ヒャハ!?」

「ヒャハッハ!?」


 何でって、実際平気だしなぁ。

 あと今更だけど、モヒカンその2とその3は「ヒャッハー」しか言わないんだね?

 よくそれで意思疎通ができるなぁ。

 そして一瞬スルーしてあげようかと思ったけど、やっぱ『ヒャハヒャハラッシュ』のネーミングのダサさには触れざるを得なかったわ。


 ――その時だった。


 ドーンという無機質な花火の音が、辺りに響き渡った。


「「「「っ!!!」」」」


 そ、そんな!?

 まさか、もう予選突破者が!?


『おっとー、これは悠長にザコの相手してる暇はなさそうですね』

『……ああ、そうみたいだな』


 悪いがこいつらには、ここでご退場願おう。

 ――俺はまずモヒカンリーダーの懐に飛び込んで軽く腹パンを一発。


「ヒャハッ!!?」


 次にモヒカンその2のところに行って同様に腹パンをドン。


「ヒャハッ!!?」


 最後にモヒカンその3に以下同文。


「ヒャハッハッ!!?」


 あっという間にトリプルぐったりモヒカンの完成と相成った。


『……これ、殺しちゃってないよね?』

『さあ、多分大丈夫じゃないですかね? サノウさん今、相当手加減してたでしょ? 因みにサノウさんが本気でパンチしたら、余裕で胴体貫通しちゃうんで気を付けてくださいね』

『マジかよ』


 おちおち漫才のツッコミもできやしない(相方いないけど)。


『さあさあ、閑話休題、ムァツ茸狩りにヒィィウィィゴーッ』

『お、おう』


 ある意味戦闘よりも、そっちのほうが俺にはネックだな。



2021.8.20追記

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


「家紋 武範」様から「ここは通さねーぜぇ」のファンアートをいただきました!

誠にありがとうございます!!!

家紋 武範様の


「侯爵令嬢意中の人の正体は?」


https://ncode.syosetu.com/n0142hd/


も、是非ご高覧ください!

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒャハ三兄弟! 確かにそんなところありますよねー! うん、ただの悪い奴らじゃないと思ってたよ君たち!(したり顔)
[良い点] 今回本文中のヒャハ率が、異様に高いですねw
[良い点] ヒャハボーイ!? もしオープニング曲があったとしたら、 君はヒャッポイ ヒャッポイ ヒャッポイ ヒャッポイ! と聴こえるに違いありません(笑)
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