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6/22

6ボーグ その事実は覆らないんだよ?

「フッ、着いたな」

「……マジっすか」


 本当にあっという間にビダ山脈に着いてしまった。

 おそらく1時間もかかっていないのではないだろうか。

 このバイクが世の中に普及したら、産業に革命が起きそうだな……。


「では私に手伝えるのはここまでだ。健闘を祈る。予選が終わったら思念を飛ばすから、またどこかで落ち合おう」

「は、はい、本当にいろいろありがとうございました!」

「フッ、頑張りたまえ。なーに、今の君なら、予選は目をつぶっていても突破できるさ」

「それはどうでしょう……」


 ミネさんは左手を俺の肩に置き、右手ではサムズアップを向けてきた。

 ミネさんからの信頼が若干重い。

 まあ、この身体はミネさん謹製の反則級兵器だ。

 確かに普通にいけば、予選くらいは楽勝なはずだけど。


「ただしくれぐれもヘルメットは外さないようにな。世間は君のことを死んだと思っている。そんな君がひょっこり現れたら、サイボーグ云々以前に余計な混乱を招く。予選の受付でも偽名を使うように」

「わ、わかりました」


 本音を言えば、一刻も早くチハに俺が生きていることを伝えたいところだが、あと少し、俺がこの大会で優勝するまでの我慢だ。


「ルイカもサノウ君を頼むぞ」

『了解でありますマスター! まったくサノウさんたら、ワタシがいないと何もできないんですから』

「そんなことはない」


 何だよそのダメ男に共依存してる女ムーブは。

 ――俺は溜め息を零しながらミネさんと別れ、一人予選の受付へと向かった。




「……ふう」


 受付は特に滞りなく済んだ(因みにウノウ・デツヤという偽名で申請した)。

 ざっと辺りを見回してみるが、今年もかなりの数の参加者だ。

 100人近くはいそうだな。


「ザザキさん、今年も絶対優勝してくださいね!」

「ザザキさん、私、応援してますから!」

「ハハ、ありがとう、みんな」


 ――!!

 この声は――!!

 振り返ると、そこには若い女性たちに囲まれたザザキが、黄色い声援を一身に受けていた。

 ――ザザキッ!!!

 もう俺の身体に皮膚はないはずなのに、全身が粟立つような感覚がする。

 頭が沸騰して、怒りのあまり視界が歪む。

 ――お前、昨日俺のことをあんなに無残に殺しておいて、そんな平然としているのか……!

 どうやらこいつは、人の皮を被った悪魔らしい。

 ならいっそ、この場で――。


『サノウさーん、落ち着いてくださーい。そんなことしたら、ザザキと同じ外道になっちゃいますよー。はい、ヒッ・ヒッ・フー。ヒッ・ヒッ・フー』

「――!!」


 ルイカ……。

 ……そっか、そうだよな。

 ザザキと決着をつける場所は、ここじゃない。


『……ありがとうルイカ。助かったよ』

『いえいえー、お礼は可愛らしい下着をプレゼントしてくれれば、それでオッケーですよ』

『何でだよ』


 お前下着必要ないだろ。

 仮に必要だったとしても、俺に女物の下着を買いにいけというのか?

 そんな勇気は俺にはない。


「あっ、チハさん、本当に君も参加するのかい?」


 ――!!?

 ザザキが横を通りすぎた女性に、心配そうに声を掛けた。

 見れば、それは紛れもなくチハだった――。

 ――チハッ!!

 だが、チハは酷く憔悴しており、目も真っ赤だ。

 ……まるで一晩中泣き続けていたかのように。

 そしてその胸には、血に染まったネックレスがかけられている。


「ええ、何度も言わせないで。私は必ずこの大会で優勝するわ。――たとえ相手があなたでもね、ザザキ」

「……サノウはもう死んだんだ。その事実は覆らないんだよ?」

「うるさいッ!」

「「「――!!」」」


 ……チハ。

 チハは目元に涙を浮かべながら、ザザキに一瞥もせず一人でどこかへ行ってしまった。


「な、何よあの女! せっかくザザキさんが心配して声を掛けてくださったのに!」

「あんな失礼な女のことなんて、気にすることないですよ、ザザキさん!」

「ハ、ハハ」


 取り巻きの女性たちに愛想笑いを浮かべているザザキだが、握った拳が微かに震えているのを、俺は見逃さなかった。

 チハが俺の死に相当ショックを受けているのは見て取れたが、何故あんなにも優勝に執着しているのかは謎だな……。

 そんなに欲しいものでもあるのかな?


「邪魔だ、どけ」

(いて)ッ!?」


 その時だった。

 不意に後ろから、誰かに肩を押された。

 実は全然痛くはなかったけど、こういう時反射的に「痛い」と言ってしまうのは何故だろう?

 てか、誰だよ押したのは!


「……あ」

「アァン? 何だ貴様、俺に何か文句でもあるのか?」

「あ、いや……、何でも、ないです……」

「フン」


 その男は俺を一睨みすると、肩で風を切りながら歩いていった。

 ……あの人も参加しているとは。


『今の強面のオッサンはお知り合いですか?』

『ああ、……俺の直属の上司だよ』

『あらら、それはそれは』

『……バヤシ隊長っていうんだけどさ。俺、魔力が低いのもあって目の敵にされてて。毎日いびられてるから、正直苦手なんだ、あの人』

『なるほど、典型的なパワハラ上司ですね』

『パワハ、ラ?』


 またルイカが聞き慣れない単語を口に出してるな。

 ミネさんもだけど、その語彙はどこから仕入れてるんだろう?


「ヒャッハー! ようようそこのヒャハいねーちゃんよお。俺たちとヒャッハーなことしよーぜえ」

「ヒャッハー!」

「ヒャッハッハー!」

「んふふ、あなた達でわたしの相手が務まるかしら?」


 ――!?

 今度は何だ!?

 声のした方に目線を向けると、やたら露出度の高い豹柄の服を着た妖艶な女性が、3人の男に取り囲まれているところだった。

 しかもその男たちは、みんなモヒカン刈りで、トゲトゲ付きの肩パットを装着している。

 随分前衛的なファッションだな!?!?

 巷ではこういうのが流行ってるの!?!?


「ヒャッハー! 務まるに決まってるだろう? ねーちゃんをめくるめくヒャッハーな世界に連れてってやるぜぇ!」

「ヒャッハー!」

「ヒャッハッハー!」

「あらあら、どうしたものかしら」


 ヒャハヒャハうるせーな!?

 ……ああもう、あまり目立つことはしたくないんだけどな。


「あ、あのう」

「ヒャハ? 何だテメェは!? 変な覆面しやがって。今ヒャッハーの最中なんだよ! 邪魔するんじゃねぇ!」

「ヒャッハー!」

「ヒャッハッハー!」


 ヒャッハーの最中って何だよ。


「そ、そちらの女性困ってるじゃないですか。あなたたちも大会参加者なんですよね? ここで余計な揉め事を起こしたら、失格になっちゃうかもしれませんよ」

「……チッ、ガキがヒャハいこと言いやがって。――行くぞ、お前ら」

「……ヒャハ」

「……ヒャハッハ」


 ふぅ、意外とあっさり引き下がってくれたな。


『やるじゃないですかサノウさあん! 流石ラノベ主人公!』

『だからそのラノベ主人公って何なの!?』

「んふふ、ありがとね坊や、お陰で助かったわ」

「あ、いえ、別に大したことは……」

「あのままだったら私、あの子たちを()()()()()()()なっちゃってたかもしれないわ」

「……え」


 今、何と?


「じゃあね坊や、お互い予選頑張りましょ」

「は、はい」


 妖艶なおねえさんは、俺にウィンクを一つ投げ掛けると、優雅に去っていった。


『綺麗な薔薇には棘がある、ってね!』

『……どうやらそのようだな』


 本当に予選を突破できるのか、俄然不安になってきた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒャッハーも出て来ヒャッハー!? 肘川って大概魔境だと思ってたけど、ホントに魔境になっちゃうなんてなあ……。 ……って、いや待てよ? 決めつけるには早計だ……なんせ、ヒャッハーなんて世紀…
[良い点] ヒャッハーの最中に吹きました。 彼らは頭の中で何をしてたんでしょうか……
[気になる点] めくるめくヒャッハーな世界。 ヒャッハーの最中。 ヒャハいこと。 これで会話が通じて内容も何となく分かるところが気になりつつも面白いです。
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