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4ボーグ 私はほんの少し、君本来の力を引き出す手伝いをしたにすぎんよ

「ゴガアアアアアア!!」

「くぅっ!?」


 鋭い爪を備えた、アブソリュートヘルフレイムドラゴンこと、樹海のヌシの左前脚が俺に振り下ろされる。

 よ、避けられない――!

 俺は思わず身構えた。

 ――あ、死んだこれ。

 せっかくサイボーグとして生まれ変わったってのに、もう幕切れとは。

 短い人生――いや、サイボーグ生だった……。


「ゴアッ!?」

「――え?」


 が、ヌシの前脚が俺の構えている腕に触れた瞬間、ピタリとヌシの動きが止まった。

 ……いや、違う。

 ヌシが止まったんじゃない、()()()()()んだ。


『フッ、だから言っただろう? あくまで練習相手だと。この程度の相手、今の君なら物の数ではないよ』

「マジっすか!?」

『よおっしゃああああ!! サノウさん! 今度はこっちの番ですよおお!! ()()使いましょう、()()!』

「どれ!?」


 俺とルイカはまだ出会って間もないんだから、そんなツーカーな感じでこられても!?


『イメージしてください、右腕が全てを斬り裂く刃となることを』

「っ!?」


 ――刃!?

 え、えーと、こんな感じかな?

 俺は右腕が鋭利な刃物になるよう、イメージした。

 ――すると、


「ガギャアアアアアッ!!!」

「――!!!」


 次の瞬間、ヌシの巨木ほどもある左前脚が、無残にも切断され宙を舞っていた。

 うえええええええ!?!?!?


「――こ、これは!?」


 見れば、俺の右腕の肘から先が、禍々しい形の剣になっていた。

 こ、この剣で、俺がヌシの前脚をブッタ斬ったってのか!?


『フッ、これぞ君の秘密兵器の一つ、【素数剣(プライムカッター)】だ』

「――!」


 ――【素数剣(プライムカッター)】。

 何だか若干むず痒いネーミングだが、強力であることは確かだ。

 これならヌシにも勝てる!


「ゴガアアアアアア!!」

「えっ!?」


 が、ヌシはその強大な翼を羽ばたかせ、夜空へと舞い上がった。

 うおおおおおい!?!?

 ズルいぞ!

 これじゃこっちからは攻撃が届かないじゃないか!


「ガアアアアアアアアア!!!」

「――!!」


 そしてヌシは(あぎと)を開き、紅蓮の炎を吐きつけてきた。

 それはまるで、森羅万象を灰燼に帰さんとする、殺意そのものを具現化したかのようだった。

 ――あ、今度こそ死んだ。


『サノウさああああん!! 大丈夫っすよおおお!!! ()()を使えばねえええ!!!』

「だからアレって何よッ!?」


 頼むから具体的に言ってくれよ!!

 お前サポートAIの割にはさっきから邪魔しかしてなくないッ!?


『イメージするんです、左腕が全てを破壊する大砲となることを』

「――!」


 ――大砲。

 ええい、もう自棄だ!

 どの道このままだったら死ぬんだ。

 大砲でも何でもイメージしてやるさ!


「――っ!?」


 すると、先ほどと同様、俺の左腕の肘から先が、無骨な砲身に変化した。


『さあ、それをヌシに向けてください!』

「オ、オウ!」


 俺は左腕を、月を背負っているヌシ目掛け、天高く掲げた。

 が、ヌシの吐いた紅蓮の炎が、既に眼前まで迫っている。

 ――くっ!


『そしてこの呪文(コード)を唱えてください!』

「――!!」


 頭の中に、俺の知らない呪文が流れ込んできた。

 う、うおおおおおお!!!


須臾(しゅゆ)に瞬く星々よ

 瞬息(しゅんそく)に過ぎる人の世よ

 弾指(だんし)の祈りも天には届かず

 刹那(せつな)の栄光に縋りつく

 六徳(りっとく)の空が(すべ)てを包み

 虚空(こくう)の狭間に(すべ)てを還す

 ――光殲(こうせん)魔砲(まほう)虚数砲イマジナリーイレイザー】」


 ――俺の左腕から放たれた藍色の光の渦が、ヌシの吐いた炎を貫いた。

 ――なっ!!?


「ガギャアアアアアアアアアアァァァァ――」


 光の渦はそのままヌシの胴体を貫通し、巨大な風穴を開けた。

 風穴からは、満月が嘲笑うかのように顔を覗かせていた。

 あ、ああ、ああ……。

 ヌシはそのまま力なく落下し、ピクリとも動かなくなった。


『FOOOOOO!!!! コングラチュレイショオオオオンズ!!! 勝利のポーズ……決めっ!』


 ……マジかよ。

 マジで俺、樹海のヌシに勝っちゃったの?


「フッ、おめでとうサノウ君。――これで私の言ったことが信じてもらえたかな?」

「ミネさん……」


 ええ、今なら信じられます。

 ――誰にも負けない強靭なボディをプレゼントするよ。

 あの言葉は、嘘じゃありませんでした。


「本当にありがとうございます。――これなら、ザザキにも勝てます!」


 首を洗って待ってろよザザキ……!

 お前は必ず俺の手で、鉄槌を下してやるからな――。


「フッ、いやなに、私はほんの少し、君本来の力を引き出す手伝いをしたにすぎんよ」

「――え?」


 俺本来の、力……?


「――君のボディは、()()()()()()()原動力としているんだ」

「――!?」


 そ、そんな!?

 じゃあ、さっきの【虚数砲イマジナリーイレイザー】も、俺の魔力で撃ち出したってこと!?

 バカな!?


「でも俺、生まれつき極端に魔力が低くて、王立魔法剣士団(ネスト)への入団試験だってギリギリ補欠合格だったんですけど……」

「……魔力は人体のどこで生成されるか知っているかい?」

「は?」


 どこで、って……。

 そういえばどこだろ?

 そんなこと、考えたこともなかったな。


「フッ、これはまだ一部の人間しか知らないことなのだが――魔力は心臓で生み出される」

「――!!」


 心臓で!?

 ――あ! だから俺の心臓は機械化しなかったのか!


「君の心臓を調べさせてもらったところ――心臓自体は正常に魔力を生み出していたことが判明した」

「ふへ!?」


 じゃ、じゃあ、何で今まではあんなに魔法が上手く出なかったんだ……!?


「――だが、血管に欠陥があった。――ケッカンだけにね!」

「いや今はそういう駄洒落はいいですから!?」


 だんだんわかってきたけど、この人変な人だッ!


「これもまだ世間には公表されていないことなのだが、心臓で生成された魔力は、血管を通して全身に巡らされる」

「――!」


 そうだったの!?


「だが君の血管には生まれつき異常があり、上手く魔力を通せていなかったのさ」

「……マジっすか」


 じゃあ、魔力自体が低かったわけじゃなかったってことか……。


「――しかし、それが逆に怪我の功名となった」

「え?」


 ど、どういうことっすか!?


「行き場を無くした君の魔力は、心臓の中で延々と循環することとなったのだ。――そんな生活を何年も続けていくうちに、君の心臓の魔力保持量は常人の数十倍――いや、数百倍にまでなったのさ!」

「――!!」


 数百倍!?!?


「だから私は君をサイボーグ化する際、魔力を通しやすくする人工血管を全身に巡らせた。――その結果が先ほどの戦闘記録(リザルト)さ。仮に君以外の人間をサイボーグ化したとしても、君と同等の強さには決してならない。――君の強さは、君だけのものなのだよ、サノウ・ダクヤ君」

「俺……だけの……」


 ……くっ。


「う、うぅ……、ううううぅ……!」


 ダメだ……!

 涙が溢れて止まらない……!

 ……ハハッ。

 サイボーグでも涙って出るものなんだな。

 いや、多分そういう機能をミネさんが付けてくれたんだろう。

 変な人だけど、悪い人じゃなさそうだ。


『ええんやでええんやで。泣きたい時は好きなだけ泣いたらええんやで』

「そのキャラ何!?」


 ルイカのこのウザさにだけは、いつまで経っても慣れなそうだなぁ……。


「フッ、さあて、極上の素材も手に入ったことだし、早速君をバージョンアップさせてあげようじゃないか」

「はい?」


 ミネさんは眼前に横たわるヌシの死骸を見つめながら、魔王のような笑みを浮かべたのだった。

 ……あ、やっぱりこの人、悪い人かも。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 血管に欠陥……ダジャレなのに唆られました! 本来なら抜けて行くはずの魔力が体内を循環することで貯蔵量が鍛えられるというのは堪らないです!
[良い点] ミネギスという名前で、いい人なわけがないw いやぁいいですね。 力が覚醒した時、今までの苦労は無駄じゃなかった的なやつ。 ゾクゾクします。
[気になる点] え、右腕をヒャッキマルにしたまま左腕をロックバスターに????(混乱(ォィ [一言] 凄まじい事実!! 魔力が数百倍で心臓を中心に循環してたって……凄すぎて逆に身体に悪そう(ォィ
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