3ボーグ ではここで、君にイカれたメンバーを紹介しよう!
「フッ、あつらえたような禍々しい満月だな」
「――!」
ミネさんの家から外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
だというのに、何故か俺の目は風景を色までハッキリと認識することができている。
……これもサイボーグとしての力なのか。
――あ!
「そ、そういえばミネさん! あれからどのくらい時間が経ちましたか!?」
「フッ、私と君が出会ってからという意味かい? ――そうだね、大体4時間くらいかな」
「……そうですか」
たった一人で俺を4時間でサイボーグにしたというのは、果たしてどのくらい凄いことなのだろう……?
い、いや、今はそれよりも!
「助けていただいて大変申し訳ないんですが、俺、今から急いで帰らなくちゃいけなくて!」
「フッ、君を殺そうとした者へ復讐にいくのかい?」
「――!」
復讐か……。
まあ、それもあるが。
「それよりも、俺の大事な人を守らなきゃいけないんです!」
そう、何より最優先すべきはチハの身の安全だ。
俺はたどたどしくも、何とかミネさんにこれまでの経緯を説明した。
「フッ、なるほどな、委細承知した。――だが、それならなおのこと、君は今は帰るべきではない」
「なっ!? 何でですか!」
「君をサイボーグにした私が言うのも何だが、今の君はもう、世間から見たら人間ではないからさ」
「――!!」
俺が……人間じゃ、ない……?
「サイボーグという存在が認知されていないこの世界では、君は『兵器』と見なされてしまう危険がある」
「兵器……!?」
そ、そうか……。
身体のほとんどが機械になっているんだもんな……。
確かに俺も逆の立場だったら、俺みたいな存在は受け入れ難いかもしれない。
「そうなれば待っているのは、人類の脅威として駆除されてしまうか、戦争の道具として使われてしまうかの、二択だ」
「――!」
そんな……。
せっかくサイボーグとして生まれ変わったのに、それじゃ何の意味も……。
「フッ、安心したまえ」
「え?」
が、そんな俺の心情を察したのか、ミネさんが不敵な笑みを浮かべながら、言った。
「私にいい考えがある。君を必ずや、世間に人間として認めさせてみせるさ」
「ほ、本当ですか!」
「ああ、科学者に二言はない。――ただ、そのためには何日か時間が要る。今は黙って、私の指示に従ってもらいたい。なあに、君の話を聞く限りでは、そのザザキという男はチハさんに危害を加えるつもりはなさそうだ。であれば、こちらの準備が整ってからでも十分間に合うさ」
「は、はい……」
そうは言っても一抹の不安は拭えないが、焦って事を仕損じたら目も当てられないのも事実だ。
今はミネさんの言う通りにするのが賢明だろう……。
待ってろよチハ……!
必ず俺は、お前のところに帰るからな!
「フッ、ではここで、君にイカれたメンバーを紹介しよう!」
「は?」
『どーもどーもサノウさん! ワタシはサポートAIの『ルイカ』ちゃんどぅえす! よろしくマッチョッチョ☆』
「――!?」
その時だった。
俺の頭の中に、やたらテンションの高い女の子の声が響いてきた。
誰!?!?
辺りを見回しても、それらしき人物は見当たらない。
『デュフフ、そんな警戒しないでくださいよー。長い付き合いになるんですからー。FOOOOOO!!!!』
「うるさッ!?」
メッチャ頭の中に響く!?
なになに!?
どういうことなのこれ!?
『フッ、ルイカは私が開発したサポートAIさ。まあ、人工的に作られた知能とでも思ってくれればいい。サイボーグ初心者の君を、いろいろとサポートしてくれる存在だ。――サノウ君を頼んだぞ、ルイカ』
『りょーかいであります、マスター!』
「――!?」
今度はミネさんの声が直接頭に響いてきた。
ミネさんは口を開いてないのに……。
いやさっきから情報量多いな!?
文字通り頭がパンクしそうなんだけど!?
え? 人工的に作られた知能……?
……もう何でもアリだな。
『それにしても、ワタシみたいな美少女が四六時中頭の中にいるなんて、サノウさんのリア充! ラノベ主人公!』
「ラノベ主人公!?」
って何!?
そもそもルイカの姿は俺には見えないし、美少女かどうかはわかんないんですけど!?
『フッ、因みに私が頭につけているこのバニーガールの耳は、思念の送受信機になっている。これでお互い遠くに離れていたとしても、思念で通話が可能だ』
「なっ!?」
これまた上級魔法でも難しいことを難なく……。
かがくのちからってすげー!
『君も頭に私の顔を思い浮かべながら、思念を飛ばしてごらん』
「あ、はぁ」
『くれぐれもマスターの裸を想像しちゃダメですよー』
「し、しないよ!?」
くっ、やりづれーぜ!
俺は雑念を飛ばし、ミネさんに向かって頭の中で声を掛けた。
『え、えーと、こんな感じですか? 俺の声聴こえますか、ミネさん?』
『フッ、バッチリだ。バリサンだな』
おお!
マジで届いたよ!
バリサンの意味はよくわからないけど……。
『ワタシにも頭の中で話し掛けてくれれば、声を出さずとも会話できますよー。まあ、そもそもワタシの声はサノウさんとマスター以外には聴こえないんで、声を出してワタシと会話してたら、独り言が多いボッチくんだと思われちゃいますからね』
「それは死活問題だな!」
ただでさえ俺は友達少ないのに!(落涙)
『え、えーと、聴こえるかい、ル、ルイカ?』
『ブフゥ! メッチャキョドってるぅ! 初めて女の子の部屋に遊びに来た思春期男子かよ!』
うるせーな!?
実際こっちは思春期ド真ん中の17歳男子なんだから、そこは勘弁してよ!
『フッ、そうこうしているうちに、練習相手が登場したようだぞ』
「え? ――なっ!?」
急に月明かりが遮られたかと思うと、小高い丘ほどもある巨大な影が俺を見下ろしていた。
――それは全身が深紅の鱗で覆われ、背中には神々しさすら感じる翼が生えた、四つ足のドラゴンだった。
『フッ、これがこの樹海のヌシ、伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンだ』
「――!?!?」
こ、これがヌシ!?!?
練習相手が樹海のヌシって、明らかに人選ミスじゃないっすか!?!?!?