22ボーグ 行こっか、チハ
「サノオオオオオオオオォゥ!!!!」
「う、うわっ!?」
チハが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、俺に抱きついてきた。
「サノウ、サノウ、サノウ、サノウウウゥゥ……!!」
「……チハ」
俺はそんなチハを、そっと抱きしめ返す。
「心配かけてゴメンな、チハ」
「ううん、いいの。――あなたが生きててくれただけで、私は」
「チハ」
……くっ。
「……でも俺は、こうして機械の身体になっちまったんだ」
「そんなの関係ないよッ!!」
「――!!」
チハ……!
「どんな身体になってもサノウはサノウだよ! 私は何があっても、ずっとサノウの味方だよ!」
「……チハ」
チハはなおも大粒の涙を流しながら、ヒマワリみたいな笑顔を向けてくれた。
嗚呼、ありがとうチハ。
――俺は世界一の、幸せ者だよ。
「コホン、お取込み中申し訳ないが、少しよろしいだろうか、サノウ君」
「「――!!」」
いつの間にかネギス支部長が、舞台上に下りていた。
「あ、ああああ、はい!」
「す、すいません!」
俺とチハは、慌てて離れる。
異様にネギス支部長の目線が高いなと思ったら、ネギス支部長は気絶したザザキを踏ん付けて、その上に立っていた。
……あ、さてはこの人、ザザキに支部長と領主の座を明け渡せって言われたの、根に持ってるな?
意外とお茶目なところもある人だ。
「優勝おめでとう、サノウ君。君は見事、私に確固たる『力』を見せてくれた。そんな君に、私はできる限りの報酬を与えたいと思っている」
「ネギス支部長……!」
よ、よし、ここからが大事なところだぞ。
サイボーグの人権を保証してもらえるかの、分水嶺だ――。
「フッ、その件ですが、父上」
「――!!」
その時だった。
フードを脱ぎ捨ててバニーガール姿を露わにしたミネさんが、舞台に上がってきた。
何でこのタイミングで脱ぐんですか!?
い、いや……、それよりも今、ネギス支部長のこと、父上って……!!?
「ミネギス、やはりこれは、お前の仕事だったか」
「????」
ど、どういうことなの???
ちゃんと説明してもらえませんかね???
「フッ、今まで黙っていてすまなかったが、私のフルネームはミネギス・ウーメ。このネギス・ウーメの実の娘だよ」
「……は?」
えーーーー!?!?!?!?
何ですかそれええええええ!?!?!?!?
そういうことなら、もっと早く言ってくださいよおおおおおお!!!!
え? 何?
つまり俺がこんなに頑張らなくても、最初からサイボーグの人権は保証されてたってこと?
「フッ、思念を飛ばしてもらわなくとも、君の今考えていることはわかるぞ。――だがいずれにせよ、優勝しない限り君の人権が保証されることはなかったさ。この男は徹底したリアリストで、使えないと判断したものは、容赦なく切り捨てる冷血漢だからね」
「オヤオヤ、実の父に向って随分な物言いじゃないかミネギス。まったく、誰に似たんだか」
「……」
ああ、確かに、こうやって見るとこの二人そっくりだな。
人を食ったような性格とか。
「フッ、ですがこれで、サイボーグの有用性は証明できたことと存じます。サノウ君の場合は素材がよかったからというのもありますが、逆に言えば、良質な素材さえあれば、いくらでも無敵の兵隊を量産できますよ、父上」
「フム、お前が樹海の奥で引きこもって、魔獣の死骸で遊んでいたのも無駄ではなかったというわけだ」
「フッ、そこは研究していたと言っていただきたいところですね」
っ!?!?
なんか今、不穏な単語がいくつか出てきたな!?!?
それに、魔獣の死骸で研究していただと――!?
……そういうことか。
フェジ樹海で夜になると魔獣の死骸が消えていたのは、ヌシに喰われていたからじゃなかったんだ。
ミネさんが研究材料にしていたからだったんだな。
つまり死にかけの俺のことを見付けてくれたのも、偶然じゃなかったってわけだ。
……やれやれ、つくづく人の運命ってのは、わからないもんだな。
「フッ、ところで父上、堅苦しい話はこの辺にして、我々はまず、本日最大の功労者に、一つ目の賞品を与えるべきではないですか?」
「フフッ、それもそうだな」
「え?」
一つ目の、賞品……?
ネギス支部長は真剣な表情を俺に向ける。
「サノウ君」
「は、はい」
「そしてチハ君」
「は、はい?」
ん??
チハも??
「表彰式は後回しだ。――暫し二人で、空の散歩と洒落込んできてはいかがかね?」
「「――!」」
ネギス支部長とミネさんは、二人揃ってサムズアップを向けてきた。
……やれやれ、まったくこの親子は。
「ではお言葉に甘えて。――行こっか、チハ」
「うん! きゃっ!?」
俺はチハをお姫様抱っこして、大空へと飛び立った。
「アハハハハハハ! 凄い、高ーい!」
「ふふ、綺麗だよな、空から見る景色って」
もちろんチハも――。
『やれやれ、お安くないぜ』
『うるさい』
今だけは水を差すんじゃないよ。
まあ、俺はサイボーグだから、差すのは油かもしれないけどな!(サイボーグジョーク)




