21ボーグ 少なくとも、お前には一生理解できない力だよ
『流石のマスター謹製の特殊繊維で編まれた服でも、ザザキの攻撃は耐えられなかったみたいですね』
『特殊繊維!?』
『ええ、今まで不思議じゃなかったですか? ただの服にしては、異様に頑丈だったでしょ?』
『っ!』
た、確かに……。
モヒカン3人組の『ヒャハヒャハラッシュ』を喰らった時も、バヤシの金棒で殴られまくった時も、俺の服はほつれることさえなかった。
痛覚がないことばかりに気を取られて気付かなかったが、俺はこんなところでも、ミネさんに守ってもらっていたのか……。
俺の身体の異様さに、会場中がざわめいている。
「その身体……、さては機械か? ――なるほど、お前は人間じゃなくなったってことだな、サノウ」
「――!!」
ザザキが半笑いで見下すような目線を投げてくる。
……くっ!
「……ああそうだ。俺はサイボーグとして生まれ変わったんだよ」
「サイボーグ? 聞き慣れない単語だが、要は人間ではないただの機械ってことなんだろ? ――つまりお前を殺しても、殺人にはならないってことだ」
「っ!?」
や、やはりそうなるのか……。
サイボーグは、人間ではないのか……。
「人間に反抗する不良品は、しっかり処分しないとなぁ」
ザザキはおもむろに剣を引き、切っ先を俺のほうに向けた。
くっ――!!
「暗愚な姉は嘘で着飾り
傲慢な母は花を踏む
蒙昧な姉は蜂に出逢う
僭上な母も蜂に出逢う
二人の胸に孔が空く
二度と消えない孔が空く
――閃杭魔蜂【熊蜂の緋光】」
「――!!!」
マズい……!
これを喰らったら、今度こそ俺は――!
『諦めるには早いですよサノウさん! アナタには奥の手の、アレがあるじゃないですか!』
『ルイカ……!?』
ああ、そうだな。
まだ一つだけ、ザザキに試してない魔砲がある。
あまりにも危険なので、人間相手に使うのは今まで躊躇していたが――。
――俺は砲身を【熊蜂の緋光】の光の渦に向ける。
「須臾に瞬く星々よ
瞬息に過ぎる人の世よ
弾指の祈りも天には届かず
刹那の栄光に縋りつく
六徳の空が全てを包み
虚空の狭間に総てを還す
――光殲魔砲【虚数砲】」
「「「――!!!」」」
【虚数砲】の藍色の光の渦と、【熊蜂の緋光】の緋色の光の渦が、舞台中央で激突する――。
どうやら威力は互角らしく、勢いは拮抗している。
――が、
「――なっ!?」
徐々に俺の【虚数砲】のほうが押されてきた。
そ、そんな……、【虚数砲】でさえ、ザザキには勝てないのか……。
『違いますよサノウさん! 本来なら【虚数砲】のほうが、圧倒的に出力は上です! ただ単に、アナタの魔力の込め方が足らないんですよ!』
『ま、魔力の込め方!?』
『ええ。――アナタはザザキに対する苦手意識のあまり、無意識の内に力をセーブしてしまってるんです。アナタが最初から全力で戦ってれば、ザザキなんて瞬殺だったんですよ』
『そ、そんなこと言われても……』
そんな意識、今すぐには変えられないよ――。
「ハハ、ハハハハハハハハハハ!!! これで今度こそお終いだよ不良品!!! さっさとスクラップ置き場に帰るといいさ!!!」
「……!!」
――ここまでか。
「負けないで、サノオオオオオオオオォゥ!!」
「――!!」
この声は!?
声のしたほうを向くと、そこには全身を包帯で覆ったチハが、フラフラになりながらも立っていた。
――チハ!!
「お願いだから負けないでサノウ! ――私の中では、子どもの頃からずっと、一番はあなただけだったんだから!」
「――!!」
――チハ!!!
チハ!! チハ!! チハ!! チハ!!
くっそぅ!
チハから応援されただけで、こんなにやる気が出てくる俺って、ホント単純だよな!
『さあて、最後はビシッと決めてくださいよ。ラノベ主人公らしく、ね』
『ああ』
決めてやるよ。
ラノベ主人公らしくな。
「なっ!? ど、どこからそんな力が……!!」
途端、出力が激増した【虚数砲】に、ザザキの顔から色が消えた。
「さあな。少なくとも、お前には一生理解できない力だよ、ザザキ」
「……くっ! バカな! バカなバカなバカなバカなバカなああああああ!!! このボクが、こんな不良品にいいいいいいぃぃ!!!!」
【虚数砲】の光の渦が、ザザキを包む――。
「――い、いやだああああああああ、死にたくないよおおおおおおおおおおお」
――その直前、俺は【虚数砲】の射線を、上方にズラした。
結果、【虚数砲】はザザキの頭頂部を掠め、大空へ藍色の直線を描いた。
「あ、あばばばばばばば、ば……」
頭頂部の頭皮が削れ、逆モヒカンみたいな髪型になってしまったザザキは、泡を吐きながら白目を剝いて倒れた。
よく見れば失禁もしている。
うわぁ、これはもう女性ファンも、軒並み離れるかもな。
まあ、そもそもお前はブタ箱行きだろうけど。
ホントは俺の手で地獄に送ってやってもよかったんだが、それだとお前と同格の外道になっちまう。
お前は然るべく法の下、裁かれるがいいさ。
「そこまでえええええッッ!!! 場売闘奴本大会優勝者は、不死鳥の如く蘇った不死身の男、サノウ・ダクヤアアアアア!!!!」
ワアッという今日一番の大歓声が、会場を包み込んだ。
『FOOOOOO!!!! コングラチュレイショオオオオンズ!!! 勝利のポーズ……決めっ!』
うん、正直今だけは、お前のそれ待ってたよ、ルイカ。