2ボーグ 君はこの世界で初の、サイボーグとして蘇ったのさ
『嘘よッ!! サノウが私をおいて死ぬわけないッ!!』
『チハさん、落ち着いてくれ。悲しいけれどこれは事実なんだ。――ボクはこの目で見たんだよ、サノウがヌシの爪で、身体を貫かれる瞬間を……』
『あ、ああ……、そんな……、いや……、いやああああああああああ』
チハ!?
ザザキ!?
オイ! 俺は生きてるぞ!!
俺はここにいるッ!!
俺の声が聞こえないのか!?
――チハ!
「――チハッ!! ――!?」
見知らぬ天井が目の前に広がっていた。
……夢か。
あれ? それよりもここはどこだ?
……確か俺は、ザザキに刺されて。
――そうだ、それで魔女に魂を売って――!
「フッ、目が覚めたようだな」
「っ!」
メガネをかけた女性が、俺を覗き込んできた。
あの時聞こえた声だ。
じゃあこの人が魔女?
そ、それよりも……。
「なんて格好してるんですかッ!?」
俺は慌てて起き上がった(どうやら俺は寝台のようなものに寝かされていたらしい)。
何故なら、魔女さんはバニーガールの衣装を着ていたからだ。
「フッ、なあに、これはただの私の趣味だから、気にしないでくれたまえ」
「はぁ……」
いやそれは無理でしょ。
否が応でも気になりますよ。
魔女さんは女性にしては背が高く、且つ大層立派なお胸をお持ちだった。
そのうえ思わず見惚れてしまうほどの美女だ。
そんな女の人が、目の前でバニーガールの格好をしているのだ。
女性経験に乏しい(むしろゼロ……)俺には、非常に目のやり場に困る。
「その様子だと、ボディの具合は良好のようだな」
「え?」
ボディ?
――あ、そうか!
魔女さんは俺に、誰にも負けない強靭なボディをくれるって言ってたもんな!
確かにザザキにめった刺しにされたはずなのに、今はまったく痛みを感じない。
それどころか、前よりも身体が軽い。
……ただ、言いようのない違和感があるな。
「――!?」
自分の手を見た俺は、思わず絶句した。
俺の手が、まるで機械のような質感になっていたからだ。
いや、手だけじゃない。
胴体も足も、全身が銀色の光沢を帯びている。
な、なんじゃあこりゃあああああ!?!?
「フッ、君はこの世界で初の、サイボーグとして蘇ったのさ」
「サイボーグ!?」
……って、何?
「サイボーグというのは、ザックリ言うと全身を機械化した人間のことさ」
「ぜ、全身を機械化……!?」
そんなまさか……!
じゃあこの腕も足も、全部機械だってのか!?
その割には俺の思い通りに動くけど……。
「これが今の君の姿さ」
魔女さんは姿見を持ってきて、俺の前に置いてくれた。
俺は寝台から下りて、その前に立つ。
「これが……俺」
確かに俺の身体は、首から上以外は全て機械になっていた。
「因みに顔も、表面こそ人工皮膚で覆ってはいるが、内部は手足同様機械化してある。――君の生体部分で残っているのは、脳と心臓だけだ。君の身体は損傷が激しかったのでね。君を救うには、サイボーグ化しかなかった」
「――!」
脳と心臓……だけ。
確かに左胸に手を当ててみると、ドクドクと心臓の鼓動を感じることはできる。
だが、本当に脳と心臓以外は機械になってしまったのか?
そんなこと、如何なる上級魔法を使っても不可能なんじゃないのか……?
「……いったいどんな魔法を使ったんですか?」
「フッ、魔法というよりは、『科学』さ」
「科学?」
あまり聞きなれない単語だな……。
何となく子どもの頃、孤児院で教わったような気もしないでもないけど……。
勉強も苦手だったしなあ、俺。
「世間は私のことを『魔女』と呼ぶが、個人的には『科学者』と呼んでほしいところだね。まあ、『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』という言葉もあるくらいだから、その両者に明確な違いはないのかもしれんが」
「はぁ……」
なるほど、わからん。
どうやらこの人も所謂天才らしいな。
天才の言ってることが俺みたいな凡人に理解できるわけないか。
まあ、科学がどういったものなのかは正直よくわからないが、とにかく何かしらの超常的な力で、俺をサイボーグにしたということらしい(思考停止)。
「でも、俺、本当に強くなれたんでしょうか? あ、いや、あなたの力を疑うわけじゃないんですが……」
特に魔力量が上がったような実感はないんだよな。
「フッ、君がそう思うのも無理はない。なあに、実戦経験を積めば、嫌でもわかるさ、今の自分の力がね」
「え?」
実戦、経験?
「ついてきたまえ」
「あ、はい」
言われるがまま、バニーガール魔女さんの後に続いて部屋から出ようとする俺。
さっきまではテンパってて文字通り周りが見えてなかったけど、落ち着いて見渡せば、この部屋は見たこともないような機器類で溢れかえっていた。
この機器類が、『科学』の一部なんだろうか……?
「おっとそういえば」
「ふへっ!?」
急にバニーガール魔女さんが立ち止まったので、俺は危うくバニーガール魔女さんにぶつかりそうになってしまった。
バニーガール魔女さんは180度回れ右をして俺に向き合うと、言った。
「申し遅れたが、私の名前はミネギスという。気軽にミネさんとでも呼んでくれ」
「あ、はぁ」
バニーガール魔女さんはミネさんというらしい。
「俺はサノウです。サノウ・ダクヤといいます」
「フッ、これからよろしくな、サノウ君」
「は、はい、こちらこそ」
俺はミネさんから差し出された手を、そっと握り返した。