16ボーグ 私は自分の仕事をしたまでです
「この寝台にゆっくりバヤシ隊長を寝かせてください!」
「あ、はい!」
医務室に向かうと、そこには12歳前後くらいに見える、幼い容姿の女性が待ち構えていた。
だが彼女はれっきとした大人であり、トォツェギ支部ナンバーワンの治癒術士、ワタさんだ。
俺は言われた通り、なるべくゆっくりとバヤシを寝台に下ろした。
「……助かりますでしょうか」
「そうですね、何とも言えませんが、最善は尽くします」
ワタさんはその容姿とは裏腹の、凛々しい顔つきでそう言った。
「フッ、私も手伝いましょう」
「「っ!」」
そこへミネさんもやって来た。
ミ、ミネさん!?
「……あなたは」
「なあに、名乗るほどの者でもありませんよ。ただこれでも医療の心得はあります。少しはお役に立てると思いますよ」
「……そうですか。確かに今は猫の手も借りたいところです。お願いできますか」
「フッ、お任せください」
……おお!
何故かこの二人がタッグを組めば、大抵の怪我は治せそうな気がしてくるぜ!
『じゃ、ワタシたちは特にできることないんで、お茶でも飲んでますか』
『お前吞気にも程がないか!?』
俺はそんなにメンタル強くねーわ!
「……ふぅ、これで何とか一命は取り留めました。ありがとうございます。大変助かりました」
「フッ、いやなに、当然のことをしたまでですよ」
ああ、よかったぁ。
何とか俺は、人殺しにならずに済んだか……。
さっきまで完全に血の気が引いていたバヤシの顔は、今は薄っすらと赤みがさしており、穏やかな寝息を立てている。
「フッ、ウノウ君、後のことは私たちに任せて、君は他の試合を観てきたまえ」
「あ、はい。では、お言葉に甘えて。あの、ありがとうございました」
俺は二人に、深く頭を下げた。
「私は自分の仕事をしたまでです」
ワタさんはクールな表情でそう言った。
ううーん、この容姿とのギャップよ。
俺は若干後ろ髪を引かれながらも、医務室を後にした。
「チ、チハ!?」
闘技場の観客席に戻ると、まさにチハとフリーの傭兵であるバラタさんが、戦っている真っ最中だった。
実力者のバラタさんが相手なだけあって、チハは全身ボロボロで、肩で息をしている。
が、チハの【茨姫の抱擁】が決まったのか、バラタさんは全身を茨で拘束されていた。
そんなバラタさんの首元に、チハが魔槍マンジュシャゲの切っ先を向ける。
「ハァ……、ハァ……、降参してください、バラタさん。でないと、私は、あなたを……」
「フフッ、こいつはおっかねえ。わかったよ、俺の負けだ」
バラタさんはおどけながら武器を手放した。
おおっ!
際どかったとはいえ、あのバラタさんにチハが勝った!
これは大金星なんじゃないか!?
「そこまで! この勝負、チハ選手の勝利です! これで3試合連続の番狂わせとなりました!」
え?
3試合連続?
「んふふ、坊や、ここ空いてるわよ。座ったら?」
「――!」
その時だった。
例の女豹おねえさんのタヂハナさんが、隣に座るよう声を掛けてきた。
「あ、ど、どうも」
断るのも何なので、おずおずとそこに座る。
『ブフゥ! 初めてキャバクラに来た新社会人みたい』
『キャバクラって何!?』
何となくバカにされてるのだけはわかるけど!
「えーと、タヂハナさんは次が試合ですか?」
「んふふ、私はもう終わったわよ。あなたの次の試合だったの」
「えっ!?」
その割には、身体には傷一つ付いておらず綺麗なものだ。
「……因みに勝敗は?」
「んふふ、もちろん私が勝ったわよ。あの無口なおにいさんもなかなか強かったけどね」
「――!」
無口なおにいさんってことは、相手はカモト隊長!?
そ、そんな……。
あのカモト隊長に、傷一つ負わずに勝つなんて。
マジのダークホースだな、この人……。
……あれ?
ってことは、後残ってるのは――。
「さあ、いよいよ次は1回戦最後の試合でございます! 何という運命の悪戯でしょう! 去年決勝で激闘を繰り広げた2名が、早くもここで当たってしまうとはぁ! これは、事実上の決勝戦と言っても過言ではないかもしれませんッ!」
――!
第4試合は、アオギさん対ザザキ――!
いくらザザキでも、アオギさんにはそう簡単に勝てないと思うけど……。