15ボーグ ふざけんなよ
「お二人共、心の準備はよろしいですね?」
「は、はい」
「ハァッハァ! 早くこの小僧をブッ潰させてくれよ!」
バヤシ隊長が右手で金棒を振り回しながら、俺を威嚇してくる。
クソッ、訓練中もよく指導という名目で、あの金棒で殴られたっけな……。
――既に俺とバヤシ隊長以外の選手は観客席に移動し、舞台には俺たち二人だけが残されている。
「ところでお前、本当に素手でいいんだろうなぁ? 後で素手だから負けたなんて言い訳は、通用しねーからなぁ?」
「しませんよ、言い訳なんて」
むしろ俺の身体の中には、反則級の武器がいくつも仕込まれてるんだからな。
「それでは1回戦第1試合――始めッ!」
「ハァッ!!」
「――!」
バヤシ隊長が魔力を込めた金棒を、天高く掲げた。
「破砕・粉砕・撃砕・玉砕
破壊・毀壊・決壊・崩壊
破滅・燼滅・殲滅・淪滅
――強筋魔棒【悪魔の右手】」
「――!!」
バヤシ隊長の右腕が赤黒く変色し、数倍に膨れ上がった。
……ぐっ!
あの腕を見ると、折檻を受けたトラウマが……!
『サノウさん! きますよッ!』
『……あ!』
「ハァッハァ!!」
「があッ!?」
バヤシ隊長は身の丈ほどもある金棒を、小枝のように軽々しく振り回し、それがモロ俺の左脇腹に直撃した。
し、しまった……!
完全に油断してた……!
「ハァッハァッハァッハァッハァッハァ!!!!」
「うっ……!」
その後もバヤシ隊長は微塵も手を緩める様子はなく、豪雨の如く何度も何度も俺のことを殴りつけてくる――。
――が、
――例によってまったく痛くも痒くもない。
『……なあルイカ、これって』
『ええそうですね、これっぽっちもダメージは受けてませんね』
いや流石に俺の身体頑丈すぎじゃないッ!?!?
バヤシ隊長あんなにドヤ顔で金棒振り回してるんだよ???
流石にちょっと可哀想になってきたよ……!
「どうしたどうしたぁッ! 立ったまま気絶してるんじゃねーだろうなぁ!」
すいません、これでもかってくらい意識はハッキリしてます。
でもあなたの攻撃が緩すぎて、若干眠くはなってきてます。
「まったく、お前を見てると、あの使えねぇ部下を思い出すぜぇ!」
「――!!」
そ、それってもしかして……。
「まあ、一昨日任務中にヘマして押っ死んだから、これでクズの世話から解放されてせいせいしたがなぁ!」
「……」
……クソッ。
「バヤシ隊長! そんな言い方はあんまりじゃないですかッ!!」
「っ!!」
――チハ。
「ハァッハァ! お前もお前だよチハ! あんなクズ男のどこがよかったんだぁ? 何なら俺の女になるかぁ?」
「なっ!?」
――!!
……何、だと。
「まあお前なら器量も悪くねーし、俺の女に相応しいってもんだぜ。――どーせサノウに、何度も股開いてたんだろぉ?」
「そっ! そんな……!」
――!!!
――テメェ。
「ふざけんなよ」
「アァ!? ――ガハアアアアアアアアアァァ!?!?!?」
俺は拳を固めた右ストレートを、バヤシの土手っ腹にブチ込んだ。
――俺のことはまだしも、チハを侮辱するのだけは絶対許さねーぞ。
バヤシはそのまま垂直に吹っ飛んでいき、場外の壁に激突した。
…………あ。
ややややや、やっちまったああああああああ!!!!
「……じょ、場外! そこまで! この勝負、ウノウ選手の勝利です!」
「だ、大丈夫ですか!?」
俺は慌ててバヤシのところまで駆け寄り、声を掛ける。
バヤシは大量に吐血しながら、白目を剥いていた。
『あああああ、これ、死んでないよな!?』
『うーん、どうでしょうねえ? まあいいんじゃないですか、別に死んでても。ルール上は問題ないですし』
『俺は問題あるよッ!!』
こんな人でも、自分の手で殺したとなったら目覚めが悪い……!
『フッ、案ずるなサノウ君。その男はまだ死んではおらんよ』
『ミネさん!?』
『急いで医務室に運べば間に合う。すぐに持ってきたまえ』
『は、はい!』
俺はバヤシをそっとお姫様抱っこし、急いで医務室に向かった。
まさか昨日に引き続き、今度はムサいオッサンをお姫様抱っこすることになるとは……。