13ボーグ 抱かれたい男堂々の1位ッ!!
「レディイスエェンドジェントルメェン!! さあ遂にこの日がやってまいりました! みなさんお待ちかね、場売闘奴決勝トーナメントでございます! 司会進行役はもちろんこの私! 王立魔法剣士団トォツェギ支部広報担当、コトウ・ミユギですよろしくどーぞ!」
「「「うおおおおお!!!」」」
今日のコトウさんの衣装は何とバニーガールだった――。
まさかのバニーガール被り!?!?
流行ってるのかな!?!?
『フッ、これなら私もこのローブを脱いでも問題はなさそうだな』
『張り合わないでください!』
今日もバニーガール姿をローブで隠したミネさんが、観客席から思念を飛ばしてくる。
それにしても、去年はザザキが優勝していく様を観客席から虚しく眺めているだけだった俺が、この決勝の舞台に立つことになるとはな……。
ザザキが俺のことを殺さなかったら確実にこうはなっていなかったのだから、皮肉と言う他ない。
もちろん、かといってザザキに礼を言う気にはならないけどな。
『ハァー、流石のワタシも緊張してきましたよ。ちょっとトイレ行ってきていいですかね?』
『お前に排泄機能はないだろ』
因みに俺にもない。
脳と心臓は生身なので、普通の人間同様食事をして栄養を摂っているのだが、排泄機能は備わっていないらしい。
俺が食べたものはどこに行ってるんだろう?
『それにしてもこの闘技場の舞台、おっきな土俵みたいですね』
『土俵?』
またルイカが謎ワードを発してるな。
確かにこの舞台は正方形に土を盛った上に、円形に俵を配置した作りになっているので、土俵というネーミングはしっくりくるものがある。
大昔から場売闘奴の闘技場はこのスタイルだったらしいけど、誰が最初に考えたんだろうな?
「それでは栄えある決勝トーナメント進出者8名をご紹介いたしましょう! まずはこの方! 優勝候補の一角。昨年は惜しくも決勝戦でザザキ選手に破れ準優勝に甘んじた、孤高の双剣使い、アオギ・ガズノ!」
アオギさんが右手を上げて観客にアピールすると、ワッと会場が沸いた。
流石アオギさん、王立魔法剣士団トォツェギ支部でザザキと人気を二分するだけある。
むしろザザキが魔法剣士になる前は、トォツェギ支部のエースはアオギさんだったらしいからな。
ベテランなのに後輩の面倒見もよくて、俺も任務中に何度も助けてもらったことのある、凄くいい人だ。
「続いて2人目! 本大会初出場にして決勝トーナメント進出というダークホース! 妖艶な女豹は果たしてどんな牙を隠し持っているのか!? タヂハナ・アゲミ!」
例の女豹おねえさんはタヂハナさんて名前だったのか。
タヂハナさんが観客席に投げキッスをすると、主に男性客から「うおおおお!!!!」とか「FOOOOOO!!!!」といった野太い歓声が上がった。
ある意味この人が一番得体が知れないよなぁ……。
「んふふ」
「――!?」
そんなタヂハナさんが、何故か俺に向かってこそっとウィンクを投げ掛けてきた。
えっ???
『かーっ、もうフラグ立ってんのかよ。これだからラノベ主人公は』
『フラグって何!?』
「3人目はこの方! その剛腕で今日も全てを打ち砕くのか!? 王立魔法剣士団トォツェギ支部第三部隊隊長、バヤシ・ダケオ!」
バヤシ隊長はドヤ顔をしながらアオギさん同様、右手を上げて観客にアピールするものの、観客席からの歓声は疎らだった。
まあ、観客にはトォツェギ支部の関係者も多いうえ、あの人トォツェギ支部内ではメッチャ嫌われてるからな……。
そりゃこんな感じになるわな。
その割には本人に嫌われてる自覚はないみたいで、「チッ、ノリ悪いな」なんてぼやいている。
ノリの問題じゃないんですよねぇ……。
「そして4人目! その声を聞いたことのある者は、ただの一人もいないと言われている謎の存在! 王立魔法剣士団トォツェギ支部第四部隊隊長、カモト・ダスケ!」
カモト隊長が無言でスッと手を上げると、アオギさんの時ほどではないものの、「頑張ってくださいカモト隊長ー!」とか、「応援してまーす!」といった同僚たちからの声援が上がった。
カモト隊長も何気に人望が厚い人だからな。
ただ、マジで言葉を発してるところは一度も聞いたことがないんだけど、どうやって部下に指示を出してるんだろう?
そんなカモト隊長のことを、バヤシ隊長が恨めしそうな顔で睨んでいる。
この二人は同期で、ずっとライバル関係だったらしいからな。
少なくとも部下からの人望という点では、圧倒的な差がついてしまっているが……。
「どんどんいきます5人目! 昨年に引き続き今年も決勝トーナメントの舞台に登場! フリーの腕利き傭兵として名を馳せている、バラタ・カヒロ!」
バラタさんには、主に王立魔法剣士団関係者以外からの声援が多い。
王立魔法剣士団からのたびたびの入団オファーを断り、頑なにフリーの傭兵として働くことを矜持にしている人だ。
本人曰く、
「フリーじゃないと救えない命もある」
とのこと。
カッコイイ生き方だなといつも思うけど、俺には真似できそうにないな……。
「そしてそして6人目! 王立魔法剣士団トォツェギ支部の可憐に咲き誇る白百合こと、第四部隊所属、チハ・ヨジコ!」
チハは仏頂面で目をつぶったまま、一切観客にアピールはしていないのに、観客席は沸きに沸いた。
あれ!?
チハってこんなに人気あったの!?
し、知らなかった……。
チハとは部隊も違うし、あんまトォツェギ支部の中じゃ接点ないもんなぁ。
『ラノベ主人公はヒロインの人気に対して無知になりがち』
『大分俺もラノベ主人公がどんなものかわかってきた気がするよ!』
あまり褒められた存在じゃないのは確からしい!
「さあていよいよラス前7人目! 今大会2人目の、初出場にして決勝トーナメント進出を達成した、素性不明の覆面男、ウノウ・デツヤ! 昨日の予選では、チハ選手のことをお姫様抱っこしながら帰還し、話題を集めました!」
「「っ!?」」
いやその話をここで蒸し返すんですか!?
しかもチハにあれだけ大きな声援が上がった後で!?
案の定会場は、俺に対するブーイングで埋め尽くされた。
う、うわぁ、俺別に、何も悪いことしてないと思うんだけどなぁ……。
『これもラノベ主人公の宿命なんですよ』
『俺もうラノベ主人公辞めたい!!』
何もいいことないじゃん、ラノベ主人公ッ!!
俺の右隣に立っているチハは、顔を赤くしながらそっぽを向いてしまった。
あ、ああ、ゴメンよチハ……。
俺がお姫様抱っこをしたばっかりに……。
でも、あの時は仕方なかった!
仕方なかったんだよぉッ!
「――!!」
その時だった。
俺の左隣に立っている男から、例の突き刺すような殺気を感じた。
「さあさあ大変長らくお待たせいたしました! ラストの8人目はもちろんこの人! 昨年度覇者にして王立魔法剣士団トォツェギ支部の絶対的エース!! 抱かれたい男堂々の1位ッ!! 優勝候補筆頭ッ!! ザザキ・ガッズォ!!」
ザザキは殺気を瞬時に包み隠すと、いつもの営業スマイルを観客席に向けた。
すると会場は割れんばかりの黄色い歓声で埋め尽くされた。
この俺との落差よ。
完全にザザキが正義のヒーローで、俺が悪役という構図じゃん。
本物の極悪人はザザキなんですよみなさん?
――それを俺が、これから証明してやる。
俺は静かな闘志をザザキに向けた。
ザザキはそれに気付いたのか、それともたまたま偶然か、見下すような目をしながら、不敵な笑みでこちらを見てきた。
……くっ!
「以上の8名で、場売闘奴決勝トーナメントを執り行いまぁす!」
『チャンネルはそのまま!』
『チャンネル?』
いったい……?