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12/22

12ボーグ 一切手加減はしないから、そのつもりでね

「ふぅ……」

『おぉー、絶景かな絶景かな!』

「なかなかの景色だろ?」


 そうして俺が一人でやって来たのは、ツノミヤの夜景が一望できる、高台にある小さな公園。

 子どもの頃から、嫌なこととかがあった時は、よくここでぼんやりと夜景を眺めてたっけ。

 とはいえ俺のサイボーグの目には、この夜景も昼間同様鮮明に見えるので、正直あまり情緒はないのだが……。


「あ! あなた昼間の!」

「――!」


 その時だった。

 俺の後方から聞き慣れた声がした。

 振り返れば、案の定そこにはチハが佇んでいた。

 そういえばチハも、嫌なことがあったらよくここに来てたっけな。


「よ、よお、昼間はどーもな」

「……こちらこそ」


 チハは感情が読めない表情で俺の横に立つと、無言で夜景をジッと見つめる。

 何とも気まずい空気が俺たちの間に流れた。

 う、うーん、何か話さないと。

 あ、そうだ!


「……なあチハ、昼間予選会場で、『私は必ずこの大会で優勝するわ』って言ってたけど、何でそんなに優勝したいんだ? 何か欲しいものでもあるの?」

「――!!」


 途端、チハの表情が、寒気がするほど険しいものになった。

 あ、あれ?

 オレ何かやっちゃいました?


「……私の大切な人がね、昨日フェジ樹海で行方不明になったの」

「――!」


 チハは胸元の血に染まったペンダントを握り締めた。

 そ、それって、俺のことだよね?


「その彼と同行してた人は、彼は樹海のヌシに襲われて死んだなんて言うんだけど、私は信じない。彼はきっと今も生きてて、誰かが助けに来るのを待ってるはずよ」

「……」


 まあ、生きてるのは事実だけど、既にお前の目の前にいるんだけどね。


「……本当は私一人でもすぐに駆けつけたかったんだけど、昨日の一件で、フェジ樹海は一級危険区域に指定されてしまったの」

「っ!?」


 そうだったのか……。

 王立魔法剣士団(ネスト)から一級危険区域に指定された場所は、原則何人たりとも近付くことを禁じられる。

 おそらくこれもザザキの差し金だろう。

 トォツェギ支部のエースであるザザキが進言すれば、すんなり通っただろうしな。

 これで仮に俺の遺体がヌシに喰われてなかったとしても、真相は闇の中ってわけだ。

 どこまで周到なんだよ、まったく。


「だから私は場売闘奴(バウリトウド)で優勝して、その報酬として、フェジ樹海の一級危険区域を解除してもらおうと思ってるの。そうすれば堂々と、私がサノウを迎えに行けるから」

「えっ!?」


 つ、つまりチハが優勝を目指してるのは、俺のため……?


『かーっ、この果報者がッ! 一級危険ラノベ主人公!』

『一級危険ラノベ主人公!?』


 いったい……!?


「……ゴメンねこんな重い話して」

「あ、ああ、いいよ。……訊いたのは俺だし」

「ふふ、何故かあなたの前だと、口が軽くなっちゃうわ」

「――!」


 刹那、俺がそのサノウだと伝えたい衝動に駆られたが、すんでのところで思いとどまった。

 もしもサイボーグの人権が不確かな今の状態でチハに俺の生存を明らかにし、その挙句俺が危険対象と見なされ()()されてしまった暁には、チハの心は壊れてしまうかもしれない……。

 それだけは避けなければならない。

 これは何が何でも、明日の決勝トーナメントで優勝するしかなくなったな。

 たとえチハとトーナメントで当たってしまったとしても……。


「さて、と、明日もあるし、私はもう帰るわ。――明日はお互い、いい勝負をしましょ」

「……ああ」

「言っとくけど、一切手加減はしないから、そのつもりでね」

「――!」


 チハは俺の鼻先にピッと指を向けてきた。

 うん、やっと少しだけいつものチハに戻ってきたな。


「……負けないよ、俺も」


 絶対に負けるわけにはいかないんだ。


「ふふ、おやすみなさい」

「おやすみ」


 覚悟を滲ませながら去っていくチハの背中を、俺はいつまでも見つめていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] チハさん一途。 とても良き。
[一言] 『おぉー、絶景かな絶景かな!』 この言い回しに、人間らしさというか、心の余裕を感じました。 シリアスっぽい展開でも、なんだか安心して読めそうな感じがしました。 続きを楽しみにしています<(_…
[一言] 一級危険ラノベ主人公……。 ああ、なるほど。主人公の行動の結果、フェジ樹海が一級危険区域になったという話ですね。
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