11ボーグ ここが今夜私たちが泊まるホテルだ
『フッ、予選突破おめでとうサノウ君。私の言った通り楽勝だったろう?』
「っ!?」
ミネさん!?
何だか随分久しぶりにミネさんの声を聴いた気がするな。
実際はミネさんが言うほど、楽勝でもなかったですけどね……。
『えーと、どちらにいらっしゃいます?』
『こっちだこっち。君の右斜め後方だよ』
『あー、はいはい』
言われた通りそちらに目線を向けると、ギャラリーに紛れて、全身をぶかぶかのフード付きローブで覆ったミネさんが、いつもの不敵な笑みを浮かべていた。
流石に人前ではバニーガールの格好をローブで隠すくらいの常識は持ち合わせてくれていたらしい(相変わらずフードからバニーガールの耳は突き出ているが)。
まあ、なら最初からバニーガールの格好なんかするなよって感じだけど、そこは譲れない一線なんだろうな。
やはり天才の考えてることはよくわからん。
「お陰様で予選突破できました。本当にありがとうございます」
ミネさんの下に駆け寄り、こそっとお礼を言う。
「フッ、いやなに、私は大したことはしておらんよ。ルイカもご苦労だった」
『いやー、マジでお疲れちゃ~んでしたよ。ワタシがいなかったら、サノウさんマジで危なかったですよマジで』
「う、うるさいな」
どんだけ『マジで』って言うんだよ。
まあ、ルイカがいなかったら危なかったのは、事実と言えなくもないようなそうでもないような……。
『あ、それはそうとマスター、山の奥の方で、サノウさんがエリアルコング倒しましたよ』
「なんだって! それは本当かい!?」
「え? ああ、はい、一応」
「死骸の保存状態は!?」
「っ! ……首を一思いに刎ねましたので、そんなに悪くはないかと」
「フッ、その場所に案内してくれるね、サノウ君?」
「――!」
また例によってミネさんが、魔王のような笑みで、俺の両肩に手を置いてきた。
あー、これは、今回も、ってことですね?
まあ、そう言われたら、俺に断る理由はないですけど。
俺は今度はミネさんのことをお姫様抱っこして、再度山奥へと入っていったのだった。
山奥で俺のバージョンアップを終え山を下りた時には、辺りはすっかり暗くなっていた。
「フッ、ここが今夜私たちが泊まるホテルだ」
「っ!?」
トォツェギ領の中心街であり、俺が住んでいる街でもあるツノミヤに帰ってきた俺たちだが、ミネさんが案内してくれたのは、ツノミヤでナンバーワンの高級ホテル『イロハ』だった。
マジで!?
「あ、あのー、ミネさん、俺、そんなにお金持ってないんですけど……」
一晩泊まっただけで、俺の月収が軽く吹き飛ぶくらいの値段だったはずだ。
「フッ、なあに、ここは私の奢りだから安心したまえ」
「えっ!? そ、それは悪いですよ」
『まあまあ、ここはお言葉に甘えておきましょーよサノウさん。マスターはちょーーーお金持ちですからね。このくらい端金ですよ』
「そうなの!?」
「フッ、副業でいろいろ稼いでいるからな」
「はぁ……」
まあ、そういうことなら、甘えちゃうか。
どの道俺は死んだことになってるんだから、自分の家に帰るわけにはいかないからな。
――が、いざ部屋に通されると、
「フッ、なかなか悪くない部屋じゃないか」
「っ!? ミ、ミネさん、部屋は別々じゃないんですか!?」
そこはツインルームだったのだ。
「フッ、私と一緒の部屋は嫌かね?」
「そ、そんなことはないですけど……」
一応男と女なわけですし……。
『何を今更。サノウさんはマスターに、裸どころか内臓までくまなく見られちゃってるんですよ。恥ずかしがる必要なんかないでしょーに』
「いやそれはそーかもしれないけど!?」
ちょっとは言い方に気を遣ってよ!
「フッ、真面目な話、また君が寝てる間にボディをメンテナンスしておく必要がある。同じ部屋のほうが都合がいいのさ」
「あ、そういうことなんですね」
じゃあ、しょうがない、か。
「さてと、早速だがひとっ風呂浴びてくるかな」
「――!?」
ミネさんはおもむろに、その場で服を脱ぎ出した。
えーーーー!?!?!?!?
「ちょちょちょちょちょミネさん!?!? 服は脱衣所で脱いでくださいよ!?」
「おっとスマン。ついうっかり」
『ブフゥ! またマスターが童貞男子弄りしてるぅ!』
「うぉい!?」
どどどど童貞ちゃうわ!(………………童貞だけど)
「あ、あの、俺、ちょっと夜風に当たってきます!」
『おそとはしってくりゅううう!!』
「フッ、気を付けてな」
くそう、心臓がもたねーぜ。