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10/22

10ボーグ 萌えええええ!!!

 マズい……!

 マズいマズいマズいマズい……!!

 これで残る枠は2つ。

 つまりあと1回でも花火が鳴れば、俺かチハ、どちらかは予選敗退ということになる――。

 大分山の奥のほうまで来てしまったから、ここからだとコトウさんのところに帰るだけでも相当時間が掛かる。

 しかも俺はまだムァツ茸を見付けてすらいないのに……!


『よく考えたら今の【正接炎(タンジェントインク)】で、ムァツ茸燃やしちゃったかもしれないですね』

『あっ!!』


 言われてみれば……!!


『まぁー、その時はその時ですね。また来世で頑張りましょう』

『今世はもう諦めてるのかよ!?』


 これは本格的にヤバいぞ。

 ――控えめに言って絶体絶命のピンチだ。


「……そんな、せっかく苦労してムァツ茸を採ったのに」

「えっ!?」


 チハはポケットから2本のムァツ茸を取り出し、それを恨めしそうに見つめた。

 チハはムァツ茸をゲットしてたのか……!!


『イエスッ! サノウさん、これで勝利への道筋が見えましたよ!』

『は?』


 どういうことだよ?


『つまりですね、ご~にょごにょごにょごにょ』

『実際にごにょごにょ言うやつ初めて見た!?』

『アッハハー、冗談ですよ冗談。つまり――』


 ――!

 ルイカから聞いた作戦は、とても作戦とは呼べないような代物だった。

 ――だけど、確かに今の俺なら。


「チハ!」

「え? な、何よ」

「お前が持ってるムァツ茸を1本俺にくれれば、今すぐお前をコトウさんのところに連れていってやるけど、どうする?」

「――!」


 チハは一瞬だけ訝しむような表情を見せたものの、すぐに一つ溜め息をつくと――。


「いいわ、どの道今から自分の足で帰ったら、絶対間に合わないでしょうし。――あなたに賭けるわ」


 俺に1本ムァツ茸を手渡してきた。

 ――よし!


「任せてくれ。必ず約束は守る。――じゃあ、ちょっとだけ失礼して」

「え? きゃっ!?」


 俺は素早くチハを()()()()()()した。


「な、何するのよ!? 私に触らないでッ!」

「ゴメン! 今はこうするしかないんだ。――舌噛むから、口閉じててな」

「は? ――っ!?」


 そして俺は、()()()()駆け出した。




「~~~~~!?!?」


 チハが何か言いたそうに俺をガン見してくるが、生憎相手してやる余裕はない。

 何故なら俺は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で走っているからだ。

 あまりの速さに、景色がブレて見える。

 かなり遠くに見えたと思った巨木が、次の瞬間には視界から消えている。

 ……俺ってこんなに速く走れたんだなぁ。

 我ながら本当に恐ろしい身体だな。


「オイ待ちやがれそこのぐわああああああ」

「「っ!?」」


 あ、ヤッベ。

 誰か轢いちゃったっぽいぞ。

 ま、まあ、口振りからして、俺たちからムァツ茸を奪おうとしてたやつっぽいから、自業自得ってことで、ひとつ。

 ゴールが近くなってきたこともあって、モヒカン3人組みたいに、待ち伏せて他者からムァツ茸を奪おうとしてるやつがいるんだろうな。


 事実、その後も俺は軽く10人以上の待ち伏せ組を吹き飛ばし、晴れてコトウさんの下に帰還したのだった。


「おおーっとぉ!! まさかまさか、ラストの予選通過者はラブラブカップルでしたぁ!! お安くないぞ!」

「「っ!?」」


 ラ、ラブラブカップル!?!?

 あ、あー、まあ、お姫様抱っこしながら帰ってきたら、そう見えないこともない、か……?


「ちょ、ちょっと! 早く下ろしてよ!」

「あ! うん、ゴメン」


 俺はそっとチハを地面に下ろす。


「……でも、ありがと。あなたのお陰で予選を突破できたわ」


 チハが俺から顔を背けながら、ボソッとそう言った。


「いや、俺の方こそ、チハがムァツ茸を分けてくれたから、突破できたようなものだからさ。お互い様ってことで」

「……うん。あなたが何で私のことを知ってたのかは気になるけど、今日のところは詮索しないでおくわ」

「ハ、ハハ、それは助かるよ」


 ――!!

 その時、俺の背後から突き刺すような殺気を感じた。

 おもむろに振り返ると、そこには昨日俺のことを刺し殺した時と同じ瞳をしたザザキが、こちらを凝視していた。

 ――ザザキ!

 やはりお前も突破していたか――。

 そうこなくっちゃな。

 見れば、例の『綺麗な薔薇には棘がある』の豹柄セクシーおねえさんと、バヤシ隊長もこちらを見据えていた。

 豹柄セクシーおねえさんはまだしも、バヤシ隊長まで予選を突破してたか……。

 俺が複雑な感情を持て余していると、ドンドーンと立て続けに2発、花火が打ち上がった。


「終~~了~~~!! これにて予選通過者8名が出揃いました! この8名で、明日の決勝トーナメントを戦っていただきまーす! それでは本日はここまで! 司会進行は王立魔法剣士団(ネスト)トォツェギ支部広報担当、コトウ・ミユギでした。また明日、お会いいたしましょう」

「「「うおおおおおコトウさあああん!!! 萌えええええ!!!」」」

『かーっ、あんなぶりっ子女の、いったいどこがイイんですかねぇ。センス疑うわぁ』

『俺はお前の口の悪さが甚だ疑問だよ』


 全然AIっぽくないよな、お前?



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― 新着の感想 ―
[良い点] つーことは、実況のおねーさんの前でグルグル全力疾走してれば、戻ってきたヤツら軒並み轢いてあっさり突破出来たってことっすねッ!(メガネくいっ)
[良い点] お姫様抱っこ。舌を噛むから黙ってろという状況はいいですね。にやにや。(*´Д`*)
[良い点] ルイカが面白すぎますw さすが梅……ミネギスさんに開発されただけある。
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