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転生たぬきの異世界ぽんぽこ大恩返し  作者: ブビィキャット
2/3

たぬき、さらわれる

オリビアは馬車に揺られて疲れたようで、食事とお風呂をすませるとすぐに眠ってしまった。

ちなみに俺の寝床もこの部屋にある。

同じベットで寝たいと言ってくれていたけれど、さすがにそれははばかられたので、ベッドからの脱走を繰り返してなんとか諦めてもらった。

今は部屋の隅に俺用のカゴを用意してもらっている。

今はたぬきとはいえ、中身はおっさんだからね……。


今日は本当に幸せな1日だった。

大切な人の腕の中で過ごして

大切な人から世界でひとつのプレゼントを貰って

大切な人から特別な存在だと言われた

明日からもずっと幸せな毎日が続くんだろうな


おれは今日の幸せを噛み締めながら、ふわふわの毛布の中でいつの間にか眠ってしまった







「きゃあああああああ!!!!!」




暗闇のなか、誰かの叫び声で目が覚めた。

オリビアだ!!オリビアに何かあったんだ!!!


たぬきは夜行性なだけあってオレは夜目が効く

月明かりだけが照らす部屋の中央には

2人の男に囲まれるオリビアの姿があった。

片方はオリビアの細い腕を掴んで拘束している。

なんだアイツらは…!?


「痛い…腕が…!」


「おっと、静かにしていれば嬢ちゃんにこれ以上危害を加えるつもりはねぇよ。犬の居場所だけ教えてもら…おっとその必要は無さそうだな」

月明かりに照らされたオリビアの細く白い腕からは、赤い血が一筋滴っていた。

それを目にした瞬間オレは咄嗟に唸り声をあげながら駆け出していた


「ぽち!ダメよ出てこないで!逃げて!」


オリビアの静止を聞かず、ナイフを持つ手に噛み付こうとジャンプし、男に飛びかかった!…が


ガンッ!!!

男は、噛み付こうと狙っていたその手を振り落とし、飛びかかったオレを床にたたき落とした

「ポチーーーーーー!!!嫌ああ!お願い!やめてぇぇぇ!」

オリビアの悲鳴がさらに響き渡る


「ちーさな犬っころがご立派なこって…さぁ袋に詰めとくか。おーいい首輪してんじゃねぇか。これは貰っとくか。」


オリビアから貰ったオレの宝物…乱暴に剥ぎ取られるとすぐに、何かで身体全体を覆われ、暗闇に閉じ込められた。

抵抗したいが、頭がクラクラして身体が動かない……


「お嬢様!!!どうされました!!!」

誰かが異変に気がついたらしい。

袋の外からオリビアに呼びかける声と、ドアを勢いよく開ける音と何人もの足音が聞こえる。


「お嬢様を離せ!お前らは何者だ!何が狙いだ!」

アルフレッドさんの声が聞こえる。

「はいはい、嬢ちゃんにもう用はねーよ。離してやんな。ずらかるぞ。」

どうやらオリビアは解放されたようだ。

よかった…


「アルフレッド!ポチがあの袋に…」

オリビアの声が聞こえたが、直ぐにその声が遠ざかって行く。

男達は屋敷を脱出したようだ。

小さな爆発音が幾つも聞こえ、その度に袋の外が少し明るくなった。

屋敷の人が魔法でこいつらを追って攻撃しているのだろうか。

だが、次第に音も聞こえなくなってきた。


「やっと諦めやがったか。」

男達の会話が聞こえてくる。


「しかしなんでこんな犬っころごときを…」

「依頼人がいうにはこいつは霊獣だそうだ。“ タヌキ”だってよ」

「この小汚い犬が!?嘘だろ!?」

「んなわけねぇよ。おとぎ話じゃあるまいし。ボケてやがんだろ。まぁ犬っころ1匹さらって大金が手に入るんだから割のいい仕事だぜ。さぁ早く山を越えよう。その先で依頼人と合流だ。」


おとぎ話…?そんな事のために、あの優しい子に傷を負わせたのか。

あの穏やかな子にあんなに怖い思いをさせたのか。


こいつらは、絶対に許さない‼‼‼‼

怒りで全身の毛がぶわっと逆だったのを感じ、それと同時に頭にある言葉が浮かび上がる


《雷撃!!!》



「ぎゃああああ!!!」

麻袋の中からでも分かるほど、当たりは昼のように眩しくなり、男達の悲鳴と雷鳴が大きく響きわたった。


オレが入れられていた麻袋が燃えて穴が開いたので、急いで飛び出し、辺りを見回すと黒焦げになった男ふたりが静かな夜の山に横たわっていた。

雷が落ちたと言うのに、空には雲ひとつなくさっきと変わりなく木の葉の隙間から月明かりが当たりを照らしていた。


さっきの雷は何だったんだ?

何にせよ助かってよかった。

オリビアの元に帰ろう…とその前に…


黒焦げになった男をまさぐり、奪われた首輪を取り返そうとしたが、革部分は燃えてボロボロになっていた。

なんとか無事だった鑑札部分だけを咥えて歩き出した。



オリビアが、オレに似合うと言ってくれた赤い首輪



悔しくて涙が溢れる

けれど今は頑張って歩こう。

オリビアのもとへ帰りたい



屋敷の方角は分からない

居場所探知が付与された首輪はもうない

それに男達の会話から、なぜだオレを狙ってる奴がいるようだった。

それならば、オレは帰るべきじゃないのでは?

また今日みたいな奴らが彼女を傷つけるかもしれない。

そんなこと、オレには耐えられない。

こんな小さな体じゃ、魔法も使えない無力なオレじゃ、彼女を守れない。



俺はこのまま、山で暮らそう。

幸せな時間をありがとうオリビア

せめて少しでも恩返し出来ればよかったけれど。

恩返しどころか、俺のせいで怖い思いをさせてごめん。

どうかオリビアのこれからの毎日が穏やかで幸せなものになりますように。


そして俺は1人…いや1匹で山の奥へと入っていった。

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