表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

提燈アンコウ

 子供の頃は神様が居て私の事を見ていてくれてるんだーなんて、思っていたんだけど自分事は自分でってのはいい加減自覚した。


今から考えると迷信よりも突拍子の無い世界を信じていたなー。


雷が鳴ると悪い子のおへそを取りに来ているだとか、黒猫が前を横切ると縁起が悪いとかそんな感じの迷信とかね。


何事にも新鮮に思えて科学的な説明をされなくとも全然疑わなかった。

冬にはサンタさんが来るし、夏には茄子と胡瓜の馬に乗ってご先祖様が遊びに来る…生活の知恵とそれを分かりやすく伝える為のちょっとした嘘の一つくらいは記憶にないかな?


少し離れた祖父母宅や塾に行く時といった日常的に電車を使うことが多かった。

その度というか出掛けようとするたび、お母さんはは共に電車で乗り降りする時良くホームと電車の間をジャンプするように私に言い聞かせたのだった。


子供の時はまさか足を踏み外してホーム下に挟まるなんて思いもせず質問をしたことがあった。

「なんでお母さんは電車に乗るときにいっつもジャンプするの?」


母は小さな声で私に耳打ちして秘密を教えてくれた。

「みんな気が付いていないんだけど、駅のホームの下にはね、まっくろーい毛むくじゃらのお化けがいるの。 そのお化けに足を引っ張られ無い様にジャンプするのよ」

咄嗟に思いついた都合の良い怖い噂、子供ながらにすっごい怖い思いをしてその晩はなかなか寝付けなかったのは覚えている。


怖がる私を更に父が茶化して遂には泣き出してしまって母が物凄く怒っていたのを今でも思い出す。

わざわざ黒いもじゃもじゃの着ぐるみで驚かしてくるなんて思うわけないじゃん。

そう言う若干のトラウマも相まって私は電車に乗るのが少し苦手になってしまったのだった。



「そーんなのある訳ないじゃーん、あゆだって分かってんでしょー?」 


クラスメイトや先生にも何度か弄られたことの有る笑い話…それだけなら別に大したことじゃない。

その話を信じていた頃の私は本当にそんな事があるのだろうかと疑って小学校の低学年位だった私はとある駅で一人それを試してみた。


遠足などの度に怖がってクラスの男の子に馬鹿にされるのは私としても嫌だったから。


時間は多分5時位、夕焼け小焼けが聞こえてきそうな感じで周囲は既に薄暗くなっていたと思う。

隣の駅までの切符をギュッと強く握りしめて私は最寄りの駅に向かった。


お化けなんてないさと口遊んでホームのベンチに座っていたけど、どうしても気になって

次の電車を待つまでの間、ホームの端から端までおっかなびっくりでホームから下の線路を見渡した線路を見渡してみた。

勇気を出した結果、勿論だけどお父さんとお母さんの言ってたような真っ黒いお化けは影も形も無かった。


これからは安心して電車に乗れるんだとほっと胸を撫でおろしてベンチに座り直してた。


ぱーん、ぽーん

駅で時折聞こえるこの音はいったい何なのか私には分かりませんがま、何か意味のあるから鳴らしているんでしょう、もしかしてお化けの鳴き声だったり…ははっまさかね。


買ってしまった隣の駅までの切符を買っちゃったから、ちょっとお金勿体無いけど隣の駅と行って帰る位なら私でも迷わずに帰れるよね。


反対から来た電車に乗れば良いし、知らない場所に行くちょっとした探検家気分うきうきしながら電車を待っていた。

これは単なる私の昔話な訳だけど、わざわざこんな昔の話をするという事は話はこれで終わってはくれないって事なんですよ…


大きな警笛音が遠くから聞こえてきてびっくりしたけど、ホームに入るにつれて速度を落としてきたから電車が止まるころにはお母さんがしてくれた話をすっかり忘れてしまっていた。


ただ電車に乗ろうとして何にも考えずにホームと電車の隙間はどれ位あるのかなって私はそっと覗き込んだ。


その時、さっきまで何も無くって、線路と敷き詰められた小石しかなかったはずの隙間に黄色い目が光っていた。

びっくりしたとか怖かったじゃ無くて、訳が分からなくなって反応することが出来なくなってその場で固まってしまう。


そんなの居る訳無いよねと思っていただけに声も出せずに目線の下にモノを凝視する。

早く電車に飛び乗っちゃえばいいんだろうけど不安が堰を切ったように溢れ出してきて体がいうことを聞いてくれない。


電車が発車する時のメロディが流れてきてもホーム下のそれは私の体をその場に縛り付けたかの様にして動かせるようにしてくれない。


子供を泣かせるには十分な時間、ものの十数秒だったけれど電車が発車する時のチャイムが私を余計に焦りと怖い思いにさせる。


声は出なかった、すっごい叫びたくなったけどここはお化け屋敷でもジェットコースターでもなく何の変哲もないただの地元の駅のホームだと自分に言い聞かせる


私の真下にに居るのが一体何なのかは知らかったし、何が起こっているかは分からない。


込み上げてくる叫び声を飲み込んで引っ張れるもんならやってみろ!!

って感しで気は強く持ってそ私は口をきゅっと結び、黄色く光るものをキッと睨みつけた。


普段使われている生活の一部に得体の知れないものが潜んでいるんだ…世の中すっごい怖いっての今もあんまり変わらない。


感覚としてすごく気持ち悪い思いをしたけどそれよりも当時の私を震え上がらせたのはその黄色く光る眼がにーっと細くなった事だった。

「ひっ…」

私はもうそれを直視できなくなって声にならない声を上げて私は電車に飛び乗ったのでした。


ガタンガタンとのんびり走り始めた電車に「早くあの駅から離れて!!」とお願いをしてワナワナと車両の隅で震えて…


一度怖くなるとある事ない事いろいろと考えてしまってあの黄色い目をした何かが私を追ってきてるんじゃないかとか、隣の駅との間にあるトンネルに入った時の音が大きくてびくってなったりとかもう背筋が凍りそうになっていた。


しかし、もっと大事な事を私は忘れていた。

それは「もう一回あの駅に戻らなくっちゃいけない事」


隣の町の駅にいつまでもいるわけにはいかないし、歩いて帰るなんて到底出来ない。

隣の駅までの切符しか買っていないから電車から降りなくちゃいけないんだけど…


さっきのあいつが追いかけてきていたら、というかどこの駅にもいたら…ホームと電車の間に潜んで私みたいな子を待ち構えているとしたら…


隣の駅までの時間はそんなに時間が掛からない距離なのに、「駅に着くな…!着くな!」と必死になってお願いしていた。

けれどそんな魔法みたいなことは起きず、当たり前のことだけど電車は無事に隣町の駅にゆっくりと速度を落としていく…


やめて、やめて!やめてよ!

私はさっき起きた事が信じられなくて、

隣の駅で降りようとするのが私には物凄く勇気のいふ事だった。


みんないっつもあんなものがいるのに全然へっちゃらだって事に驚いたし、これから私どうしようって慌てて訳分かんなくなっていた。


私は半分泣きながら息を切らし、隣の駅と黄色い目のいた地元の駅で降りたけど今度は何にも起こらず現れなかった。

結局のところ何かが出たのはその一回きり…

けれど幼少期に見た洒落にならないこの話を私は親にも友達にもできずひっそりと自分の胸の中にしまい込んでいる。


こんな経験を話したところで頭が変とか痛い子みたいな反応されるに決まっているから出来ないまま…なんです。


「ねぇーーあゆー知ってるー?」

なーに、ももがそうやって話を持ってくる時は大体良い話だった試しがないんだけど。


私はその後一度も幽霊やオカルトの類のものを避けていつの間にか高校生になっていた。


花の高校生とか青春だとかそんな話ばっかり聞いていたけど全くそんな事は無く、学校なんて大量の勉強と割とすごく面倒くさい人間関係で構築されていると思う。

学校って居て面白くない場所と言う訳でも無いんだけど、労力を無茶苦茶使うからあんまり好きになれない。

友達には会いたいけど人間関係は面倒くさいみたいな自己矛盾から目を晒して学校に通っている…


「えー、ひっどーい。あゆが反抗期だよぉ〜、クソババァとか言ってくるぅ〜」

私そんな事はひとっことも言ってないんだけどももさん?


私の友人は私とは酷く似ていない、そしてクラスの女子の中で私が事務的な付き合い以外で話すのは彼女と隣のクラスにもう一人くらいだ。

私にとっては友達は少ない位で丁度いいんだ。


明るくてムードメーカーな「もも」背は平均の子より小さく、それを気にしてるから牛製品をよく休み時間に口にしてる。


水泳が得意で部活でも活躍してて県の大会に応援しに行った事もある、私のクラスメイトだ。

ももは机に顔を伏せて両手両足をぱたぱたさせて駄々をこねてる。 はぁ、もう少し大人しく出来ないの?


「だってーあゆが構ってくれないから~」

そういうことじゃ無いでしょ。それに何、話って。

このまま機嫌を損ねられても面倒なので私は気のりしないまま、ももの話を聞くことにした。


「やった!やっぱりあゆ愛してる!!」

調子がいいなぁ、ももがこーゆー時ってあんまりいい話を聞けた試しがないんですけど。


「そんなことないよー、一昨日だって飲み物おごってあげたじゃーん」

それはももが宿題忘れてきたのを見せてくれーって頼みこんできたからその報酬としてでしょ?

「あちゃー、ばれたか。次はちゃんと半分位やってくるからさー半分は頼んだよもも!!」


金曜日までの化学のレポート終わらなくても見せないからね。

「そんなゴムタイヤなぁーー!!」

それを言うなら「ご無体な」でしょ、中途半端に難しい言葉使わなくてもちゃんと伝わるように言ってね?


「だって、難しい言葉って使いたくなるじゃん!!」

バンバンと軽く机を叩くももを宥めてはいはい分かりました私はと答える。

ももはそんなに子供っぽいままなのかは私には良く分かんないよ。



「演技だよ、演技。子供っぽくて我儘そっちの方が得することが多いんだー」

え、そうなのかな、私にはそうは思えないんだけど。「大人っぽい」方が恰好いいんじゃない?

ももってたまに怖い事言うよね…


「そんな事を話したい訳じゃなくってさ、出たんだって!!」

出た…? 有名人がタピオカ飲みに来てたとか? それとも帰り道の途中に野生のタヌキとかイタチでも見たの?


ももの言う事だから自動販売機の当たりが出たとか寝坊したと思ったら時計がずれててちゃんと遅刻せずに学校に来れたとかそんな話なんだろうと私は思っていた。



「なんかね噂になっているんだけど、三年生に木野っていう保健委員会の先輩がいるの」

噂になってる先輩? 三年生で噂になっている人がいるの?

噂になる位だから曰くが付いたんだろうけど三年生にもなって後輩の噂話になるってどうなのかなもも、


「あゆちゃ~ん、最後まで話を聞いて、まだ話の起も話せてないよぅ!」

あー、はいはいごめんなさい、ごめんなさい。 話の腰折っちゃったね

「あゆちゃんそーゆーことですよ、だから友達が私位しかいなんだよー、それでお話は続けても大丈夫かなん?」

ももは机に肘を立てて掌に顔を置いてどこかこちらを試すみたいな表情になっている。


私の苦手な事を話すとしてもだから何って感じだし別に気にしないから話してみなって、もも

というかサラッと私の


「うん、実はというとその先輩が行方不明になっているんだって」

行方不明…? 喧嘩して家出したとか一人旅に出たとかそんなんじゃないの?

「そーゆー話なら噂に何てならないって、ももちゃーん実はね…その人もう三か月も帰ってないんだけど姿形はあるんだって」

…それってどういう意味?


「木野先輩制服姿のまま、とある場所に佇んでいるらしんだけど、話しかけちゃいけないんだって」

話しかけちゃいけない?

「そう、話しかけちゃうとその人不幸が訪れるんだって。 だから誰にも話を聞いてもらえないかわいそうな先輩の話なの!」


…それってさ、もしかしてだけど三年生全体からその木野先輩とかがいじめられてるとかそんなんじゃないの?


「うん? そうじゃなくて摩訶不思議な動き方するんだって、特定の場所だけなんだけど」

特定の場所? ていうかうちの生徒の中に本当に木野先輩っているの?

うーん話がどうにもピンと来ない、もしかしてだけどももちゃんお手製の作り話…?


「噂だけど私はその噂がホンモノじゃないとあゆちゃんに話さないよ」

確かに、ももちゃんの作り話ってもっと適当な感じで話すもんね。おちゃらけた時とかふざけ合ってる時とか、


「うんその場所にね、行ってみたんだよ私も」

え、本当に行ったの? そんな簡単に行ける場所なの木野先輩が居る場所って

「えっとーなんて駅だったかな〜、そうそう日暮って言う駅だよあゆちゃん」


日暮…その駅は私のうちの最寄りの駅じゃない。

もう一つ新日暮という駅が近くにあって私はそっちの駅を使って学校まで来ているけど…日暮の駅は私が小学生の頃に半分トラウマになっている話が起きた駅だった。


あの駅は正直な話、今でもあんまり近づきたくない。

怖いってよりも気味が悪いよあそこ。 妙に古いし、それに暗い。


「あゆちゃんってそっちの方でしょ? だからあゆちゃんの目でも確かめてきて欲しいなーって‼︎」


日暮駅に木野先輩は彷徨いてるのかって事?

私が聞くとももは目を輝かせてうんうんとうなづく。


それは幾らももの頼みでも私は行きたくない。

帰り道が遠回りになるし、ももの持ってきた委員会の資料には保健委員の名前で確かに木野先輩の名前はあったけどさー


「先生方もまだ何も情報を掴めてないんだって、木野先輩あんまり交流関係無かったみたいなの」

それは….友達が少ないって事かな、私もあんまり人の事言えないからそこは同情するけど。


「えー、調べてきてくれないのー?」

余りにも情報が少な過ぎるし、木野先輩にもし出くわしたとしてどうするの?


「そこは保健委員の仕事溜まってるんで帰って来てくださーい! とか?」

少し考え込んで出てきた答えがそれなのでももとしては噂を面白がりたいだけなんだろうなぁ…


「あゆちゃん…分かった、私も行ってあげるよ。一緒に日暮駅に行って、木野先輩が居なかったら駅前のお店でタピオカとか飲んで帰ろ! 良いでしょあゆちゃん!!」


ももちゃんもしかしてそっちの方がメインだったりしない?

「そんな事ないよ〜」

ももちゃんはニコッと笑う、素直な可愛らしい顔立ちも合わさってたまに私もどきっとさせられる。


まぁ、私もそろそろあのトラウマを払拭しなきゃって思ってたし、学校へもその駅を通らない様に遠回りをしてるから行こっか、日暮駅


「よっしゃー! 木野先輩探しダァー!」

もも、ここ教室だからそんなに大きな声出さないでよ恥ずかしいから!!


私はこの時まさかあんな事になるなんて思いもよらなかった。

それに結末が分かっていたらあの日に日暮駅に行くなんて事は絶対にしなかっただろう…


「っていう前振りをしておくと不穏な雰囲気を手軽に出せるよね!!」

もも、あくまで噂は噂なんだからあんまり嵌り込まない方がいいと思うよ。

サラッと確認したら甘いもの食べて帰ろうね


私達は互いに放課後都合の良い日を作って、噂が学年の間で広まる少し前に件の日暮駅へと向かった。


上りのホームと下りのホームが別々になっており、ホームは半分地下に埋れる形で電車がやって来る。


こんな場所だったなと思うのも束の間、ももに連れられて私はさくっとトラウマの駅へと戻ってきた。


その日は夜のなり損ないみたいな空の色の暗さだった。

夕立ちにでも遭ったら傘をもって無いからコンビニとかで買わなくっちゃ…


それでももちゃん、木野先輩って本当にいるのは名簿とかで分かったけどどんな顔立ちだとか特徴を教えてくれないと探しようが無いよ。


「あー、なんか眼鏡かけてて、背がひょろ長くて、ウチの制服を着てるみたいだよー?」


えぇ…恐ろしくざっくりしてない?木野先輩の何か特徴的な特徴は無いのかな


「見たことがある人はいっつも後ろ姿だけみたいだよー」

でもそれじゃあ木野先輩かどうか確かめようがないんじゃない? もし本人に遭遇したとして私達はどうすればいいの?


半分地下に潜るホームはいつも薄暗く、三十年前から駅のリホームとかして新しくなっていないらしい。

改めて見てもちょっとだけ怖いなあ、ここ。


「うーんあゆちゃんが声を掛けるとか、あゆちゃんが駅員さん呼んでくるとか」

私しか動いてないじゃん、知らない先輩に声掛けるの? 先生とかに話した方が良いじゃない?


「あくまでも噂だよー、う・わ・さ」

でももう先輩が学校に来なくなって二週間なんでしょ?

「やっぱり不登校になっただけなんじゃ無い?」

いよいよ探す時になって急にももは乗り気で無くなる事を言ってきた。


さてはもも…結構怖かったりする?

「うーん、怖いっていうか…嫌な感じがする」

またまたー、ももに限って怖がるとかしないでしょー

私は信じて無いからね、心霊とかオカルトとかそういったやつ。


ホームには次の電車が来るまで時間があるのでほとんど人はいない。

ももの顔は雲行きが怪しくなっていく… ちょっとそういうの止めてよ?


ももら無言で私が立っている奥の方を見つめている。

さっき私も見たけどそっちはトンネルの出口の方だけど何にも無いって。

ちょっとちょっと、怖い怖い怖いって。


「うーん、やっぱり気のせいか見間違えかもしれないや! さぁ!木野先輩探しダァー!」


ももちゃん、ちょっと待って! 置いていかないでよ!!

ホームに誰も居ないからって急に走り出さなくたって良いじゃん! わたしは運動苦手だって知ってるくせにーー!!


ホームの端から一気に階段までダッシュで駆け上がるのは止めてももーー!


「あゆちゃーん、また運動しなくなったでしょ?」

なんで、ダッシュと階段を駆け上っても息が上がって無いの、ももは…


突然走り出したももちゃんはけろっと平気そうな顔をして尚且つ私にそんな事まで言ってきた。

この子本当に他意なく言ってるから反論しようがない。

このやり場の無いムカつきはどこにやれば良いんだろ…


それよりどうしたのもも、急に走り出して日暮駅に来た時からももの様子は少し変な気がするけどなんか大丈夫?少し心配して話しかける

「何かこっちに見られてるって気がしてたんだー、だからちょっとだけ走ってみたけどやっぱり木野先輩じゃなかったみたい」

誰かがコッチ見てたって、それって普通にホームに降りたかっただけなんじゃないの?

「でもね、私が階段の方見たら改札口の方に走りだしたから追いかけてみたけど、どこに行っちゃたんだろう」


駅からもう出ちゃったのかな? それとも元からももが聞いた噂が嘘だったのかも…?

「分かんないけど、これ以上は探すだけ無駄な時間になっちゃいそう…あゆちゃん、やめよっか先輩さがし」


うーん、折角だし反対側のホームだけ探索しにいかない?

「え、あゆちゃんそんなに噂とか好きだったっけ?」

そういう訳じゃないけど…私はこの時は小さい頃のあの出来事をふともう一度確かめたくなってしまったから…とこれはあゆちゃんに話さず単にあっちのホームはどうなってるんだろうと知っているのに興味を持った体を私は装った。


「そ…そう」

今度は私が乗り気にならないあゆちゃんを従えて上り方面と書かれたホームへゆっくりと降りてきた。

さっき電車から降りてきた下りホームと一緒で蛍光灯がちらほらと見える程度でレトロで薄暗いタイルが張られたホームがそこに伸びている。


子供の時のあの時と何ら変わっていない…寂れた場所であることに変わりはない十年近く前と印象はまるっきり…まるっきりそのままだ。


「あゆちゃん、こっちの方は(うち)、なんか上手い事いえないけどさなんか嫌な感じがするよ」

上りのホームと下りホームと私には何も変わらない様に思ったんだけど、ももは霊感とかあるのかな?

良いなぁ、ももは…私に無いものを持ってる。


この空間には私達の他には人影すら疎らで誰もいない。

そんな場所で薄暗いってのは確かに雰囲気としては怪談話とかホラーゲームにするならバッチリな感じするよねー


「あゆちゃん…もしかして笑ってる?」

え、そんな訳ないよ、こんな気味の悪い場所で笑ってたらそれこそ頭おかしい人だって。


「そう言えばあゆちゃんのお家に遊びに行った時って新しい方の日暮駅で降りなかったっけ?

けど、うちの高校ってこっちの駅から行っても行けるよね? 」


あれ、そうなんだっけ? 私知らないわ

(うち)あんま詳しく無いから予想でしか無いんだけど」


ま、あゆちゃんを待たせるわけにはいかないし早く探索だけして駅を出よっか。


ホーム下を覗き込むのなんて一瞬で出来るのに、息を飲み込むのもなんだか満足に出来ないのはなんでなんだろう…


やっぱり怖いよね、小さい頃のトラウマは簡単には消えてはくれないものなんだね。わたしはやっぱり左側にある線路に視線が移せない…

「むーん、やっぱり人は居ませんねーあゆちゃんセンパーイ?」

私達同学年でクラスメイトでしょ? いきなりどうしたのその口調…


「うんとね、あゆちゃんが積極的なのって珍しいなって思って理由は分かんないけど」

ももはたまに褒めてるつもりで、わたしに出来ない事を言ってくる。

いつもぐいぐい行ってくればあゆちゃんきっと人気者なのにと言ってきた。


ももちゃんそれは無いよーと思いつつその実その悩みを抱えている事である事が大半なのです。

「こう、なんて言うのかなー地下の駅って音が響くしなんか吸い込まれそうにならない?あゆちゃん」


ももはなぜかホームのベンチに座って足をぱたぱたとシーソーの様に動かす。


「吸い込まれる…」

この先は暫くトンネルが続いているか確かにそう思えなくもないかもね。

何か出てくるとかそういうのは流石に漫画の読みすぎだよねー


下りの電車が走り去る方向のホームの端っこに私はうちの男子の制服姿を一瞬だけ見えた気がした。

えっ? あれ?もも、あそこ、柱の奥に誰か居ない?


蛍光灯の光があまり届いていない、ホームとトンネルの間の柵の近く、薄暗がりの中に男の人が立っていた。


遠目であんまりはっきり言えないけど、あの人うちらの学校の制服着てるよね…

本当に誰かうちの学校の生徒がここに居るんだ。


「あゆちゃんどうしたの?」

もも、あそこに誰かあそこに立ってるよね?

「え…ほんとあゆちゃん?」

ももは私の指差す方向をじっと見つめていたけど、何も居ないよと首を横に振った。


本当に見えてないのと私はもう一度視線を移したけどさっきまでいた筈の男の姿は影も形もなくその先のトンネルがポッカリと口を開けているだけだった。


そんなわけ無いよと言いかけたけど本当に誰も居なかったからわたしの言った事は証明できない。

私達に気がついて隠れたとかじゃないかな?


「別にいいよ、あゆちゃん、木野先輩なんて居なかったんだよ」

え、でもさっき本当に誰か居たよ?

「や、私素直に怖いよこの場所…本当に何が出てきそう」


そんな訳無いよもも、ここはただの駅なんだから。

ちょっと暗いかもしれないけど何も起きるわけ無いってー

小さい時の自分に言い聞かせる様に私はゆっくりとあゆを宥める。


正直に言うなら自分に対して言い聞かせていたのかもしれない。

幽霊なんている訳が無い、わたしが小さな頃見たのはそんなものじゃ無いはず…


幽霊の正体みたり枯れ尾花なんて言うくらいだし、見間違いなら見間違いで私はちゃんと正体を確認してスッキリさせて帰りたかった。


「あゆちゃん、改札に戻ろうよ…ね?」

もうちょっとで分かるから、怖かったらそこでちょっと待ってて、もも。

電車が来るアナウンスはまだ来ない。


さっき何かを見つけた所まで私は歩いて確かめる事にした。

柱の影とかに誰かしら居たら怖いと言えば怖いけど…

ホームの端っこに人がいるのは今どき珍しい事でもない。 だ か ら大丈夫!


私は歩調を早めてホームの端まで歩いていく…

わたしの足音が暗いトンネルに吸い込まれ、反響する…後三つ分柱の奥に確かに高校の制服姿の人がいたはず!!


まもなく電車が参ります白線の内側にお下がり下さい


電車が来る時に地下のホームって煩くなるから嫌なんだけど取り敢えずは枯れ尾花の姿を見てやる!


柱の影には…背の高い男子生徒が本当にそこに居た。

わぁ、なんだびっくりしたー、やっぱりいるんじゃん木野先輩…


「えっと…君たちはここで何してるの? なんか走って来たみたいだけど?」

ほーらー、ももー居たよー木野先輩ー!!

困惑する先輩を他所にももを呼ぼうと振り返るとあゆは少し心配そうな顔をしながら私の方に歩いてくる。

大丈夫だって、人見知りなんてももらしく無いよー?


あのー、木野先輩でお間違いないでしょうか?

長身痩身でエラが張った顔にメガネ男子…うん、あゆちゃんの言ってた人に多分間違いないね。


「え、あーうん確かに俺は木野で間違いないけどどうしたの、こんな場所で」


素直に私は聞いてしまおうと学校に行ってないそうですねと先輩に尋ねた。


「あー、そうそうそれね。俺困ってんだよねー」

困っている?それはまた何かあったんですか、私はあくまで他人なのでお話を聞くぐらいしか出来ないんですよね。


「話か…話は別に聞いてくれなくても大丈夫なんだ」


誰も聞いてくれなかったし…と諦めた様に言う木野先輩、クラスの中で浮いてたとももの部活の先輩が言ってたしやっぱり、友人関係とかで悩んでたりするんですか…


「実はねそんな事は今どうでもイインダ…イマハトッテモ」「あゆちゃん!電車の線路が変なのがいるよ!!」

ももが走ってこっちに向かって叫びながらはしってきている。 線路の方…私の頭や首から一気に血の気の引く音がザワワワッとした気がする。


その言葉を聞いて私が振り向いた時にはそれは当たり前の様に黄色い巨大な尾灯が二つこっちを向いていた。


優に私たちの背丈を超えている球体に見える黒いゾワゾワと蠢くなにか、嫌な予感はほんの少しだけ駅に降りた時にしてた。


小学生の頃に見たあの二つの光は見間違いじゃなくて、ナニカ不吉なものとかでたまたま私にも見えちゃったんじゃないか…

その、ナニカはこの駅を住処というか根城にしてまだここにいるんじゃないかって、まさか本当に…

「サァオイデ‼︎」

木野先輩はその形が掠れて人の形をした影になっ!?いやいや呑気に状況を観察してるとかそれどころじゃないってっ!!

木野先輩だったものが私の腕に巻き付いて来て冷や水に腕を入れられたような感覚が襲ってくきて、離れようとしてもすごい力でホームの端へと引っ張られる。


私このまま線路に引きずられて、あれに食べられるか電車に引かれてどっちにしても死んじゃうんじゃ…!!

血の気が引くとかじゃないって、これ…走馬灯とか見えるようなピンチだって!!



サァ!オレトイッショニクワワレヨウゼェェェェ‼︎

駅を通過するアナウンスと同時にそれは勢いをつけてホームから飛び降りようとしいてる…

まだ死にたくなんかない…!どうしてこんな目に合わなくちゃいけないの!!


逃れられない、ほどけない、やだやだやだやだやだ、やだよ、誰か助け「あゆちゃんをはなせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


ももが大声をあげて木野先輩だったものに文字通り突撃してホームから叩き出した!

え、叩き出した? ってももちゃん、私も落ちちゃうってぇぇぇぇぇぇl?

ももちゃんここで鮮やかなターンを決めて引っ張られてふらついた私をホームの端で受け止めてくれた。


チクショーーーーー!!マタクエナカッターーー!!

それは悔しさを口に上げながら線路に落ちていく、

なんとか伸びた腕を振り解くと影に人型は溶けて線路下に消えてしまいその直後に通過列車が一際大きな音を立ててごーーー!っと走り去っていった。



長くてうるさい電車が遠通りすぎる間、蹲み込んだ私の膝はずっと笑っちゃって震えっぱなし、ももが側に居てくれて本当に助かったし、痛いくらいに抱き寄せてくれた。


息も上がってるし、空気が肺に入ってくれないよ…


「…あゆちゃん!大丈夫⁉︎ごめんね!」

ごめんねってなに? ももは私のなんか…命の恩人なんだよ?

私は呼吸を乱して上手く話せないから首を横に振る。


「私ね、ここに来てからずっーとあゆちゃんの後ろに暗い影みたいのが付いて来てるのに気付いてたんだ」


付いてきてた?…憑かれてたのかなわたし、


「でも気のせいにしたかったし、こんな事あゆちゃんに言っても信じてもらえるかなー? って思ったら言い出せなくって…」

ももはくしゃくしゃに泣き出しそうな顔になっていた。


大袈裟…でもないのかな。 私だって、ももに言えない事とか言い出しにくいなーって思っている事が全くないかと言われたら嘘になるし、しょーがないよ。


列車がホームを通過した後、一気に戻った静かさが私達にはかえって気分を悪くさせた。


今さっき起こった出来事を他の人や駅員さんに話したとしても、到底信じてもらえないだろう。

ましてや行方知れずになった人が化けて出るなんてさ…


「やっと…息…戻っ…てきた…」

痙攣していた呼吸が落ち着いてきた事で私はまた話せる様になってきた。


「あゆちゃん、大丈夫?!怪我とかしてない?」

桃ちゃんのおかげ様で怪我もないし…うん平気。


自分の目の前で起きた事はちょっと信じられない事だったけど無事ならうん、OK…すっごい怖かったけど


「あゆちゃん、これ…噂の正体なのかな…?」

…木野先輩は本当に行方不明になってるの?


「うん、両親も警察の人も探してるけど見つからないって…学校としても出来ることはしてるけどまだ私達に説明とかはしてないだけだと思う」


噂…行方不明の人の皮を被ったナニカが化けて出る電車の駅…なんでこの駅なんだろう。

あ…ここの駅の北の方って…大きな霊園があるんだっけ…

「ちょっとした探検気分だったし、雰囲気あるから他の人に話すにはいい話の種になるかなーって思ったけど無理だよー、こんな話〜」

人ひとり行方不明で私達危うく電車に轢かれちゃうところだったもんね。


逆に作り話感が出てお手軽なんじゃない?これだけの現実離れした事が起こったら、

「あゆちゃん強ーい、私には無理だよー」

冗談抜きで冗談みたいな事が起こった。 ひやっとしたどころじゃないけど、友達のお陰でたまたま助かっただけ…これで一人だったらと思うとゾッとする。


「じゃー、どうする? 電車に乗っては…帰りたくないなぁ、今度は天井からパクって食べられそうになったりして?」


私が立ち上がれる様になってからももちゃんはそんな冗談を言ってきた。

怖い事言わないでよー、本当に。


アーア,マタ食ベ損ッチャッタ…

黄色い目をした丸い黒い毛むくじゃらの巨大な塊が真っ赤な口を空けてけたけたと笑っている。

今にもその大きな口を空けて美味しい果物にかぶり付く様に私達を食べ…ることはしてこなかった。

どうやらその怪物はホームの上には上がってこれないみたい。


ニタニタと満面の笑みの様な表情をするそれを横目に急いでその場を後にする私達を追ってくる様な事はして来なかったけど…

トラウマが簡単に更新されてしまったので私は二度とホームから線路を覗き込んだりはしないだろうな。


安心して一息ついたところを後ろからパクリなんて考えて振り返ろうとしたけど私は振り返る事が出来なかった。もし真後ろに怖すぎるって…


「やー、心臓止まるかと思ったよねー?」

改札を電子カードを使って出て初めて大きく息を吐けた。

ちょっとだけ安心はしたけどなんか本当、笑い話にしたいけど笑えない程に怖い体験をしてしまった…


「あゆちゃん、こーゆー時はもう甘いやつをいっぱい食べるしかないって! 私奢っちゃうから! ね!」


結局、ももと一緒に近くのドーナッツ屋さんで結構長い時間お喋りをして、すっかり暗くなってしまったけど、ももはバスを使って帰ることになった。


私は近くの新日暮駅に自転車を止めているのでそこまで歩いていくしかない。

けれど話が盛り上がり結構遅くなってしまい、日はとっくに落ちている事で私はビクビクしながら帰ることになった。


街灯の無い路地裏、ビルとビルの隙間、黒く生茂る生垣…暗がりがこんなに怖いと感じるのは子供の時以来だ。

自転車の明かりだけではなんとも心細い…

ももとはあれからホーム下のお化けについて色々話はしたけれど、高校生二人がなんだかんだとない頭を捻ったところで答えなんて出るわけがなかった。


気味が悪い…ホームから下の線路をもう一度覗き込もうなんて考えず、見ない様に改札口へ私達は無事に上がってこれたのは本当に良かった。


木野先輩は結局あそこにずっといるしかないとか、あの黒い塊はお化けなのか、妖怪なのかとかそんな話もしていたけど…

ホームから伸びる階段を登る時に聞こえた言葉が耳から離れてくれないんだ。


「アユチャンッテイウンダネ、顔覚エタカラ今度ハ食ベテアゲルネ-」

ももは聞こえてなかったから私にだけ告げられたその言葉がはっきりと聞こえすぎて、背中の悪寒が暫く取れなかった…


普段何気なく過ごしている日常の中にもこんな事が起きているんだと衝撃を受けたし、少なくともこの駅から電車に乗る事は二度としないだろうなと心に決めた、とある放課後のお話でした…



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] このヒロインが憑かれている良くないモノはこれだけでしょうか。ももちゃんも実体が有るのか怪しい感じがします。 [一言] このヒロイン、幼年期から完全に目を付けられているじゃないですか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ