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勇者ちゃん、落ち込む。


 それにしたって、快勝も良いとこだったな。


 変に警戒して接戦になるとばっかり思ってたもんだから、こうも見事に殲滅できるとは予想もしてなかった。


「これだったら、一体ぐらい拿捕できたかもなぁ」


 うん、反省しよう。

 昔の俺だったらそこんとこまで計算に入れて動けたはずだ。

 三年のブランクは思った以上に重いらしい。


「あ、あ、あああ、あのモフ」


 ゆっくりと空から降りてくるアムを眺めながらそんな事を考えていると、背中にポフポフと柔らかい物体が押し付けられた。


「ん? あ、ああ。お前らか。えっと────」


 名前なんだっけ?

 

「わっ、わちきはポッチでモフ」


「サバはサバーだサバ」


「ボゥルぞな」


 語尾がバラバラすぎて混乱するだろ。もっとシンプルに来いシンプルに。


「あ、ああ。俺は猟介。よろしくな」


「よ、よろしくモフ」


 差し出した手に柔らかい肉球が添えられる。

 なんだこれ。握っていいのか?

 別に『お手』は求めてないんだが。


 なんだっけ、確か次元獣と言ったっけ。

 敵は捕獲できなかったが、コイツらからある程度の情報は得られそうだ。

 結果オーライにしとこう。


「と、ところでモフー」


 体格的には俺より少し低いぐらいの、プルプルと震える二足歩行のずんぐりむっくり柴犬もどき────ポッチは上目でおずおずと話を切り出す。


「どうした?」


「わ、わちきたちはただ連れられてきただけモフ! どうか、どうか殺さないでモフぅ!」


「おっ、おう?」


 なんて見事な土下座───いやどうなってんだその関節。地面に額をずりずりと擦り付けながら、ポッチは涙声で懇願し始めた。


「サバたちに分かる事ならなんでもゲロるサバ! 次元魔将の名前から能力まで知ってる事洗いざらいサバ!」


「次元獣は毎日暇でやる事なくてお喋りばっかりしてるから、噂話で良ければ腐るほど知ってるぞな!」


 他の2匹───サバーとボゥルもポッチの横に並んで土下座を────いや、横になったり転がったりしている。


 絵面がシュールすぎて反応に困るんだけど。


「殺しませんよ!」


 ようやく地面に降り立ったアムが、三匹に向かってにこやかに声をかけた。


「貴方たちみたいな可愛い生き物を殺すなんて、そんなの私が許しません! 全力で保護します! だ、だから一回ぎゅうってせさせて───」


 キラキラとした瞳で三匹──特にポッチを見つめるアム。

 うずうずわきわきと怪しく動く両手がなんか怖いからやめろ。


「ひっ! ひぃ! 助けてモフ助けてモフ! 殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで」


「ぎょええええ! サバは開きにしても大して身が無いサバぁ! 小骨が喉に突き刺さって不快になるだけサバ!」


「わ、あわわ、あわわわあわわあわあわぞなぞなぞな!」


 アムの姿が見えただけで、三匹はわかりやすく錯乱した。

 ポッチは怖ションしちゃったし、サバーはビチビチと跳ね出したし、ボゥルに至っては震えすぎて地面にめり込んでいる。


「え、えぇ? ど、どうして!? 私何もしないですってば!」


 分かる。

 この2時間見せられた殺戮劇はメンタル弱い奴に効果覿面だもんな。

 俺だって若干怖えーもん。

 このサイコ・サディスト・ロリ巨乳とかいう、属性盛りすぎな勇者。


「い、いまはそっとしといてやろう? な?」


「そ、そんなぁ」


 大げさに肩を落として落ち込むアムを慰めようと、その肩に手を置いた。

 瞬間だった。


重斬(クオントー)! 牙王(ガルァール)!!」


「うおおおお!?」


 振り向きザマに放つ神剣の赤き剣閃が俺を襲った。

 すんでのところで全力ブリッジを行いなんとか躱したが、おい!


「な、なななな! 何すんだ危ねぇ!」


 もう少しで胴体がサパっと二等分になるところだったじゃねぇか!

 いくら怯えられたのがショックだったからって八つ当たりは良くないぞ!


「うわ、うわわ! す、すみませんそんなつもりじゃ無かったんです!」


 大慌てで神剣を手のひらの聖印に収納し、俺にすがり寄るアム。


「い、いまとても昂ぶっていて敏感になっちゃってて! 自動迎撃スキルが発動しやすくなってるんです! 不意に触られたら私の意思とは関係なく技を出す様になってて! すみませんすみません!」


 ペタペタと俺の胸や肩を触りながら、アムはペコペコと頭を下げる。


「な、なんて物騒な奴だお前」


 怯えられても文句言えねぇよソレ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「うん、ご苦労様」


 MaRQ(マーク)にて連絡を取り合い、頂上に戻ってきた南条さんが何時もの無表情で労ってくれた。


「あの三匹は、このまま局で保護して色々と事情を聞く」


「モフっ!?」


「ご、拷問を受けるサバっ!?」


「で、電気椅子ぞなっ!?」


 未だネガティブに怯える三匹はその言葉にまたビクついた。


「違う。保護だと言っている。ご飯も寝床も用意してあげるから」


 あくまでも冷静にそう言いながら、南条さんは自前のMaRQの画面を見る。


「んじゃあ、今日はこれで帰れる訳だ」


 長い一日だったなぁ。

 もうじき日付も変わっちまう。


 流華のやつ、怒ってるだろうなぁ。夕方には戻れると思って、特に何も言わずに家を出て来ちまった。


 未だ兄離れが済んでないあの中学二年生は、癇癪持ちだもんで怒る時はかなり騒ぐ。

 帰ってからも疲れそうだ。


「……そうは、行かないみたい」


「へ?」


 まだ、何かあるの?

 長い付き合いの俺にしかわからないほどわずかに顔を顰めた南条さんは、俺にMaRQの画面を見せる。


「これ、転移門が開くと予想されていた候補地の感霊圧・感霊子データの推移。ここから近いいくつかが爆発的に数字を上げ始めた。門が開く直後のここと似た様な数値になりつつある」


 画面の中では、いくつものグラフと数字が忙しなく変動を始めている。


「ねぇ、貴方達に聞きたいことがある」


「な、なんだモフ!?」


「なんでもいうサバ!」


「ボキ達に分かることなら洗いざらいゲロるぞな」


 南条さんに問いかけられた三匹が大げさに騒いだ。

 まだ拷問されると勘違いしてんのかコイツら。


「暗黒次元神の軍勢の新世界侵攻作戦、と貴方は言ったらしい。作戦ってことは、進軍してくるのはさっきの三体の次元魔将とかいうの以外にも居るってこと?」


 え?


「もちろんだモフ! 三天将はどっちかと言えば先触れだモフ!」


「本隊は専用の大きな転移門を使って、何千匹と軍を送りこむのが作戦サバ!」


「そっちは転移石と装置を使ってくるから、わざわざ次元獣を連れてくる必要がないぞな」

 

 ……マジか。


「本番は、これから」


 三匹の報告に納得したのか、南条さんは俺を見て軽く頷いた。


 勘弁してくれ。

 体力的にはまだ余裕なんだけど、精神面ではめちゃくちゃ疲れてるんだよ俺。


「詳しい位置はこれから急ピッチで調べる。今度は私も手伝うから、頑張って欲しい。貴方には明日から別の任務も始まるから、あんまり無理はさせたくないんだけど」


「任務? 別の!?」


 ちょ、ちょっと聞いてない!!


「俺の任務はアムの護衛と情報を聞き出すことだろ!? 別の任務なんて同時にできないぞ!?」


「大丈夫。もう一つの任務も、グランハインドさんに関連している」


 ちらり、と南条さんは横目でアムの姿を見る。


 三匹に怯えられたのが本当にショックがデカかったらしく、大岩の上で膝を抱えて黄昏ている。

 その背中はとても寂しそうで、ちょっと不憫だ。


「さっき手続きが終わったと報告を受けた。貴方は明日から、グランハインドさんと一緒に学校に通って貰う」


「は、はぁあああああああああ!?」


 学校!?

 なんで!?

 

 あんな危険人物を連れて、一般人も通ってる学校に行くなんてそんなの絶対────。


「アムさんと局、そして日本政府との取引の一つ。あの子の戦力・情報・知識はこのまま日本で独占したい。その為に幾つか条件を提示して貰って、それが通った。『この国の普通の若者の様な生活がしたい』。それがあの娘の望み」


「だ、だからってなんで俺が!?」


「現役の高校生で、しかもあの子が暴走した時に止められる戦力なんて貴方しか居ない。大丈夫。以外と順応できるはず。あの子も、貴方も」


 あ、あああ。


 見える、見えるぞ。

 ところかしこで神剣を抜いて、大暴れするアムの姿が、俺にはありありと見える!


「な、なんでこんなことに──────」


「嘆いていても仕方ない。ヘリがもうすぐ到着するから、次の戦闘までしっかり休んでいて」


 そ、そんな御無体な。


 落胆する俺を冷たく突き放して、南条さんは振り返るとアムの元へと歩いて行く。


 放心しその背中を目で追う事しかできない俺の肩に、モフっと柔らかい感触を感じた。


「何か分かんないけど、頑張るモフ?」


「人生楽ありゃ苦もあるサバ!」


「自分を信じて突き進むしかないぞな」


 おい、お前ら本当に別の世界から来た生物なんだよな?

 なんでそんな言葉知ってんだ。



 

 南アルプスのとある山の山頂で、生まれて初めて俺は、謎の生物に励まされた──────。

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