【20】
あまねはお気に入りのポイントに着くと、少し身震いしながら母親から譲り受けた厚手のショールを肩口に巻きつけた。
木の前に立ち、座布団代わりに持参した古い号の『MORE』を取り出したが、優しげに微笑みかけるモデルと向き合った途端、自らの選択ミスに辟易し、しばらく佇んだ後で、表紙を綺麗に剥がして残りをお尻の下に敷く。
あまねは、昔からこうして発作的に手紙を書くことを好んだ。匿名的な樹木が作る木陰に座るという行為は、彼女にとって手紙を書くことに密接に関わっているようだった。ただ、下敷きの上に便箋を乗せて体を丸めたその姿は、果てしなく広い部屋の隅に転がったテディベアのようなもの悲しさを湛えてもいた。
それでも、いつ終わるとも分からない二通の手紙を書くためには、『MORE』を敷いてでも居座る必要があった。冬の寒さを迎える前のツバメが一羽、思う存分羽を伸ばし低空飛行を楽しんでいるのが見える。あまねは、「禁煙(火災予防の為)」という立て札の主張を尻目に、ボールペンを握り締めた。
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響太へ
こんにちは(こんばんは、かな?)
あれからもう、三年経つんだね。
改めて振り返ってみると、初めのうちは
背伸びしたり縮こまったり、遠慮がちだったな。
それに、喧嘩すると感情だけで響太を嫌だと思って
逃げ出したくなったり、距離を置きたくなったり
「絶対謝るもんか!」なんて思ったりもしてた。
でも、それは全てその場限りの気持ちだったんだよね。
やっぱり、失うことはないって高をくくってたんだと思う。
どうしたって、ずっと一緒にいると
新鮮さがなくなって、ありがたみが薄れて
いつの間にか、息苦しくなっちゃうんだよね?
響太を理解できなかったこと、ごめんなさい。
自分の気持ちを言葉にして、態度にして
表現できなかった未熟な私でごめんなさい。
ただ、あなたの言っていたことが
私にもいつか分かるかもしれません。
そんなときは、あなたを想って
「ありがとう」と言うことにします。
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滞りなくペン先を滑らしていると、「ここは公園ではなく、あくまで境内である」という主旨のアナウンスが流れ、様々な注意事項が述べられたが、その言葉が通用しないであろう外国人の子供たちの遊ぶ空間においては、ただ空しく響いた。
乳母車の中にいる赤ん坊は、ぽかんと口を開けて空を見上げ、そのガラス玉のような瞳で世界と交わろうとしている。一方、母親たちは周囲には無関心らしく、閉塞的に語り合っていた。
あまねは、異様なほど青白い肌と透きとおるような金髪から北欧系と予想し、その言語に耳を澄ましてみた。だが、その声は風に紛れて、曖昧な音としてしか聞くことはできなかった。
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思えば、いろんなところに行ったよね。
響太と一緒に歩く道にはいつも発見があったよ。
東北に行ったときのこと覚えてる?
寝台の上段に登る階段の冷たい感触も、
あのザラザラしてかゆい掛け布団も、
バスで眠る私を寄りかからせてくれたことも、
中尊寺でウソみたいに晴れたことも、
忘れずにずっと残ると思います。
楽しかった、本当に。
ディズニーランドのパレードの花火を見て、
「胸クソ悪く」なってしまう、響太。
大学であなたに会えてよかった、心からそう思います。
響太の言葉のセンス、私は大好きです。
力強くて、冷静で、味わい深くて、シブくて。
今後もがんばってね。
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