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ペニー・レイン  作者: 青木勇気
14/22

【14】

あまねは、ぼんやりと座って虫をついばんだり、一点を見つめたまま布を引き裂いたりしている自閉症のようなゴリラを見るにつけ、恐怖に似た感情を抱きはじめていた。


何がどう怖いのかはよく分からないが、背筋に冷水を一筋垂らされるような悪寒を感じるのだった。あまねは槇村を誘導しつつも、のっそりとコミカルに動くマレーグマを過ぎたあたりで体の異変を感じ、ついには全く楽し余裕がなくなってしまった。


「ちょっと、休みませんか?」

「そうですね。近くに座るところはありますか?」

すでに返事をするのも億劫になったあまねは、声にならない声でうなずき、すがりつくようにベンチを目指した。しかし、歩いても歩いても足枷を付けられたようでうまく前に進まず、目の前にいるカピバラはゆらゆらと歪んで見えた。結局、あまねは頭のてっぺんからつま先にかけて寒気が走ると、しゃがみこんでしまった。


「どうしました?」

槇村はあまねのただならぬ状態に気づき、いかにも不安そうな声で問いかけた。

「……ごめんなさい」

「貧血ですか?」

「私、動物……苦手で、前も」

「喋らないで、少し休んでいてください。ソフトクリームでも買ってきますから」

槇村は、いつになく強い調子で言った。


あまねは日陰に入り、薄ぼんやりとする頭の中で、考古展示室で槇村を見たときと同質の違和感を覚えた。モスグリーンのスエードジャケットを着た槇村は、ゆっくりとではあるものの、何のためらいもなく売店に向かっていった。涼しげな目をした女性が、フランクフルトを買う恋人を待っているのが見える。


《ソフトクリーム?》

槇村さんはこの情景を見ていた、あまねはそう直感した。


槇村は、つまずかないように足元に注意しながら、右手にしっかりとソフトクリームを握って歩いてくる。あまねがしゃがみこんでいる日陰のすぐそばでは、統率を無視した幼稚園児がモノレール乗り場に向かって猛然と駆け込んでいる。


槇村は、小さな子供たちの合間を縫うようにして戻ってきた。

「あまねさん?」

「ここです」

あまねは歩み寄って槇村の肘を掴み、溶けだしたソフトクリームを慎重に受け取った。


「ちゃんと戻ってこられましたね。どこかに座りましょう」

「はい。あそこの木陰にベンチがあります」

あまねは、アイスが垂れないようにコーンの縁を舐めながら、エスコートした。


「しかし、今日は暑くなりましたね。どうですか、少しはよくなりましたか?」

「だいぶ落ち着きました」

「動物の匂いが苦手ですか?」

「いえ、昔から何故か動物が怖いというかかわいそうというか、あまり直視できなかったんです。実は、何年か前に克服しようとここに来てみたんですけど、入り口横の鳥のあたりでもう気分悪くなってしまって」

「そうでしたか。申し訳ないことをしてしまいましたね」


槇村は詫びを入れると、綺麗に折り畳まれたハンカチを取り出し、額からうなじにかけて汗を拭き始めた。あまねは、そんな槇村を横目に深呼吸をして、おもむろに口を開いた。


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