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ペニー・レイン  作者: 青木勇気
13/22

【13】

あまねは思いの外早く上がり、槇村よりも先に表慶館に着いた。表慶館の前には、「あ・うん」の呼吸をしている番いのライオンの像がある。右側のライオンは焦点が合っていなく、左側に比べて威厳がなく間が抜けて見えた。強い西日が射す中、軽い緊張を胸にじっと待っていると、槇村は二時五十分きっかりに現れた。


「槇村さん」

「あ、お待たせしてしまいましたか」

「いえ。どこに行きますか?」

「そうですね、まずは外に出ましょうか」


槇村は博物館を出て信号を渡ると、特に目的地を明言するでもなく、あまねに付いていくわけでもなく、ゆっくりと歩みを進めた。恩賜公園に入ると、噴水の脇に固まった修学旅行生たちの中から、「やっぱり原宿がよかったやん!」という嘆声が聞こえた。平日でも午後になると、園内は何かとざわつきはじめ、公園らしく機能するようだった。


「動物園はそこを曲がったところでしたか?」

無言だった槇村は突如として口を開き、指先を右前方にふわりと浮かせた。人の流れで分かったのか、幾度も歩いてきたからなのか、いずれにせよその距離感は正確だった。


「そうですね」

「行ってもよろしいでしょうか」

「え、動物園ですか?」

あまねは、想定外の発言に思わず素っ頓狂な声を上げた。


「久々に行ってみたいと思いまして。それとも、お時間がありませんか?」

「いえ、そんなことはないです」

正直なところ、あまねは動物園が、さらに言えば動物自体が苦手だったが、それ以上に槇村の言い方には断りがたいものがあった。


チケットを買い表門から入ると、すぐに動物園の目玉であるジャイアントパンダがいた。しかし槇村はあまり興味がないのか、少しだけ立ち止まるとすぐに「ゴリラ・トラの住む森」の方に向かう。


彼が興味深そうに佇んだ動物はシロテナガザルだった。毛が白く、クリクリと飛び出そうな目をした猿が二匹、木の枝にだらりとぶらさがっている。そして、無愛想すぎる彼らの横には、「ブラキエーションって何?」などと様々な豆知識が書かれていた。


「そこに何と書いてありますか?」

「シロテナガザルの独特な動きについて書いてあります。『ブラキエーション』、枝に両手でぶらさがり、体をうまく振って片手を離し、その反動を利用して先の枝を掴む」

槇村は、なるほどいうように首を傾げてまた歩き出した。


順路に沿って薄暗い穴倉のような所に入ると、ライオンの鳴き声コーナーが現れる。またそれは、ボタンを押すと三つの感情を表す声が聞けるという、いかにも子供が喜びそうな代物だった。


「どれがどれだか分かりますか?」

あまねはそう言うと、「いかく」「さびしい時」「愛情表現」の順にボタンを押した。

「何とも分かりにくいですね。全部寂し気な声に聞こえて」

そう答えた槇村は正しく、答えを知っているあまねの耳にもその声はリアリティをもたらさなかった。


バードハウスの中では、ありとあらゆる形状のくちばしを持った鳥たちが騒々しく羽ばたいている。ジャマイカの国旗のような色合いのボタンインコは、およそ表情というものが欠落していて、そのうちの何羽かは信じがたいバランス感覚で逆さまに止まり木に掴まっていた。


「北川さん」

「はい」

「下のお名前を教えていただけますか?」

「平仮名で、『あまね』です」

「あまね、さん」

槇村は独り言のようにそう言うと、またゆっくりと歩きだした。

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