PrologueⅢ -死後の世界?と銀河一の天才科学者-
『んん。ここは……どこだ』
ぼんやりとした思考の中で辺りを見渡す。目に映るのは一面真っ白な景色。白一色だけの世界。一面が真っ白のせいか、自分の意識が霞の中にいるように混濁していた。
『いかんいかん。気をしっかり持たないと。まだボケるには早すぎるだろ。俺は朝倉春人、剣道好きな17才でトラックに跳ねられて今、事故死したところ。うん、意識はハッキリしたが、状況は未だに分からないな』
意識が明確になって、自分がトラックに轢かれたのを思い出す。だが、最後に跳ねられた自分の体がアスファルトに叩きつけられた場面しか思い出せない。
『あれから、どうなったんだ。病室……なわけないか。ベッドも窓も何もない病室がどこの世界にあるってんだ』
周りを見ると辺り一面が真っ白で何もない部屋・・・というか、何の仕切りもないから空間と呼ぶべきか。病院が清潔と消毒を心掛けているにしても、テーブルや椅子まで排除するのはやり過ぎだろ。窓や扉さえないのはまるで監禁室のようにも思えてきた。
とりあえず、歩いてみようかと思い一歩踏み出そうとした時、俺は気付いた。
(四肢の感覚が全く無い?)
ふと、自身を見下ろしてみれば、自分の手足や体がどこにもなかった。
『どうなってるんだ!?俺の体がなくなってるぞ!』
俺は体全体を見渡すが自分さえもなかった。ただ、見ているそれだけ。まるで、カメラ越しで見ているような感じだ。
『これは夢なのか?それとも、車に轢かれた光景は現実で、俺は死んだのか?死んでお星さまになった・・・・・・なんて冗談じゃないぞ!まだ、試合の雪辱も果たしてないうちに退場か。無念にもほどがあるぞ。まだ高校ライフは半分以下も味わってないのに』
吐く口もないままにため息をつく。どうやら愚痴を考える自由くらいはあるようだ。しかし、せめてこの真っ白な世界をどうにかしてくれないもんか。退屈の何物でもない。そう思っていた時だった。
突然、白だった世界に一点の色が浮かび上がった。いや、滲んでいるんだ。真っ白なキャンパスに染み込んだように色が次第に広がっていく。
『なんだ?色が浮かび上がってきて……黄色?ん?・・・・・・違う。あの色は黄色じゃなくて金色か』
次々と色が浮かび上がっていっては、ボヤがかかっていた染みは次第に輪郭をはっきりと現して、ひとつの形―――〝人〟となった。
長い金色の髪に童顔染みた顔。それに足首にまで届くほどの白く長いレインコートを着た美少女。その姿には見覚えがあった。
『お、オマエはあの時の!あの時、雨にうたれてた瞬間移動する金髪美少女!』
目の前に浮かび上がったモノ。いや、〝者〟というべきだろう。現れたのは死ぬ間際に見た金髪の美少女そのひとだった!
間近で見ると更に可愛い……。何故か瞑想するように目を閉じている。
(なんで彼女がここにいるんだ!?彼女も死んだのか?それとも、天国の案内人の天使ですか!?)
と脳みそも体もない俺はそんな考えを頭の中で行き交っていた。
肝心な金髪少女は意味ありげに瞑っていた目を開く。明るい綺麗な碧眼。そんな綺麗な瞳が俺に視線を向けると話しかけてきた。
「#」&%~」
「?」
それも一字一句も理解できない言語を口にした。まあ、英語だとしても、体育実技と歴史以外の教科は壊滅的な俺が理解できるとは思えないけどな。
「#*&#?**、$&$」
金髪の女性は目を伏せて腕を組んで、指を顎にあて考える素振りをした。しばらくそのポーズでいる。
「言語予測終了。多分、これで大丈夫なはず」
(あ、日本語)
次に目を開け口にした言葉はしっかりと日本語で喋っていた。どこかの不思議道具でも口にしたのだろうか?
「私の言葉が理解できているか?」
とにかく、金髪少女に答えようかと思ったが、生憎今の俺にはしゃべる口がない。相手に聞こえるかも疑問だ。すると、金髪少女はニッコリとまるで相槌を打つように俺の疑問に答えてくれた。
「大丈夫だよ。今は君の情報とリンクしている。考えていることが直接伝わっている」
驚いたことに会話が通じている。というか、心を覗かれたように口にしていない言葉を聞かれているのか!これって、プライバシーの侵害じゃないの?
「私が君から得ている情報は表層意識のみだ。君がプライバシーだと危惧している深層意識までには及ばない。まあ、銀河一の科学者である私ならやろうと思えばやれる」
表層だか、深層だか、さっぱり意味が分からないぞ。
「ふむ。安易に言えば君が今、頭で思い浮かべていることしか分からない。という意味だ」
最初からそう言えよ。
「ちなみに、君に体がないのは意識してないから。ここは君の意識層にいる。自分の肉体のイメージを強く念じれば、自分の形を構成できる」
意味がまるで理解できない。小学生にでも、理解できるように説明を求めたいぞ。
「しかし、君が体を現出するのを待っている時間が惜しいな。やはり、さっさと本題を伝えることにしよう」
うん。そうしてくれ。
「私にぶつかろうとした車を私は避けた。そして、相手も中途半端に私を避けようとして、方向転換したあげくに君を轢き殺してしまった」
〝轢き殺した〟か。やっぱり俺って死んだのか。
「ちなみにぶつかって君は臓器を道端にぶちまけて死んだ。以上だ」
フォローでもない追加事項ありがとよ。
しかしまあ、突然の死亡報告に驚くところなんだろうが、目の前の事象が奇怪すぎてさほど取り乱す気もねえや。さっきまでここを天国だとも思っていたし、死んだって感じはしてたしな。
『えっと、それで俺は何をすればいいんだ?そもそも、アンタは誰!? 』
「ふむ、君が何をしようと私の知ったことではないが、後者はいい質問だ。答えよう。私は銀河一の天才科学者ティカ・リ・マリッサだ!」
胸に手を当て、自慢げに名乗る彼女を見て俺は確信した。こいつはイタイ奴だ。漫画とかで言う中二病っていうのだ。極力かかわりたくない人種だ。
「失礼だな、君は。最初には私の事を“美少女”だと褒めてくれたようだが、最も称えて欲しいところをこの星の蔑称を私に当てるなど失礼極まりないぞ」
お。以外にも“中二病”を蔑称だと理解しているようだ。まさか、日本被れな外国人だったりするのかな?とにかく、この不思議現象を打破できる奴はこの金髪少女しかいない。
下手に相手が機嫌を損ないそうな発言は控えておかないと。
「君は忘れているかもしれないが私と君はリンクして、君の思考は漏れている。君の失礼な発言はすでに耳に通しているぞ」
げ!そうだった!
『悪い。機嫌を悪くしたのなら謝る。済まない。あまりに壮大な言い回しで疑っちまった』
「考えが壮大でなければ科学者としてはやってはいけないさ」
『そういうもんか。それで、その偉大な学者さんが雨の中、道端でいったい何をしてたんだ?』
というか。白のレインコートだと思っていたのは、実は白衣だったのか。ま、この際どうでもいいけど。
「なに、研究の事故でこの世界に飛ばされてしまってね。せっかくなので、辺りを散策していただけだ。見たところ科学水準がかなり低い世界のようだ」
ひ、低っ!なんか、上から目線の嫌な奴だな。
だけど、こんな真っ白な世界や一瞬で日本語を喋れたことから、この金髪少女はすごい奴なのかもしれない。
「その通り。使用者と他者の意思を繋げる装置と全ての言語を解読・理解する装置。それらはこの私が独自で開発したものだ」
金髪少女は胸を張って自慢げに口にした。
また思考を読まれた。でも、そんな物を作っちまうなんて想像もできない。いや、すでに目の当たりにしているな。
「まあ、副作用があって意思連結装置は使用した時間の分だけ、使用後には体が動かなくなったり、音声解読装置は使用時間の分は後で言語や会話が理解できなくなる欠点も備えているけどね」
『ダメじゃんか!つ~か、怖いよ!その副作用!』
全然、安全な装置じゃない!後遺症とかあるなんてまともな道具じゃないぞ。
「ふん。私の思想を今ここで口にする気はないよ。とにかくだ。偶然にも私を避けた車で死んだ君を見殺しにするのは後味が悪い」
なんかどこかで聞いたセリフだな、ソレ。
「そこでだ。不憫に感じた私は君に第2と第3の人生をあげることにしよう」
金髪少女は指を三本立てて口にした。
『は?第2?第3?も、もしかして、俺は生き返られるのか』
「〝生き返る〟とは少し違う。器を〝移し替える〟の。クローンという人造の器にだ」
『移し替える?それにクローンだって……それって漫画や映画に出てくる人造人間みたいなのか?』
「へえ、技術は持っていなくても、そのあたりの話は想像できるのか」
少し驚きと感心が入り混じった顔をする金髪少女。俺らの人類めちゃくちゃ舐められてるな、ホント。
『でも、クローンは大抵の物語では、短命なんじゃないのか』
「ああ、確かにクローンは短命だ。けれども、私の特製はオリジナルと寸分違わないクローンを生み出せる。勿論、最大の難関である寿命もクリアしている」
まさか、死んだ俺の魂をそのクローンに入れて蘇るってことなのか?
そんな事が出来るこの子って一体何者だ。
「だから言ったろう。私は銀河一の科学者だって。それにしても、案外頭の回転が速いみたいだ。君の予測通り、君の意志をクローンに移し替えるのが、私の考え。でも、それには問題が二つある」
『問題?寿命のことは解決してあるんだろ?』
「ええ、それは解決済み。問題は私特製のクローンの製造時間がそのオリジナルと同じ年月が必要となる。それが一つの問題」
『オリジナルと同じ年月?俺はいま17歳だから・・・って、まさか!17年間も待つのか』
そんなのありか!いや、確かにクローンはインスタントみたいな感じで出来上がるから日持ちしないのは分かる。
でも、だからって出来るまで17年間も幽霊生活をしてろってか。
「幽霊生活とは、面白い事を考えるね。次に、ふたつ目の問題も時間。17年間の間、君が見つけられなかったら、君の親族も心配をしてしまう」
『親族も心配?そりゃそうだろ。息子が交通事故で死ねば心配するに……って、ちょっと待て。〝見つけられなかったら〟?もしかして、俺の両親は俺が死んだこと知らないのか』
「ええ、あなたの死体は私が責任を持って処理した」
『おい、処理って何だ、処理って!俺の体に何した』
「誰とも知らない死体を持ち続けるほど、私の趣味は悪くないぞ。ましてや、あんなグロイもの、目を向け続けるのは流石の私でも気が滅入る」
金髪少女は口に手を当て渋い顔をした。おいおい、科学者なら生き物の臓器を目にするなんて日常茶飯事だろうに。
『とにかく、俺の体はもう無いって訳か』
しかし、金髪少女が俺の死体を隠してくれたおかげで世間では行方不明扱い。なら、後から適当な理由をつけて現れてもおかしくはないか。
でも、17年は勿体ないし退屈だなあ。
「大丈夫だ。君の17年間は退屈にはさせないから、安心するといい」
『は?』
「君のクローンを作って、中身入れただけじゃつまらないので私は考えた。君のクローンを作る場所を別の時間軸で作ればいいと」
『別の時間軸?何を話しているのかさっぱり分からないんだが』
そう口にすると金髪少女は大げさに肩をすくめ、ため息をついた。悪かったな、俺の頭が悪くて。でもな、普通の人でも同じリアクションするぞ。
「簡単に説明するとすれば・・・そうだね、〝竜宮城〟〝浦島太郎〟という物語が類似しているね」
『浦島太郎?あの玉手箱を開けて爺ちゃんになった民話か。あ、もしかして、竜宮城と現実じゃ時間の経過が違うことを言いたいのか』
「そう。物語では〝一日が数年の時差〟があった。なら、17年という時差を数年・・・或いは数日までに縮めることが可能だ」
なるほど、そんな場所があれば、どれだけ時間が過ぎても幾分は軽減させることができる。
『だけど、そんな都合のいい場所なんて見つかるのか?」
「私を甘く見ないでほしい。もう既に時差と君の希望に最適な世界を算出した」
金髪少女が手をあげると宙に大きなスクリーンが映し出された。映っているのは、おそらく金髪少女が言っていた〝最適な世界〟の地図。
見た感じ大きな一つの大陸。形がオーストラリアにちょっと似ている。
地図は立体になっていて、中央にはドでかい山に広がる緑の木々。砂漠みたいな場所もあるようだ。見た限りじゃ自然満載の土地って感じがする。
「生前、君が口にしていた会話の記録から鑑みて、君はこの〝世界〟に不満があるようだ。だったら、私は君にその〝世界〟を提供してあげよう。きっと君はあの世界を気にいる。何せ、君が身を置きたいと願う〝剣の世界〟だからね」
『なっ!それってどういう意味だ!』
俺の意見を耳も貸さずに、金髪少女は指をパチンと鳴らした。すると視界の隅から次第に黒く染まっていき始めた。
「ああ、最後に。次元転移装置は再起動までかなりの年月を必要とするから、再起動でき次第こちらから連絡する。ちなみに再起動予測推定年数は20年だ」
『ちょっ!17年よりも多いじゃないか!というか、もう行くのかよ!少し心の整理くらい・・・・・・』
「HAVE A NICE WORLD」
『何故、最後は英語なの!?』
最後にそう口にすると金髪少女は闇に飲まれて消えていく。真っ白から真っ暗やみの景色へと変わる。そして、取り残された俺は胸の内にある言葉を悲鳴に近い声で叫んだ。
『勝手に次々と自分で決めていくな!人の話を聞けっ!この金髪女~~~!』
そう、叫んだ時、暗闇にパキンッと一筋の光の亀裂が入った。
『え、俺なんかヤバイことしちまったか?』と思ったが、時既に遅い。
亀裂は広がっていく。暗闇が砕け、同時にまばゆい光が視界を焼いた。
そして、同時に俺の意識もそこで途切れたのだった。