鬼滅
この話は、投稿五十話越え記念として、最新の時事ネタを用いました(笑)。
空海は、現代日本で何をする?
五十話越えました記念
鬼滅
令和二年(2020)十二月四日(金)。
週間少年ジャンプに連載されていた『鬼滅の刃』の第二十三巻が発売された。これが最終巻である。
書店には大勢の人々が行列を作り、関連グッズの売れ行きもコロナ禍の最中にあって大きな経済効果を生んでいる。
平成二十八年(2016)二月から連載が始まって、その頃から人気はあったようだが、天邪鬼の俺は「時流に乗ったら負けだ」と勝手に思っていて、あえて手を付けずにいたのである。
ところが、最近行くようになった歯医者の歯科衛生士の女の子から、
「絶対に面白いから読んでみて」
と勧誘(キメハラ?)され、いざ読んでみようと思ったものの、今度は店頭販売売り切れ続出で、中々読む機会に恵まれなかった。
単行本十九巻『蝶の羽ばたき』が出版された令和二年二月には、ようやく本屋にも並び出した。そこでとりあえず一巻から五巻まで買って読んでみた上で、面白ければ続きを買おう、と考えたのだが、翌日には残り十九巻まで全部買い集めてしまった。
こうなるとアニメの方も気になるので、動画サイトを利用して観ようとしたが、著作権の加減で一部削除されたものしか観る事が出来ず、むしろ消化不良の状態が続いていた。
原作の連載はこの五月で完結したが、俺は単行本で読むと決めていたので、ジャンプでは読まずにいた。
その頃には、十月に原作七~八巻『無限列車編』の劇場版アニメの情報が流れて来ていた。
劇場版公開が間近となり、それを観に行くかどうかを考えている時、フジテレビの土曜プレミアムで二週に渡ってテレビアニメ版の総集編を放送する、いうので、とりあえずそれを観てから劇場版をどうするか考えよう、という事にした。
十月十日「兄妹の絆」、十月十七日「那田蜘蛛山編」を観て、その日のうちにバイトが休みの十月二十三日(金)のチケットを購入した。
空海と二人で劇場に行ったのだが、いい年のおっさん二人が号泣してしまった。
結局、十一月二十七日(金)にもう一度観に行き、一回目より号泣するハメに陥った。
そんなこんなで十二月四日である。
俺の手には『鬼滅の刃』二十三巻通常版がある。特別付録付というのもあったらしいが、あっという間に完売した、と書店のおねえさんが済まなさそうに教えてくれた。
「凄い反響やな。コロナ禍の中でもこの行列やもんな」
俺は手の中の単行本を見ながら言った。
「最終巻の発行部数を合わせると、累計で一億部を越えたてネットに書いたあったで」
空海はまだ続いている行列を見て言う。会計を終えて横を通り過ぎる人達は、ほとんどが『鬼滅の刃』を手にしている。
「劇場版もまだまだ好調みたいやし、このままなら『千と千尋の神隠し』を越えて、歴代映画興行収入一位になるかも知れんで」
俺は溜め息混じりに言った。『センチヒ』も好きな俺にとっては、それは良くもあり残念でもある。
「まあ、古い物を新しい物が凌駕してこそ、より良く進化して行くって事や」
「まあ、そうなんやけどな」俺は肩をすくめた。「それにしても、何で『鬼滅の刃』はこんなにブレイクしたんやろな?」
「何でて何で?」
「いや、噂では『鬼滅』がオモロイとは聞いとったけど、本屋にあった『おためし本』で出だしの部分を読んだ時にはな、まだ画も荒削りやし、ストーリーも今まである色んな作品でみた事ある感じで、俺は最初はあまり良さを感じられへんかったんや」
「そう言うてたなあ」
「それが蓋を開けてみたら、ものの見事にハマッてもて」
「弘史はどこに魅了されたと思てるんや?」
「そうやなあ」俺は腕を組んだ。「とにかくメッセージ性がどストレートで判りやすいし、なんか登場人物のセリフが、今の世の中で足りてない物、そうあって欲しい物、変わらずに守りたい物、そういう物で一杯なんや。そやから読んでいて心に刺さるんやな」
「そうやな。今の日本の人々に是非振り返って、再確認して欲しい事で満ちてるな。特に家族や友や組織の絆の大切さ、世の為人の為に考え動く『公』の意識の重要さが明確に謳われているのがええトコやと思うわ。その辺が『ワ〇ピース』と違うトコやろな」
「空海、『ワ〇ピース』あんまり好きちゃうもんな」
「読めるのは『アラバスタ編』までやな。それ以降は登場人物達のスタンドプレーが目に余って読んでられへん」
「その辺は個人の好みやからな」
「それはそうと」空海は話を戻した。「『鬼滅』は、世界中でヒットしてるらしいな」
「ネットでそんな事書いてたわ。ジャパニメーションの一人勝ちっちゅう事か」
俺のしたり顔の言葉に、空海は笑って応えた。
「確かに弘史の言う通り、『鬼滅』は日本のアニメの一つの到達点やと思うけど、俺には別の意味もある思うんや」
「別の意味?」
「追儺って判るか?」
「ツイナ?」
「鬼やらいは?」
「よく判らん」
「要は節分の豆まきや」
「ああ、あれな。『鬼は外、福は内』とか言うて豆をまいたり、最近では恵方巻きも食べるで」
「それや」
「どれや?」
「『鬼は外、福は内』って奴や。その鬼ってのが、疫病を表してるんや」
「そうなんか?」
俺は目を丸くした。
「元々は年の瀬に疫鬼を追い払う宮中行事やったんや。その昔は、姿は見えず、大量に人を殺す疫病は、鬼の仕業と考えられていた。その鬼を払うて、平隠な一年を迎えるいうのが、追儺という行事やったんや」
「そう考えると、『鬼滅』て、もろにそんな内容やなあ」
「皆で力を合わせて、鬼を滅する為に命掛けで闘う、これは今現在のコロナウイルスに対抗して闘う俺達そのものの投影に見えるんや。きっと皆もそう感じているからこそ、この作品にハマってまうんやろな」
「何としても、勝ちたいな」
「全集中や」
俺と空海はそう言いつつ、マスクを着け直した。
ジ〇ンク堂から出て来た所で、空海が大きく息をついた。
「何や、溜め息なんかついて」
俺の言葉に、空海はもう一つ溜め息をついて言った。
「ワクチン射つって、鬼〇辻〇惨の血を飲んで鬼になるみたいな感じやなと思てな」
「成程。鬼の血を体内に入れて、鬼の力を手に入れるっちゅう事やな」
「鬼にならんと、鬼には勝てんのか?」
「だから〇治郎や〇豆子みたいに、心を持ったまま鬼の力を利用したらええんちゃうか?」
俺の何げない言葉に、空海は目を丸くした。
「そうか。そう言う事やな。仏性は変わらヘんしな」
空海は何やら一人で頷いている。
「何や空海、その反応は?」
「いや、やっぱり弘史はええ漢や」
空海はそう言って笑った。
20201213




