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空海なら、現代日本で何をする?  作者: 宝蔵院胤舜
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ラーメン屋

空海は、現代日本で何をする?



ラーメン屋



平成二十六年(2014)三月中ば頃。

マスコミは「ホワイトデー」などと言ってお祭り気分を盛り上げようと血道を上げているが、世の男どもはそれほどマメではない。かく言う俺も、アキちゃんへのホワイトデーの事は、何も考えていない。

今日はバイトも休みだったので、何とはなしにテレビをつけた。朝十時を回っていたので、どのチャンネルでも芸能ニュース的な番組ばかりで、『アナと〇の女王』で松〇か子の吹き替えの歌の完成度が高く、世界的に注目を集めている、みたいなある意味どうでもいいようなニュースが何度も流されている。

そんなテレビをぼんやりと見るともなく見ていると、

「今日の北海道の朝はマイナス6度でした」

というアナウンスと共に、池から水烝気が立ち昇る映像が流されていた。いかにも寒そうな映像である。

それを見て、俺はふと思いついた。

「なあ空海、ラーメン食べに行かへんか?」

俺は、部屋の隅であぐら(結跏趺坐)で座っている空海に声を掛けた。

「何や弘史、どしたん急に」

「今な、テレビで北海道の話しが出ててな、それ見てたら何やめっちゃ行きたくなったんや」

「あ、もしかして…」

「そや。『北〇ラーメン』や。去年の秋頃に行った時、何かゴタゴタして、何や全然食べた気がせえへんかってん」

「第十五話(『少女』)参照って奴やな」

「何かそんなんが続いてるな」


俺達は地下鉄海〇線に乗って、ハー〇ーランドへやって来た。「おしゃれな街 神〇」の発信地のひとつであり、三月中ばともなると、ひと足早い春休みを謳歌する大学生を中心とする観光客が多くなる。駅の改札を出ると、結構な人出で混雑している「デュオ神〇」という地下街を、所謂複合商業施設である『ハー〇ーランド』へ行く「浜の手」ではなく、高速神〇駅のある「山の手」へ向かう。

デュオ神〇の高速神〇駅近くに、お目当ての「北〇ラーメン〇龍」がある。昼飯時を外して来たのだが、店内はほぼ満席である。ただ、丁度一組の客が食べ終わった所で、入れ換わりで席に着く事が出来た。

「俺、こないだ何食べたかよく覚えてへんねん。多分醤油やと思うんやけど」

「醤油ラーメンのやきめしセットやったで」

「やっぱり。俺、大体は醤油頼むんや」俺はメニューを見ながら言った。「でもな、たまに味噌バターが食べたなんねん」

「何でも好きな物食べたらええやん」

空海が笑いながら言う。

「そう言えば、空海って注文する時、あまり迷わへんな」

「料理も一期一会や。これと思たら迷う事無いな」

「俺結構迷うなあ。色んなもん食べてみたいしなぁ」

「で結局最後は定番の奴を頼んでまうタイプや」

「いや実際良くあるパターンや」

そこへ店員さんが注文を取りに来てくれたので、空海は海鮮ちゃんぽんセット、俺は宣言通り味噌バターセットを頼んだ。カウンター越しの厨房では、中華鍋から勢大に炎が上がっている。『鍋振りラーメン』という奴だ。

「それにしても、不思議な食べ物やなラーメンて」

空海が感慨深げに言った。

「何がや?」

「ラーメンて、カテゴリー的には『中華料理』やろ?でも、実際の中国の料理とはかなり違うやん。でもやっぱり存在としては『中華料理』なんやな」

「日本人てそんなん多いよな。オリジナルから離れないようにしつつも、日本独特の物にしてしもて、結局はオリジナルを越えてまうみたいな」

「まあ、美味しければ何でもええんやけどな」

そうこう言っているうちに、ラーメンが出て来た。

「さてと、頂こうか」

そう言いながら上着を脱いだ空海を見て、俺は笑ってしまった。

「そのTシャツ着て来たんかいな」

それは、俺が数年前に須〇海岸の海の家で買った『焼き肉た〇ら』のスタッフTシャツだった。

そこへ、この店の女性店長が俺に声を掛けて来た。

「こんにちは、お久し振りのご来店ですね」

「本当にお久し振りです。以前はかなりの頻度で来てましたもんね」

「しばらくお顔見えヘんから、何か心配してしもて」

「すいません。またちょくちょく来させて貰います」

「あっ、別に気にしいひんで下さいね」店長は笑った。「何時でも好きな時に来て下さいね」

「去年の秋頃、久し振りで来たんですけど、あの時は何かバタバタしてて、ゆっくり出来ひんかったんです」

「はいはい。あの時もお二人でしたね?」

その店長の言葉には、空海が答えた。

「はい、そうです」

「あの、それで、ちょっと失礼な事お聞きしますけど…」

店長が言いにくそうに空海に尋ねて来た。

「何でもどうぞ」

「あなたは、飲食業界の方ですか?」

「へっ?」

これは、俺の口から出た間抜けな声だ。

「いいえ、違いますよ」空海は冷静に答えた。「良く間違われるんですが、私は僧侶です」

空海は言いつつ、頭のタオルを外してスキンヘッドを見せた。

空海の答えを聞いて、店の従業員全体に驚きと納得の空気が流れた。

「そうだったんですね」店長が笑顔で言った。「以前来られた時に、店の中でもの凄い話題になってて。板前さんかなあとか。で、今日『焼き肉た〇ら』のシャツ着てはるから、やっぱりお店してはる方かなあて。すいません」

「何も謝る事ではないですよ」

空海も笑って言った。

「空海、この際何かお店持ったらどうや?」

俺がそう言うと、空海は小さく首を振った。

「料理は、こういう美味しい店に食べに来るのが一番や」




20190825

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